『岩石を倒す布石』
アッシュの鳩尾に鈍い痛みが走る。
「な……に、右のパンチだ、と!?」
態勢こそ崩れたままのパンチだったので、あまり威力は乗らなかったがアッシュのメンタルを乱すには充分な威力だった。
(何故だ、右腕は砕き落としたハズ。)
砂煙で状況が把握出来ない。
「リリアッ、風だ!風で砂煙を吹き飛ばせ!!」
リリアはアッシュの回復を一時中断し、直ぐさま大風で周囲の砂煙を吹き飛ばす。
視界の回復したアッシュが見た光景は、岩石猿から砕き落とした石が意思の有るかの如く転がりながら、本体と再結合していく様だった。
『再生能力』
そんな言葉がアッシュの脳裏をよぎる。
「そうだ、再生能力だ。確かモンスター図鑑にそんな記入があった。」
(何故もっと早く思い出さなかった。)
アッシュは己の未熟さに、下唇を噛み顔を歪めた。
(クソ、クソ、クソッ!!砂煙は俺への目眩ましでは無く再結合を悟られない為の煙幕だったか。)
つい先程まで、攻めに攻めていたのはアッシュだった。
しかし、左腕まで再生した岩石猿に比べ明らかにダメージが残っているのはアッシュの方だった。
『無駄』
それは、役に立たないこと。それをしただけの甲斐が無い事。また、そのさま。無益。
これまでの攻撃が無駄。
これから先の攻撃も無駄。
策を労するのも無駄。
体力も無駄。
全て無駄。
残るのは己への蓄積ダメージのみ。
そんな考えがアッシュの思考を支配してゆく。
ピシャンッ!!
呆然とするアッシュの頬をリリアがその小さな掌で張り付ける。
「アッシュ、しっかりしなさい!アンタがここで負ければメバンニ村の人達はきっと襲われるわ!アイツを倒してクリームソーダ奢ってもらうんでしょ!?」
リリアの気付けにハッとし、アッシュの目に再び焔が宿る。
「そうだぜ、クリームソーダ奢らせる約束だったぜ。破る訳にはいかねぇよな。」
(考えろ、考えるんだ。)
ドーン!!
また単調なパンチ攻撃が始まる。
アッシュは回避しながら、攻略法に思考を巡らせた。
(思い出せ、モンスター図鑑を。)
ボッ!! ボボッ!! ガインッ!!
右左のワンツーパンチを躱して、二撃目を盾で防御する。
『岩石猿』
岩や石で形成された猿の様な怪物。
知性が認められ、少なからず戦術を駆使し攻撃する。
主に躯体を丸めての突進攻撃と拳での攻撃が強力。
道具を使っての攻撃も確認。
体の組織は砕き易いが再生能力を有し、何度でも結合する。
体の中枢部に核となる紺碧の石が有り、それを破壊すると再起不能となる。
(『再起不能』これだ!中枢部が現れるまで砕いて、核を破壊する!!)
倒せる兆しが見えたアッシュが再度猛攻に出る。
回避して反撃。
相手の攻撃パターンは解析済みだ。
アッシュはひたすらに岩石猿の体を砕きまくる。
砕いた先から岩石猿の体組織は転がりながら本体へと集まって来る。
回避、攻撃、回避、攻撃を繰り返す中、アッシュには気付いた事がふたつ有った。
『岩石猿は本体から砕いた石以外とは結合出来ない事。』
そして、
『砕かれた石が本体へと集まる速度があまり速く無い事。』
「リリアッ!」
アッシュは回復に専念していたリリアを呼ぶ。
直ぐさまリリアがアッシュの顔近くまで寄って来る。
「ひとつ頼みたい事がある。」
そう言って、アッシュはリリアに何かを伝えた。
「え?でも、それじゃあアンタの回復は?」
「ここまで回復してくれりゃ充分だ。助かったぜ、アリガトな。後は奴を倒すだけだ。頼んだぜ相棒。」
「相棒って………、」
リリアは少し照れたが直ぐにアッシュの指示に従いアッシュの元を離れて行った。
「さぁ、来やがれ。お前を倒す手筈は整ったぜ再生ヤロウ。」




