『 「はのでつぇ。」 』
ひとしきり笑い倒したところで、アッシュがザウスに質問する。
「ところで親父、妖精とは一体としか契約できないのか?」
「いや、そんな事は無い。実際、俺もグレンの他に8体と契約している。名前を言っちまうと呼び出しちまうから言わねぇが、大地や水、雷の力を引き出せる妖精も居るな。」
「じゃあ、俺がグレンカ…………、グレンと契約するって事はできるのか?」
「お前はグレンと契約してないから名前を言っても大丈夫だ。要は、1体の妖精が複数の人間と契約できるのかどうかって事だな?」
「あぁ。」
「可能らしいが、複数と契約している妖精とは出会った事が無い。例えばだ、同時に呼び出されたらどうする?」
「あ、」
「それに関しては俺もグレンに聞いた事は有るが、どっちへ行くかは選べるらしい。ただ、どんな感覚なのかは知らんと言っていた。後は、戦闘中に呼び出されたらどうする?相棒を残して消えるのか?妖精達の世界では、信頼関係を貶めたり無くしたりする行為は恥だとさるれているらしい。」
「妖精達は人間と信頼関係を深めて何かメリットがあるのか?」
「俺もよくは知らんが、人間の世界で良い事の為に人助けをすれば生まれ変わる時に上位クラスの妖精になれるらしい。言ってみりゃ、出世みたいなもんだな。」
「リリアもそうなのか?」
「さぁどうかしらねぇ。ワタシは生まれた時には既に人間の世界だったし、精霊界にもほとんど行った事無いから正直出世とか言われてもよく分からないわ。」
「まぁ、俺も妖精の世界の社会の仕組みはよく知らんのだが、多分そうやって出世していくと精霊になれるんだと思う。そうやって、妖精と精霊が暮らす世界が精霊界だ。」
「ザウス貴方、ワタシより精霊界詳しいわね。」
「と言うのも、俺は精霊界に行った事が有る。しかも、精霊とも契約しているし、精霊王と会った事も有る。」
「えぇッ!?」
二人同時に驚く。
「親父、そんな話は初めて聞いたぜ。」
「精霊界の話はしない様にしていたからな。」
「こっからは、奥義にも関わってくる話なんだが、奥義だけは精霊から力を借りているんだ。力を借りるのは同じだが、その契約方法が妖精とは違う。精霊と契約するには、精霊から自身の名前と刻印を貰う事が必要だ。」
「刻印………………。」
「そう。妖精は精霊になると自分の名を授かると言う。そして、その名と刻印を受け入れると契約成立となる。まだ妖精と異なる点が有る、それは精霊は呼び出せないという事、よって複数の人間と契約する事も可能。」
「呼び出せない?」
「基本、精霊は精霊界から出る事は無い。しかし、刻印によって力を送る事が出来る。だから力を貸す対象の側に居なくても良いのだ。まぁ、力を借りると言うよりも、実際は刻印を通して精霊の力を人間側が引き出す感覚に近いんだがな。」
「親父もその刻印を?」
「あぁ。俺と契約したのは雷の精霊だ。精霊の力は強大で、その力を最大限に引き出せれば山や島のひとつ位は軽く吹き飛ぶだろう。」
アッシュは自分が両断した岩に視線を向けた。
「………………………………」
ゴクリ。
アッシュは驚きの言葉を口にしようとしたが、言葉にならず、生唾を飲んだ。
「では、後学の為に奥義も見せてやるかな。」
「親父、奥義って。山が吹き飛ぶんだろ!?」
「それは、力の引き出し方による。今回は手加減して、見せるだけだ。」
ザウスはそう言うと、アッシュから少し離れた場所へ移動し、アッシュの方へ向き直り剣を両手で天に突き上げ、呪文を唱え出した。
「授かりし汝の名と刻印の契約の下、我にその力を示したまえ!」
ザウスの右腕に赤く発光する文字の様な模様が浮かび上がる。
アッシュは直感した。
(あれが、契約の刻印。)
「奥義!!」
そう叫んだ瞬間、ザウスの背後の空間がグニャリと歪んだかと思うと暗黒空間が現れ、そこから骸骨の腕が二本延びて来た。
妙な悪寒が走り、アッシュの胸がざわついた。
(奥義………………?)
骸骨の腕はザウスの体を羽交い締めにした。
「何ッ!!?」
ザウスはまだ事態が飲み込めない。
アッシュの思考はまだ迷っていた。
(奥義?いや、違う何か??いや、これが奥義なのか???)
次の瞬間、暗黒空間からヌルっと黒いフードを被った目玉の付いた頭蓋骨が現れた。
ズズズズズ………………………………
体が闇へと引きずり込まれる。
「アーーーーーッシュ!!!!!」
ザウスの雄叫びが響く。
体は半分以上闇に飲み込まれている。
その叫びを聞いてアッシュはハッとし、全速力で駆け寄る。
走りながらアッシュの目はザウスの視線を捉えた。
首から下は既に闇に沈んでいる。
(ダメだ、間に合わない。)
「はのでつぇ!!」
暗黒空間とザウスは忽然と消えた。
あっという間の出来事だった。
アッシュはあまりの出来事に状況が飲み込めない。
だが、父親の姿が消える瞬間、アッシュの目を見て何かを伝える意志を持って、ハッキリと聞こえた。
「はのでつぇ!!」と。
「アッシュ。」
リリアが側に寄る。
「リリア………………、親父が消えた。」
茫然と言う。
「ワタシも見てたわ。」
「親父は最後にこう言ったんだ。はのでつぇって。何か分かるかい?」
「はのでつぇ…………、ハノデツェ…………、ごめんなさい、分からないわ。」
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……………………………………
……………………
…………
……
「リリア、帰ろっか。」
「うん。…………、ごめんなさい。」
「気にするな、俺にも分からない。それに親父は何かに連れ去られた。死んだ訳じゃない。必ず見つけるさ。」