『ドウズ一味』
アッシュは一度シュックハックの自室に戻る事にした。
「結局、財布が戻っても中身を落としたんじゃあなぁ………………。」
ハァとタメ息をつきながらアッシュが言う。
「逆鱗?だっけ??あんなゴツゴツした鋭利そうな物入れてるからよ。」
リリアが呆れた様に言った。
自室に戻る道中、『お金が無い』と思うと余計に出店の商品が旨そうに見えてくる。
「ハァ、腹減ったなぁ。」
「またモンスターでも退治してジェムで稼ぐしかないわね。」
リリアの厳しいツッコミ。
靴の中に隠し銭がいくらか有るには有るが………………、
使う程の事でも無いしなぁ………………。
何かすぐにお金になりそうな仕事がないかと辺りをキョロキョロするアッシュ。
すると雑踏の中に見覚えのある人影。
ドウズさんだ。
「ドウ!……………………」
アッシュは声を掛けようと右手を挙げ、ドウズの名を叫ぼうとしたが声を急停止して即座に右手を下ろし人影に身を隠す。
呼び止めようとした瞬間、ドウズの周りを見知らぬ連中が取り巻いているのが目に入ったからだ。
アッシュはドウズに気付かれぬ様、人影に隠れながら様子を窺う。
一番目立つのは褐色の肌のガタイの良い長身の男。
続いて足を引きずる様に歩く杖をつく義足らしき男。
ドウズの背後には赤いロングコートを着た右目が眼帯の男。
小柄で気付かなかったが、ドウズの前を歩く小太りで小さな丸レンズの黒眼鏡を掛けた男も居る。
(いかにも悪党って感じの連中だな。)
(商売事でドウズさんと何かトラブったのか?)
(どうする、助けに入るか?)
(様子を見るか?)
アッシュは葛藤しながらとりあえず密かにドウズの後を付ける。
暫く尾行をしていると、ドウズ一行がとある建物へと入って行く。
入り口には
『酒場 Bacchusa』
の看板。
(さかば…………バチューサ?バチュッサ??)
「分からん、読めん。」
アッシュは脳内で読んでみたが読み方が分からずにボソリと呟く。
(とにかく酒場の様だな。)
看板に気を取られている内にドウズ一行が酒場の奥へと消えて行く。
慌てて後を追うアッシュが店内へ入るとミニスカートで胸のボリュームを強調するデザインの服を着た女性に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ~、バッカサへようこそ!空いている席へどうぞ~!!」
アッシュはそこで店の看板は『酒場 バッカサ』と読むのだと理解した。
アッシュは見失ったドウズ一行を探す為、店の奥へと急いだ。
店の一番奥まで行くとボックス席が並んでおり、そのひとつに陣取るドウズ一行を見つけた。
アッシュは咄嗟に空いていた隣のボックス席へと滑り込んだ。
仕切り壁の向こうではドウズ達が何やら話をしている。
(ボソボソは聞こえるが何を言ってるのか分からない。)
アッシュは壁に耳を当てて何とか会話を盗み聞きしようとする。
「いらっしゃいませぇ~、ご注文は何にされますかぁ~?」
「注文!?注文…………、あ、えぇ~注文。」
入り口に居た女性と同じ服装の別の女性に甘ったるい声で話かけられて焦るアッシュ。
まず、何が注文できるのか把握していないアッシュは困って一瞬女性店員の方へ視線を向けると、注文を書き留めようとメモ紙に鉛筆を立てて小首を傾げてこっちを見つめるクリクリの大きな瞳と視線がぶつかった瞬間、
ガンッ!!
余計に焦ったアッシュの右足が勝手に動いて、膝をテーブルの下に打ち付けた。
「イッテ、あ、あの……あ、クリーム。クリームソーダひとつ下さい。」
「クリームソーダおひとつですね。かしこまりました。」
そう言うと、女性店員は厨房の方へと戻って行った。
「ふぅ~ん。アッシュはあ~ゆ~子がタイプな訳ねぇ。」
リリアが耳元で囁く。
「ちっ、違ぇよ!!」
本心はどうであれ、アッシュは反射的に否定した。
「と、とにかく!!リリア、こないだのアレやってくれ。」
「こないだのアレ??」
リリアにはいまいちピンとこない。
「あの、ほら、離れた場所の会話が耳元で聞こえるやつ。」
「あぁ、アレね。」
「アレで隣のドウズさん達の会話を…………」
「盗み聞きするのね。」
リリアはウインクしながら言う。
「言い方ッ!偵察だよ、偵察。」
リリアの能力でドウズ達の居る隣の空間とアッシュの耳元が見えない通信手段で繋がる。
アッシュの耳元でボソボソと隣の席の会話が聞こえ始めた。
「……………………で、見付かったのか?」
「いや、見付からなかった。」
(あ、ドウズさんの声だ。)
アッシュはドウズ以外の男とは面識が無い為、声だけでは誰が喋っているのかが壁越しには判断が付かない。
「何だよ。見付からなかったのか?奴の村まで行ったんだろ??」
「行ったが、居なかった。…………というか行方不明らしい。」
「じゃあどうすんだよ!?」
「てか、『行方不明らしい』って誰からの情報だよ。」
「本人は居なかったが、代わりに息子に会う事が出来た。情報元はその息子だ。」
「で、その息子は親父が行方不明になった後どうしてんだよ。」
「そうだぜ、来魔の時期だからてっきり親父が姿を現す絶好チャンスだと思ってお前を向かわせたのに。」
「実はな、その息子を連れて来ている。」
ッッ!!!???
全員がざわつく。
壁に身を潜めて声だけを聞いていたアッシュにも明らかに男達の空気が変わったのが分かった。
「クリームソーダ、お待たせ致しましたぁ~。」
ビクッ!
ガンッ!!
「ぁ痛ッ!!」
ウエイトレスの声に驚いたアッシュはビクついた反応でまたも膝をテーブルに強打した。
「お客様、大丈夫ですかぁ~?」
アッシュは視線と手振りで『大丈夫』と伝えた。
アッシュはクリームソーダをストローから一口飲むとまたドウズ達の会話に耳を傾けた。
「息子かぁ。」
「この際息子に『借り』を返すってのはどうだ?」
「それもアリかも知れんな。親父には散々『世話』んなったからなぁ。なぁ、オイ??」
「確かに。今でも思い出す度にこの無いハズの左足が疼きやがるぜ。」
アッシュは会話の内容から、この声は義足の男の声だと判断できた。
「俺もこの右目が今でもチクチクしやがんだよ。」
(こっちは眼帯の男か。)
「しかしよ、その息子ってのは金持ってんのかよ?」
「金なんかど~だってイイ。なぁボス、アンタはどう思うよ?」
「要は俺達が納得できる様に『借り』を返せれば良いだけの事よ。」
ボスと呼ばれた男の声がする。
義足と眼帯とドウズさんの声は分かっている。
残りは褐色の長身か小太りの丸眼鏡か………………。
(どっちがこの連中のボスだ!?)
アッシュは思考を巡らす。
「で、いつ『やる』んだよ。」
「今晩だ。」
とドウズの声が聞こえた。
会話の内容から『息子』とは明らかに『自分』の事だとアッシュは理解した。
アッシュは男達が席を発つより先にクリームソーダのグラスの下に靴の中に隠しておいたお札を挟み店を出た。




