『今、必殺の!!』
暫くして、アッシュとリリアが明後日から戻って来る。
「こりゃど~ゆ~事だよ親父!」
「やぁ、すまんすまん。お前にひとつ言い忘れた事が有る。それは技を出すタイミングだ。」
「タイミング?」
「いくらリリアがサポートすると言ったとて、技を出すタイミングが合わなければそうなる。それは戦闘中なら尚更だ。だから技を出すタイミングで相棒に合図を送る。」
「あ、技名。」
「御名答。と言っても別に技名じゃなくてもお互いに分かる合図なら何でも良い。」
そう言って、ザウスは左手の人差し指を立てる。
するとグレンカイザーが右人差し指の上に小さな火の玉を作り出した。
続けてザウスが指を2本、3本と順番に立てていく。
その度にグレンカイザーの火球が大きさと威力を増す。
ザウスは指を3本立てたまま、空へ向かって指差した。
それに合わせてグレンカイザーは同じ方向へ火球を放つ。
「そういう事だ。」
ザウスが得意気に言う。
「俺が技を必殺技と超必殺技、そして奥義に分類している事は説明したな。まずは威力で分類しているんだが、必殺技の中にも色々な技が有る訳だ。だから俺は先ず必殺か、超か、どのジャンルの技を使うかを伝える。そして技名だ。」
「奥義は?」
「あぁ、奥義はまた別なんだ。後で説明してやる。で、だ。さっき俺は必殺技の中から火炎斬を選んだ。後はお前が見た通りだ。」
「て事は俺も言うのか?必殺、ナントカカントカって。」
「また吹き飛びたくなければな。」
(……………………、は、恥ずい。)
(年甲斐も無く「超必殺!」って、何か、見た目とか、言ったらカッコイイとか、気持ち良いからとかの自己満足効果的なそ~ゆ~アレで言ってるのかと思ってたぜ。)
「羞恥心は捨てるんだ。」
きっとザウスも初めは同じだったのだろう。
アッシュの考えは見透かされた。
「ある一線をフッ切れば、だんだん気持ち良くなってくる。」
(気持ち悪る。何を言ってるんだこの親父は。………………てか、そっちの効果も有ったんかい!)
「必殺!エアスラッシャー!!だ。」
ザウスは突然そう叫んだ。
アッシュはビクッとした。
最後の「だ。」と言ったのと同時にザウスは親指を立てた右拳をアッシュに向かって突き出した。
その顔はアッシュが今まで見た事無い程の父親の輝く白い歯を全面に押し出した気持ち悪い爽やかな笑顔だった。
「アッシュよ、お前は失敗したってまだマシな方だぞ。」
彼方まで吹き飛ばされて、服も体もボロボロのアッシュには父親の言ってるマシの意味がイマイチよく分からなかった。
どういう意味だろうと思い、ザウスの後ろで仁王立ちのグレンカイザーに視線を向ける。
アッシュと目が合った火の妖精の口元がニタリとする。
……………………ッ!!
「親父、よく死ななかったな。」
「だろ?」
アッシュは父親が火の妖精と技の特訓する姿を想像しながらリリアの方を見る。
(風で良かった。)
そう思うと、いくらか羞恥心が薄らいでいた。
改めてアッシュは岩の前で剣を構える。
「頼むぜ、リリア。」
「はいな、任せといて!」
アッシュは剣を振り上げた。
「必殺、エアスラッシャー。」
リリアからアッシュの剣へと風の力が宿る。
その剣を岩へ向かって振り下ろす。
剣先から真空の刃が放たれ、岩を両断した。
岩を貫通した真空の刃はそのまま100m程地面に傷痕を残し、上空へと消えて行った。
暫しの静寂。
「や、やるじゃねぇか、アッシュ。」
ザウスは驚きを含んだ声で言った。
グレンカイザーも目を見開いたまま固まっていた。
正直、二人は岩に傷が付く程度だろうと思っていたのだ。
まさか、両断とは。
「ま、まぁ、声の出し方はまだまだだったがな。」
グレンカイザーも驚きを隠して声をかける。
(まさか、初弾からこの威力かよ。技としてはまだまだだが、初めてにしてはとんでも無ぇ威力だぜ。あの倅の潜在能力が高いのか、リリアの寄せる信頼が深いのか、はたまた両方か偶然か。)
アッシュは自ら放った技の威力に驚き、興奮していた。
「す、スゲェ…………………。やったな、リリアッ!」
「やったね、アッシュ。やるじゃない。」
そう言ったリリアは肩で息をしていた。
「リリア!大丈夫か!?」
「大丈夫よ。でも、おかしいな?ザウスと練習してた時はこんなじゃなかったのにな………………。」
「張り切り過ぎだぜ。」
グレンカイザーが割って入る。
「妖精てのは、自然界の力に自分の妖力をブレンドして力を引き出すんだ。当然、ブレンドする力がデカイ程強い力を引き出せる。アッシュと初めてってのと、アッシュを想う気持ちが強いのとで無意識に過剰な妖力を注ぎ込んだんだろうぜ。とんでも無ぇ威力だったからな。ホレ、貸してみな。」
そう言うとグレンカイザーは手を延ばし、リリアを掴んだ。
「何をする。」
「だぁ~いじょぶ、黙って見てな。」
心配するアッシュを余所に、グレンカイザーは両手でリリアを包み込む。
その両手が淡い光に包まれる。
アッシュはその光景を黙って見ていた。
暫くして、開いた両手から回復したリリアが出てきた。
「あ、ありがと。」
リリアは恥ずかしそうに、視線を合わさず言った。
「俺からも礼を言うよ。ありがとう。」
アッシュとグレンカイザーは熱い視線を交わした。
………………………………
………………、
「……………………、ぐ!ハァハァ。どうやら妖力を分け過ぎちまった様だぜ。今度は俺が。」
ガクリと片膝を地面に付く。
「え!?何?ちょっと、アンタ、ワタシの為にそんなに力使ったの?」
「おいっ!大丈夫か!?」
「ホラ、今度はワタシがアンタに。」
「止めとけ、せっかく回復してやったのに意味無いぜ。」
「でも、それじゃアンタが!!」
「俺なら大丈夫だ。芝居だから。」
そう言ってグレンカイザーはスッと立ち上がる。
アッシュとリリアは目を点にして茫然とする。
グレンカイザーの後方でザウスが声を殺して笑っている。
「バカ!サイテー!!心配して損したわよ、もう知らない!!」
リリアはそっぽを向く。
「ハハハ、やられたなリリア。」
アッシュは笑って応える。
「ザウス!んじゃ、俺はそろそろ行くわ。」
「おう、助かったぜ。」
「アッシュも、リリアも頑張れや。また会おうぜ。」
「バカー、早くどっか行っちゃえーっ!」
リリアはまだ怒っている。
「会えて良かった、また会おう。」
アッシュはグレンカイザーと握手を交わす。
隣ではリリアが何やらザウスに耳打ちしている。
「じゃ、ザウスまたいつでも呼んでくれ。」
「頼りにしてるぜ、相棒。」
何も無い空間に炎の渦が発生する。
グレンカイザーはその渦に体を飲み込ませて、消えて行った。
グレンカイザーは右腕をぐるぐる回し左手で顎を擦りながらザウスとの久しぶりの再会を懐かしんでいた。
「あ~、久しぶりに妖力使ったなぁ。ザウスの倅もなかなか良い面構えだったし、ありゃ延びるな。リリアってのも、あの小さな体にかなりの潜在能力を秘めてそうだったしな。あと、結構可愛かったな。あの二人の今後が楽しみだぜ。」
………………………………
……………………
…………
アッシュ達との出会いに思いを馳せていたグレンカイザーがふと気付く。
(ん?精霊界の景色じゃねぇ。)
辺りを見回す。
すると、背後に笑いを噛み殺すザウス達が居た。
(????????????)
「ワハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
三人同時に腹を抱えて笑い出す。
「ザウス、またいつでも呼んでくれ。」
アッシュが似てないモノマネをする。
「結構可愛かったな。」
リリアも完成度の低いモノマネを披露する。
「アンタ、ワタシに惚れたんじゃないの?」
笑い泣きしながら聞く。
「う、うるせぇ!何だこれは、どこだここは!!」
「あ!ザウス、てめ、俺があっちに戻った瞬間に呼び出しやがったな!!」
ザウスがリリアと目を合わす。
「あ、リリア!お前が仕組んだのか!!くっそ、仕返しか!!なかなかやるな、覚えとけよ。」
「う~ん。結構可愛かったな。」
リリアが再度モノマネをする。
アッシュとザウスはまた爆笑する。
「くっそ、黙れ!俺は帰る、また直ぐ呼んだら、」
「お前ら、」
「全員、」
「丸焼きだからな!!」
一人ずつ指を差して言う。
「もう呼ぶなよ、分かったな!絶対呼ぶなよ!!」
返事が無いし、何故か全員と視線が合わない。
「呼ぶなよ!!」
再度、念押ししてグレンカイザーは自分の居た世界へ戻って行った。
その後暫くアッシュ達は、グレンカイザーのモノマネを繰り返し笑い転げていた。