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7番目の勇者  作者: モダろいしヒト
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『ドラゴン de アレコレ。』

アッシュが目覚めたのは3日後の朝だった。


アッシュはベッドから上半身を起こし、一つ咳をした。

まだ、頭が朦朧としている。


頭が朦朧としているからなのか、朦朧が頭しているからなのか何なのか………………、どうにも自分の部屋がお花畑に見える。


?????????


「あ、おはよ。やっと起きましたねぇ。」


「あぁ、おはよう、リリア。」

思考を介さず自動返事で答える。


?????????

お花畑に妖精が飛んでいる。



目覚めた体に徐々に脳が追い付いて来る。

…………、部屋がお花でいっぱいだ。


アッシュはまだボンヤリした顔でリリアの方を向き、部屋の花を指差して問う。

「何コレ???」


「アッシュが寝てる間に村の人達がお見舞いに来てくれてたんだよ。」


よく見ると飾られた花には子供の字でメッセージカードが付いている。


「はやくよくなってね。」

「ひつさつわざかこよかた。つよかた。こんどおしえて。」

「ドラゴンお兄さん、早く元気になって下さい。」

「大きくなったらわたしアッシュとケッコンしてあげる。」

「ゆうしゃザウスつよい」

「あっしゅせんせえ。げんきになったらぼくおでしにしてください。」


皆の思い思いのメッセージカードが沢山あったが、どれもアッシュの目覚めを待ちわびる内容ばかりだった。


「良かったわねアッシュ先生、結婚相手が見つかって。」

リリアがからかう様に言う。


「てか、ドラゴンお兄さんて。それじゃ俺がドラゴンじゃないか。親父宛てのも有るし。」

アッシュは照れを隠しながらツッコミで返す。


大分頭がハッキリしてきた。

よく見るとお見舞いは花だけでは無かった。


アッシュの使っている机には色々な瓶が置いてあった。


左から、ラデックス松の実、ラデックス松の実、ひとつ飛ばしてラデックス松の実。

飛ばした所にはアグラーが有った。

(※アグラー:アグル草を煮出して作る液体状の回復薬)


瓶の贈り物も沢山あったが、殆どが「ラデックス松の実」か「アグラー」だった。


(滋養強壮に回復薬ね……………、実用的。こっちは大人達からか。)



とりあえずラフな格好に着替えると、ラデックス松の実の入った小瓶の蓋を開てザラザラと適当に口に入れ、ボリボリ咀嚼して、アグラーで一気に流し込んだ。


「にっげぇ。あ゛~コレコレ、やっぱ効くわぁ。」


アグラーの回復力は抜群なのだが、いかんせんどう味付けしてもメチャクチャ苦い。

それはもう、苦くて苦しい。


パァン!

唐突にアッシュが右手で自分の左頬を叩いた。

「ウッシ!!」


気合いを入れるとアッシュはまず、アルメリアにザウスが居なくなった経緯を話し、これから親父探しと来魔封じの旅に出る胸の内を語った。


アルメリアの返事は「晩御飯までには帰って来るのよ。」だった。


天然なのか、冗談なのか……………………。

どこまで本気なのかはよく分からなかったが、アッシュはそれを「了解」と受け取った。


アッシュはとりあえず外の空気が吸いたくて、家を出た。

久し振りの太陽が眩しい。


玄関先で深呼吸しながら体を目一杯伸ばす。


アッシュの家の前で遊んでいた子供達がそれを見て指を差して口々に言う。

「あ~、アッシュだ。」「アッシュだ。」「必殺技だ。」「起きた。」「ドラゴンだ。」「お兄ちゃんだ。」


「ちょっと、そこのボクちゃんお嬢ちゃん。誰が必殺技でドラゴンだ!グオォオォォオオォ!!」


アッシュは両手を挙げ、指先をドラゴンの爪の様に立てて子供達をお追いかけ回す。


子供達はキャッキャキャッキャと逃げ回る。


その騒ぎを見てアッシュの目覚めに気が付いた村の人達がどんどん集まって来る。

大人達は皆微笑まし気にその光景を眺めていた。


大人達の視線に気付きアッシュは何だか気恥ずかしくなり、ドラゴンをやめる。


「ねぇ~お兄ちゃん、もっとやってよ~。」

「やって、やってぇ~。」


袖は引っ張られるわ、足にはしがみ付かれるわでアッシュは回復早々、クチャクチャにされた。


「アンタ意外と子供ウケすんのねぇ。」

リリアがクスクス笑いながら言う。


「ウルセェ、子供ってドラゴンより怖えぇ。」

リリアに聞こえるか聞こえないか程の声でぼそりと言う。



そこへ村長がやって来る。

「おぉ、アッシュよ。お前さんが目覚めるのを皆待っちょったぞ。さぁさ、こっちゃ来い。」

そう言って村長は椅子を用意する。


「お前さんはここに座って、ちと待っちょれ。」

アッシュを半ば強引に椅子へ座らす。


「さぁ!皆の衆、村の英雄アッシュが目覚めた。ちょうど昼前ぢゃし、腹も減ったろう。皆でアッシュを囲み宴にしようぢゃないか!!」


村人達は皆大喜びで宴会の準備をする。


各々の家からテーブルを運び出し、アッシュの前にどんどん並べる。

テーブルクロスを掛け、次々と料理が並べられる。

まるで事前に用意していたかの様な手際の良さだ。


アッシュは村長に言われたまま、ただ椅子に座っているだけだった。


あっという間に宴の準備が整い、皆の手には酒やジュースの入ったグラスが行き渡る。


「え~、では宴会の前に村の英雄アッシュさんより一言頂きまっしょ~ぅ!どうぞっ!!」

村一番のお調子者カールが誰に頼まれるでも無く進行役を勤める。


「えぇっ!?えぇ~、まぁ…………え?急に言われても…………あ~、まずは、俺が倒れてる間に見舞いに来てくれた皆、有難うございました。お陰様でこの通り回復しまして…………。」


「どぅしたぁ、堅いぞ!」

「ワハハハハッ。」

からかい野次で笑いが起こる。


「………………あの、俺、親父が居なくなって、色々考えて、きっと来魔が関係してて。だから俺、親父探しと来魔封じの旅に出ます!!」


村人達から拍手と共に歓喜の声が上がった。

「いいぞ~!」

「頼んだぞ~!」

「行ってこ~い!」

「ヨッ、勇者!待ってました!!」

指笛で盛り上げる者も居る。


「て、事でカンパァ~イ!!」

進行役のカールが締める。



宴会が始まると、皆アッシュと話そうと周りに集まって来る。

「後で南門見に来てくれよ、もう半分以上修復したんだぜ。」

「門にはドラゴンの血を塗る予定なのですよ。私の研究によれば、ある程度のモンスターはドラゴンの血の匂いだけで近付かないのですよ。これは私のアイディアなのですよ。」

「アッシュの剣見ても良いか?あの時のアレどうやって出したんだ?」

「アッシュこれ見てくれ、ドラゴンの骨から削り出した新しい閂よ。鉄より固てぇぜ。」


村人達が代わる代わる話し掛ける中、村長が何やら持って来た。

「アッシュよ、わしからお主にこれをやろう。」

そう言って取り出したのは、兜?と剣だった。


「この兜はな、工事用のヘルメットを改造して作った、工事の兜ぢゃ。」


「は、はぁ………………、」

(何だそれ。ヘルメットに装飾が付いてる様にしか見えない。)


「こっちはな、わしが若かりし頃鍛冶職人をしていた時に徹夜で鍛えた徹夜の剣ぢゃ。」


「へ、へぇ~………………、」

(しょ、正直、どっちも要らない。)


「工事の兜と徹夜の剣、これさえ身に付ければそれはもぅ鬼神のごとき、否、魔神のごとき力が。」


「さぁ~さ、どいとくれ!どうせそんなのアンタが趣味で作ったガラクタじゃないのさ。」

村長の後から現れたらのは村で服屋を営むニムル婆ちゃんだった。


「何ぢゃと!わしの傑作がガラクタぢゃと!?」

村長とニムル婆ちゃんは幼馴染みらしいが、何年来の馴染みなのかは誰も知らない。


「それよりアッシュにはこっちだよ。」

取り出したのは漆黒の手袋とマントだった。


「これはお前さんが切り落としたドラゴンの尻尾の革から作った手袋。最近の若いのはグローブっちゅ~んかね?あと、こっちはドラゴンの翼幕から作ったマントじゃよ。」


「スッゲ、かっけぇ、あんがとニムル婆ちゃん!」


「さ、着て見せておくれ。」


アッシュはグローブとマントを装着する。

観衆から「おぉ。」と歓声が上がる。


「流石ニムル婆ちゃん、グリップしっかり、肩幅ピッタリだぜ。」

「当たり前さね、赤ん坊の頃からお前さんの服作ったきてやったのは誰だと思ってんだい。」

ウインクしながらニムル婆ちゃんが言う。


「ウシシシシシ。」

村の人達もお互いに自分の服を見せ合い、自慢し合う。


「んじゃ次は俺からだ。」

鍛冶屋のマードックもアッシュに贈り物があると言う。


「俺のはこれだ。」

マードックが取り出したのは短剣と盾だった。


「本当は剣と鎧を作ってやりたかったんだけどな。素材が足りなくてな。」

マードックが苦笑いする。


「こっちがドラゴンの口から吹き飛んだ奥歯から削り出した短剣で、こっちが剥がれ落ちたドラゴンの鱗を張り合わせて作った盾だ。」


アッシュは短剣を腰に差し、盾を装備する。

またしても村人達から歓声が上がる。


アッシュはどんどんステータスが上がって行くのを実感していたが、ドラゴンの素材の色が漆黒のせいで勇者のイメージからは離れていく様な気がした。


アッシュが小声でリリアに聞く。

「何か、悪役っぽくない?」


「そんな事無いわよ。大丈夫、似合ってるわよ、アッシュ大魔王。」


「……………………、オイ。」




「はぁ~いメインディッシュの登場でぇ~す!!」

そう言って、村のお料理おばちゃんこと、エポットおばちゃんが持って来たのは大きな肉の塊だった。


「ドラゴンの尻尾を焼いてみましたぁ~。」

肉汁タップリ、ホカホカのでっかいお肉の登場に、村の男達のテンションが上がる。


村人全員分に切り分けたら一口サイズになってしまったが、その味は宴会を締め括るには最高の一品となった。





宴会も終わり、村人達が片付けをしている中、アッシュはエポットおばちゃんに何気無く聞いてみた。

「おばちゃん、ドラゴンの肉料理なんてどこで覚えたの?」


「あんなの料理って言うか、焼いて少し味付けしただけよ。ドラゴンの肉なんてアタシも始めて見たわよ。」


「え?あぁ、そうなんだ………………。と、とにかく味は最高に旨かったよ。有難うおばちゃん。」

「そりゃ良かった。皆も喜んでくれてアタシも嬉しいよ。」





(村人全員食っちまったぞ。毒とか無かったのかな?)

その晩、アッシュは翌朝村が全滅していない様、祈りながら眠りについた……………………………り起きたり。

浅い眠りを繰り返したという………………。

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