『チャンス到来! からのぉ、痛恨のギシ。』
アッシュは岩石モンスターが追跡して来ているのを確認するとお婆さん達に無事を祈り、再度荷台の屋根へ登って行った。
「ドウズさーん!」
「何だぁ!?」
「お婆さんと女の子、無事にメバンニ村まで頼みます。俺はここで奴を倒して後から追い付きますから!!」
「応よ、必ず来いよ!無事にメバンニ村までたどり着いたら酒でも奢ってやるぜ。」
「俺、酒飲んだ事無いっス!!」
「んじゃ、ミルクにしとけ!」
「俺、ミルク嫌いなんス!」
「知るか、バカヤロウ!とっとと倒して来やがれ!!」
「クリームソーダでお願いしまあぁぁぁぁーーーーーっす!!!」
言うと同時にアッシュは荷台の屋根から飛び出して行った。
「子供か。」
ドウズはボソリと呟いた。
ドウズのホロ馬車は真っ直ぐメバンニ村を目指した。
(頼むぜ、アッシュ。)
ダンッ!!ズザザザ。
荷台から飛び降りたアッシュが土煙を巻き上げながら地上に立つ。
「さて。」
アッシュの前方から巨大な岩石が転がり迫る。
勢いが弱まる気配は無い。
アッシュは両腕で剣を鞘ごと前面に横一文字に構えた。
「アッシュ、何する気よ。」
「力比べよ。」
「アッシュあなた、まさか。」
「受け止める!」
「無理よ!」
ゴロゴロゴロゴロ………………
ドズゥゥゥゥンンン。
「承知ぃぃンんん、ぎ、が、ぐぐ。」
ファーストコンタクトで早くもアッシュは片膝を地面に付きかけたが堪えた。
ズザザザザァァァァーーーーーーーーーー
アッシュは横一文字の構えでモンスターの体当たりを受け止めたまま、地面を引きずられる。
(先ずはコイツの勢いを殺す。)
ギャリギャリギャリギャリ………………
鞘とモンスターとの接触面が激しい摩擦音を上げる。
どれぐらい引きずられただろうか、アッシュは徐々に速度が緩くなってきているのを感じていた。
足の裏からも少しずつではあるがグリップが効いてきている感触が伝わって来る。
アッシュは踏ん張りの効くタイミングをはかり、両の脚に力を込める。
ズン!!
アッシュの全身を重い衝撃が貫く。
「ぐ。」
モンスターの前進は止まったが、まだその場で回転している。
「ん、が。にィィぃイぃいンいィィッ!!」
アッシュはひび割れそうな程歯を食い縛り、踏ん張る。
モンスターの下の地面が刮ぎ取られ、みるみる凹んでいく。
ギャギャギャギャギャ………………
ガリガリガリガリ………………
ギ、ギ、ギ…………カンッ。
遂にモンスターの回転が止まった。
辺りには土煙がもうもうと立ち込めている。
(さぁ、どう出る……?)
相手の出方を探るアッシュ。
ゴリゴリゴリ、ズワッ!!
不意にモンスター本体から腕が二本生えてきた。
ダンッ!ザザザザ。
アッシュは咄嗟にバックステップで距離をとる。
ドーン! ダーン!!
モンスターは両腕で地面を叩き付け、窪みから自身の巨体を持ち上げる。
アッシュはその様子を剣の柄に手を添え、何時でも抜ける状態でじっと構えて見る。
メキメキゴキゴキゴキ。
モンスターの本体からは脚も二本生えてきた。
バキバキ、ドン、ドドン!ゴトリ。
モンスター本体から岩石の一部が剥がれ落ちる。
アッシュは身動きせず、と言うか出来ないままモンスターの形状が変化していく様子を見つめていた。
そこに現れたのは、岩で構成された大きな猿だった。
「が、岩石猿。モンスター図鑑で見た事があるぞコイツ。そうだ、確か岩石猿だ。」
岩石猿はおもむろに自分から剥がれ落ちた岩を掴み、アッシュに向かって投げ付けた。
(速ッ!!)
反射的に左腕に装備していた盾で防御した。
バガンッ!!
岩は盾に弾かれ、砕け散る。
岩石猿は今の一撃で仕留めたと思っていたのか、防御されたのが想定外だっかのか、首をかしげ不思議そうな様子でアッシュを見つめる。
束の間お互いに睨み合ったまま対峙していたが、岩石猿が「キャキャッ。」と短く吼え、突進して来た。
(来なさい、真っ二つにしてくれる。)
剣の柄に添えた手の握力が強くなる。
ドガッ! ドガッ! ドガッ!!
岩石猿は二足で走りながら右腕を大きく振りかぶり真っ直ぐ向かって来る。
(所詮は猿、突進の勢いと体重を乗せたパンチを喰らわせようってか。モーションでバレバレ、至極読みやすいぜ。)
(先ずパンチを避けて、隙だらけの所をぶった斬る!)
敵は眼前、左足に過重移動、腰が捻り右腕が降り下ろされる。
(来た、ここだ!)
アッシュは繰り出されたパンチを掻い潜る様に、態勢を低くしてから相手の右側へスルリと回り込む。
ボゴオオォォォォォンンん!!!
凄まじい破壊力で地面に小さなクレーターが出来る。
だが、ハズレ。
攻撃すべき対象は既に右側面!!
(来たぜ、読み通り!)
「がら空きだぜ、喰らいやがれぇっ!!」
ギシ。
(はぁ!?)