『引き出せ、グレンカイザー!!』
リリアと再会したその日、二人は色々な話をした。
リリアを助けた頃の話。
アッシュの心が成長と共に物語と現実の区別がつく様になり、妖精や魔法等は存在しないと思うようになった話。
リリアが見えなくなった後の話。
妖精には色々な種類が存在し、各々自然界の力を引き出す能力に長けている事。
その中でも、リリアは「大気の力」と「癒しの力」を引き出す事が得意な事。
しかし、癒しの力は先天的な能力ではなく、アッシュの為に独学で身に付けたらしい。
今までアッシュの怪我や病気の治りが早かったのはリリアの力のお陰だったのだ。
妖精は契約を結んだ相手に自分の力を貸す事も出来るらしい。
相手が妖精に名前を付け、妖精がその名前を受け入れれば契約成立なのだとか。
話は尽きなかった………………………………
翌朝、アッシュは剣を持ってザウスの前に現れた。
「親父、技、教えてくれよ。」
ザウスは何も言わず、アッシュの左肩の上ぐらいに視線をやる。
リリアは黙ってコクリと頷いた。
「分かった、じゃあ今日はオノノの丘へ行こう。」
「オノノの丘」、そこは家から歩いて2時間程。
グサランタスの森を抜けて、ラデックス松の湖の水辺を迂回する。
アッシュはいつもここでラデックス松の実を採って食べる。
滋養強壮効果が有り、疲れが多少回復するのだ。
湖を過ぎた後はキレミリィの谷に架かるドルスネンの石橋を渡れば、その先がオノノの丘だ。
時折、アッシュ達はここまで来て剣術の稽古をしていた。
人気が無く、実戦稽古には都合が良かった。
二人は丘の中程までやって来ると丁度昼頃だったので昼食をとる事にした。
アルメリアが持たせた握り飯を食べながら、ザウスが語り出した。
「これからお前に技を教える訳だが。俺は技の威力や段階分けの為に必殺技とか、超必殺とか、奥義と呼んでいる。これらは到底人間技ではな無い為、他からの力を必要とする。それが妖精や精霊の力という訳だ。」
アッシュはチラリとリリアを見る。
「お前は既に妖精が見えている訳だが、と言うか俺がそう仕向けたんだが…………まぁ、当然俺にも契約した妖精が居る。まぁ、説明するより見せた方が早いだろう。」
そう言うとザウスが突然叫んだ。
「グレンカイザー!!」
まだ握り飯が口に入っていたのか、米粒が飛び散る。
アッシュは密かに思う。
(喰うか喋るかどっちかにしろよ。)
突如、空中に火の玉が発生。
火が集まりどんどん大きくなったかと思うと、炎の中から真っ赤な髪に上半身裸、下はジーンズという出で立ちの細身で長身の男が現れた。
その男は首を2、3度左右に曲げ、ボキボキと音を鳴らすと「よぉ、ザウス。久しぶりだな。」と言った。
(グレンカイザー、こいつが親父と契約した妖精。……………………、と言うか凄いネーミングセンスだ。)
「俺じゃねぇ。契約してやるからこの名前を付けろとコイツが言ったんだ。」
アッシュの思考を読んだかの様に、そして今まで幾度と無く同じやり取りがあったのだろうと察するにた易い絶妙で滑らかな間でザウスが言い訳をする。
グレンカイザーがジロリとアッシュを睨む。
「そいつがあんたの倅かい。随分と矮小な相棒連れてんなぁ。」
「ちょっ、アンタねぇ!」
リリアが喰ってかかる。
「よく言う。お前さんも最初は似た様なもんだっただろ。」
「俺をあんな吹いて飛びそうな奴と一緒にすんぢゃねぇ。」
「俺は炎を司る最強の妖精、お前が俺をグレンカイザーと呼ぶなら契約してやっても良いゼ?」
ザウスは突然子供みたいな喋り方でそう言うと、グレンカイザーが慌て出した。
「ちょ、おま、止めろ!」
「俺にとっては初めての妖精だったし、なにせ″最強″だったから契約したんだが。」
「止めろ恥ずかしい、最強とか言うな!」
「旅の最初の頃は夜の焚き火の火付け役か、ダンジョンの照明ぐらいにしか役に立たなくてな。」
「分かった、分かったって!ヤメレ、ヤメレ!」
「少なくとも、今のリリアは弱いながらも風の力と治癒の力を引き出す事が出来る。当時のお前より役に立つな。かつてお前がそうだった様に、人と妖精は互いに鍛練し、絆が深まれば強くなれる。」
グレンカイザーはリリアに近付き
「馬鹿にして悪かった。……………………頑張れよ。」
と声をかけた。
「な、何よアイツ、急に。意外と素直じゃない。」
「で?今回は何の用だい。」
「息子のアッシュに剣技を見せてやりたくてな。」
「お、久々。」
「お前は直ぐに調子に乗るからな。どんなモンか見せるだけだ、手加減せぇよ。」
「わぁ~ってるって。」
ザウスが、適当な大きさの岩を選んで前に立ち、剣を構える。
グレンカイザーもザウスの後に付く。
「必殺!火炎斬!!」
(えぇ~、あの歳で必殺て……………………)
アッシュはやや引き気味だった。
ザウスが岩に斬りかかると同時に剣が炎に包まれ、斬撃を受けた岩は真っ二つに割れ、炎上する。
振り向きながら剣をひと振りし、刀身に残った炎を散らし消す。
「と、まぁ、こんな感じだな。」
アッシュは剣だけではおよそ到達出来ないその破壊力と見た目に圧倒される。
そんなアッシュを尻目にザウスは続ける。
「で、だ。技を昇華していくとこうなる。」
まだ炎上している岩に構え直す。
「超必殺!爆炎剣!!」
今度は刀身がマグマの様な色に染まる。
ザウスはそのまま剣を岩へと突き込み、引き抜くと同時に後方へ跳んだ。
その刀身からはマグマ色が消えていた。
ザウスが着地し、ほんの僅かな静寂の後、岩がマグマ色になったかと思うと爆音と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
「まぁ、技の種類や威力は肉体や精神の鍛練、お互いの信頼や絆の深まり、突然コツを掴む等の要因で増えたりするが、基本は同じだ。妖精の力を借りて呼吸を合わせる、コレだな。やってみろ。」
「な、、、やってみろって言われても…………」
「大丈夫、リリアを信じろ。お前は剣を振り下ろすだけで良い。後はリリアがサポートしてくれる。」
「任せといて!この日の為に密かにザウスと練習してたんだから!!」
(んじゃ、密かにしないで俺としろよ。)
アッシュは言葉を飲み込んだ。
「よし!」
ザウスのより大分小さいが、アッシュも岩に向かって剣を構え、一呼吸置いてから言われた通り剣を振り下ろした。
「あ、わっ、ちょっとま」
慌てたのはリリアだったが、その手からは既に風の力が放たれていた。
ゴォォという風音と共に、アッシュがキリモミ回転しながら彼方へ飛んでいく。
「アッシューーーーッ!」
リリアがそれを追いかける。
「あ、やべぇ。技の名前言わせるの忘れてた。」
そう言ったザウスの隣で、グレンカイザーは目の上に手を当ててアッシュの行き先を目で追った。
「あぁ~あ、ちゃんと教えてやらねぇからお前の倅、明後日の方向に飛んでったぞ。ありゃ死んだかもな。」
グレンカイザーは半笑いで言う。
「なぁ、明後日ってあっちに有んのか?」
「………………、知るかよ。」
「果たして、アッシュは生き延びる事が出来るのか!?明日はどっちだ!!」
グレンカイザーが怪訝そうな表情でザウスを見る。
「何言ってんのお前???」