『今、アナタが読んでいる小説は何ですか?』
ポカポカと良いお天気のあるところに、お爺さんとお婆さんと女の子がおりました。
お爺さんは木陰でキセルを吹かせながら、女の子が遊ぶ様子を眺めておりました。
お婆さんは木陰で大好きな、登場人物が美男子ばかりの恋愛小説を読んでおりました。
女の子は野原でお花摘みをして、花冠を作っておりました。
すると、どうやら女の子のお花の冠が完成した様です。
女の子は完成したお花の冠を持ってお爺さんの方を見ると、お爺さんと目が合いました。
その様子を見て、お爺さんはニコリと微笑みました。
女の子はその花冠を自分の頭に載せて、またお花摘みを始めます。
お婆さんはチラリと横目でその様子を見ると、また小説の世界へと戻って行きました。
遠くで何やら音がします。
女の子は急にお空を見上げて言いました。
「あら、雷かしら?」
お空は雲一つ無い青空です。
お爺さんとお婆さんには別段変わった様子はありません。
ドガラッ、ドガラッ!!
お爺さんがもたれていた木とお婆さんがもたれていた木の間を荷馬車が駆け抜けて行きます。
お婆さん「おやまぁ、あんなに急いでどこへ行くのかねぇ。」
お爺さんはそんな荷馬車など気に留める事無く、女の子を見つめています。
バキバキ、ドガァァァァーーーンッ!!
森から飛び出して来た何かにお爺さん、お婆さんが背もたれにしていた大木が吹き飛ばされました。
お爺さん「ぎょえええええッ!!」
お爺さんの入れ歯が飛び出します。
お婆さん「ひぎゃああああああッ!!」
お婆さんの大事な小説が宙を舞います。
お爺さんは咄嗟に起き上がり、女の子へと近付き手を掴んで一緒に逃げようとしました。
女の子「お爺さん、誰?」
お爺さんはニヤニヤ笑っています。
そこへお婆さんがやって来て言いました。
「アンタ、ウチの孫をどこ連れてく気だい!!」
お爺さんは「ヒィッ。」と小さなうめき声を上げて、逃げ去って行きました。
森から飛び出した何かはまだ近くをうろついています。
どうやらさっきの荷馬車を追っているみたいでした。
周囲に掴む木々が無くなり、森から飛び出したモンスターは体を丸めて地面を転がり始めました。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……………………
「あぁーーーーーッ!!」
アッシュがモンスターを指差して叫びました。
「アッシュ、どうした!?」
「さっきのヤツです!森で追って来てたヤツが、山道で谷底に葬ったヤツでした!!」
「マジか、しつけぇモンスターは嫌われっぞ。」
「ドウズさん、嫌いじゃないモンスター居るんスか?」
「ウルセ、居ねぇよ!」
「それより、さっきの森の出口まで戻れますか?」
「どうしたんだ?」
「小さな女の子とお婆さんが居たんです。………………お爺さんも見た様な気がしたけど。その人達を連れてメバンニ村まで逃げて下さい。」
「逃げて下さいって、アッシュお前ぇは?」
「俺はここで奴を倒します。このままだとメバンニ村まで奴を連れて行ってしまう。」
「分かった、あの人達は俺に任せろ。奴はお前ぇに任せたぜ。」
そう言うと、ドウズは馬車を旋回し出て来た森の方へ向かった。
岩石モンスターも後を追う様に旋回して来る。
「お婆ぁさ~ん!!」
アッシュは荷台の屋根から大声で二人を呼ぶ。
(モンスターとの距離はまだ有る。これなら、あの二人を荷台に乗せて発車させてもまだ間に合う。)
先に気付いたのは女の子の方だった。
お婆さんに、馬車が近付いて来る事を教える。
馬車が二人の側まで寄ると、アッシュは牽制に一撃カマイタチを放ち荷台の屋根から飛び降りた。
「さぁ、二人共早くこの馬車に乗って下さい。モンスターが襲って来ますよ。」
二人は慌てて馬車に乗り込む。
続けてアッシュも荷台へ。
モンスターが近くまで迫って来ていた。
「ドウズさん、出して!」
「オラ、来たッ!!」
馬車は再発進しスピードに乗り始め、すんでの所でモンスターの激突を回避した。
「ひゅうぅ、危なかったぜ。ところでお婆さん、これは貴女の本ですか?」
降りた時に拾った小説をスッと差し出す。
「こりゃ、まぁ。さっき落としたんで、探しとったんですわ。有難や、有難や。」
お婆さんは、美男子ばかり出てくる恋愛小説を大事そうに受け取りお礼を言った。
アッシュは自分の拾った本の内容など知る由も無かった。