『入山!』
ドウズが襲われたスラーの墓場を離れ、馬車はまたゆっくりと次の目的地を目指す。
アッシュはまた外の景色を見ながらガタゴト揺られていたが今回は良い暇潰しを手に入れていた。
「手持ちブタさん、か。」
アッシュは外の光にかざし中の液体を眺めていた。
かざしながら右手人差し指と親指に少し力を込めて潰してみる。
ぷにゃ。
アッシュは全身がざわつくのを感じた。
(何だこれ。)
今度は手のひらに収めて力一杯に握り潰す。
ぷぅ~~~にゃ。
力を緩める。
ぽよんっ。
ぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわ。
アッシュの全身が総毛立つ。
「き、きもてぃい~~~い。」
恍惚の表情を浮かべているアッシュを見てリリアは逆にきもちわるっ、と思った。
それからというものアッシュは両手で手持ちブタさんを黙々と揉みしだいていた。
ぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷぅ~にゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷぷにゃぷにゃぷにゃぷぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃんっぷにゃんっぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷぅにゃぷにゃぷ~~にゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷっにゃ~~ぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷぅっにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷっぷ~にゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃ
「アッシュ!」
ぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃぷにゃ
「アッシッュッ!!」 パァンッ!!
リリアがその小さな手で思いきりアッシュの頭をはたく。
「ふぁっ!ふあ~~ぁ???」
悦った表情でリリアと目が合う。
「アッシュ、ヨダレ。」
リリアが自分の口元の右端をトントンと指差す。
「ハッ!!」
ジュルリ。
我に返ったアッシュが右手甲で口元を拭う。
「ハァ、ハァ………………あ、危ねぇ危ねぇ。今、何か、プロの揉み師になろうかどうか考えてたぜ。」
「プロの揉み師?あるの?そんな仕事??」
「さ、さぁ。」
「それより、ホラ。見えてきたわよキリ山。」
アッシュは上半身を荷台から乗り出し、進行方向を見た。
そこには抜ける様な青空の下、木々が生い茂る緑色の雄大な山が座していた。
山の中腹辺りを白い鳥の群れが横切って飛んで行くのが見えた。
「リリア、何かさ、俺、今更だけどこれから只の旅じゃなくてデッカイ冒険が始まるんだって気がしてきたぜ。」
「そうね、私も何だかワクワクしてきたわ。」
キリ山を越えたその先に広がる世界、困難、出会い、別れ………………様々な冒険への想いを乗せながら馬車は山の麓に辿り着く。
入り口には、『キリ山道』と書かれた看板が立てられていた。
馬車がキリ山道を登り始めると、一番最初に箱から飛び出した手持ちブタさんが、傾斜に合わせてコロコロとアッシュの方へと転がって来た。
「ん?あ、さっきの手持ちブタさん。」
アッシュは何の気無しに拾い上げる。
(そういえば、手持ちブタさんて揉まずに飲んだらどんな味なんだろう。)
ふとそんな疑問がアッシュの脳裏をかすめる。
(ドウズさんは不味いって言ってたけど。)
(やっぱ、どれぐらい不味いか知らないとどれぐらい美味しくなるのか基準が分からないよな。)
アッシュは手にした手持ちブタさんをじっと見つめる。
(デザインも癒し系で可愛いし、揉み心地も抜群。正直、いくら不味くても飲めない程の味では無いと思うけど。)
そう思うのが 早かったか、アッシュは既に手持ちブタさんの鼻に吸い付いていた。
…………………………ゴクリ。
「まぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッず!!!!」
後にドウズは「それは、山中に響き渡る程の声だった。」と語っている。