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7番目の勇者  作者: モダろいしヒト
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『ドウズのホロ馬車。』

アッシュ達が村を出てどれぐらい経っただろうか。

辺りがうっすら白んできた。


朝の光と共に、随分と視界も効く様になってきた。


少しばかりか気温も上がった気がする。


アッシュは腰袋から水の入った小瓶を取り出し、一口だけ水分補給をした。


「リリアも飲む?」


「私なら大丈夫、葉っぱに溜まった朝露か花の蜜でも飲めば充分だから。」

リリアはそう言って近くの花へ飛んで行く。


アッシュは構わず歩を進める。


水分補給から戻ったリリアがアッシュに尋ねる。

「ところで、アッシュは今まで自分の村以外へは行った事はあるの?」


「親父に剣の稽古つけてもらうのに色んな場所へは行った事あるけど、他の村や町、異国の地ってなると行った事はないな。」


「へぇ、意外ね。もっと色々と村の外の事知ってるのかと思ってたわ。」


「意外って、俺にリリアが見えてない時から側に居たんだったら知ってるだろ?」


「側に居たって言っても別にずっとじゃないわよ。私にだって他に色々する事が有るんですぅっ。」


「何だよ、する事って。」


「それは乙女の秘密ですぅっ。私にもプライベートが有るんですぅっ。」


「何だよさっきから、すぅっ、すぅっ、って。」


「何か、今はそんな気分なんですぅっ。」

そう言いながら、リリアは手を後ろに組んでアッシュの目の前をゆらゆら飛び回る。


「………………何だそりゃ。」

アッシュが怪訝な顔でリリアをチラッと見る。

その表情は何やら楽しげに見えた。



「そう言えば俺は他の村には行った事ないけど、他の村から来る商人からはよく村の外の話を聞いてたっけな。」


「へぇ、どんな?」


「例えば商人達がよく集まる街があって、そこには色んな地方の特産品が流通してたり。一年中氷に覆われた国があったり。蒸気機械で動いてる町があるってのも聞いた事があるな。他にも独特な文化や珍しい果実、壮大な景色の話なんてのも聞いたな。まぁ、全部ドウズさんから聞いた話ばっかりだけどな。」


「ドウズさん?」


「あぁ、俺の村に2、3カ月に一回程来る行商人でさ。大きなホロ馬車に商品いっぱい乗せて…………見たこと無い??」


「あ、あるかも知れない。ちょうどあんな感じのホロ馬車でしょ?」


リリアが指差した先から一台のホロ馬車がこっちへ向かって来るのが見えた。


「あ、そうそう。あんな感じ…………………………てか、あのホロ馬車ドウズさんぢゃね?」


馬車がどんどん近付いて来る。


「てか、速くね??」


よく見ると馬車は蛇行しながら向かって来る。


「リリア、何か様子が変だ。」

「そうね…………。」


アッシュはじっと目を凝らす。

(何かを避けて走ってる???)


ホロ馬車が左に振れる。

同時に車体の後方の様子が見えた。


「なッ!!」

「あっ!」

アッシュとリリアは同時に驚きの声を上げる。


「スラーの大群に襲われている!…………、あっ!!いや、あれはスラ(ぶつ)だ!!」


馬車の軌道が徐々に道から外れ出した。


(ダメだ、あのまま行くと森の方へ行ってしまう。森へ入ったら馬車では逃げ切れない!)


「おーーーいッ!!!」

アッシュは手を振り、大声で叫ぶ。

が、距離が遠いのと馬が大地を蹴る音にかき消されるせいでか聞こえている様子が無い。


「クッソ!何か、何か、知らせる方法は!?」


その時、馬車の荷台に何かがキラリと光るのが見えた。


(ッ!これだ、向こうからの光が見えるなら!!)


アッシュは昨晩、丹念に磨き上げた剣を鞘から抜くと太陽を探した。

角度を調節しながら剣が太陽光を捉える位置を探し当てる。


剣が白光に包まれたのを確認し、アッシュは小刻みに剣を左右に回しドウズの馬車に合図を送り続ける。



………………、馬車に変化は無い。

「これもダメか!!」

アッシュは咄嗟に走り出した。

到底馬車には追い付けない事など解ってはいたが、体が先に反応したのだ。


走りながらアッシュがリリアに問う。

「リリアの能力で何とかならないか!?」

「私には風を起こすぐらいしか出来ないわよ。」

「強風でスラ(ぶつ)共を吹き飛ばすとかは?」

「やってみても良いけど馬車ごと吹き飛んでも知らないからね?」


そんな問答をしていると、馬車が旋回して来るのが見えた。

「応えたッ!気付いてたんだ!!」


馬車は速度を維持したままアッシュ達の方へ向かって来る。

アッシュも馬車に向かって真っ直ぐ進む。


道から100m程離れた野原で手綱を引くドウズと走行するアッシュがすれ違う。

すれ違い様に馬上のドウズと見上げるアッシュの視線が交差した。

お互いに言葉は無かったが、アイコンタクトは「頼む。」と「何とかする。」だった。


ドウズの横をすり抜けるとすぐにホロの荷台がアッシュの視界に入った。

荷台の最後尾が通り過ぎる刹那、アッシュは荷台の際に備え付けられた取っ手に手を延ばす。


ドゥッ!!

交差した馬車の力に引っ張られ、アッシュの体が宙に浮く。

そのまま取っ手を軸に円を描いて荷台へと吸い込まれた。


ガラガラガラ、ドーーーウゥゥゥンン!!

荷台の商品を薙ぎ倒しアッシュの体が転がり込む。


アッシュは直ぐ様体勢を立て直し、荷台の後部から顔を出した。


すぐそこまでスラ(ぶつ)の大群が迫っていた。


「リリア!リリアッ!!」

リリアを見失い、周囲を見渡す。


「はーい、ハイハイ。はいな、はいな。」

馬車に追い付いたリリアもホロの上から姿を見せる。


「リリア、やるぞ、カマイタチだ!」


「アッシュ、やるのは構わないけどカマイタチの斬撃で一体ずつ狙うの?あの数を??」


リリアのツッコミで再度個体数を確認する。

アッシュの目算で30はいるだろう。

「………………、ぐ。」

言葉に詰まる。


別の方法に思考を巡らすアッシュにリリアが、「こんなのはどうかしら?」と右手人差し指に小さな竜巻を作って見せる。


「よし、それでいこう!」


「落ち着きなさい。まだ何も説明してないでしょ。まずは私がこの竜巻の力をアッシュに送るわ。」

「で?」

「アッシュは剣で竜巻を十分な威力が出るまで育てて。」

「育てる?」

「言ってみれば、剣に竜巻を留めるイメージよ。」

「………………こ、ここにきてイメージとは曖昧な。」

アッシュが眉をしかめる。


ドンッ!ガリガリ、ガサガサ。

作戦会議中にスラ(ぶつ)の一匹が荷台へと這い上がろうとしていた。


「うわっ!」

アッシュは驚くと同時にスラ(ぶつ)を足で蹴落とす。


「どうする?やる?やらない??」

「やるやる、やるよ、やりますよ。」

「じゃあ、剣を目標物に向けて構えて。」

「よし、来いッ!」


アッシュが剣を構える。

リリアがアッシュの肩に触れ、力を送り込む。


ブワッ!!っと大きな風が流れ、アッシュは剣の周りの大気が膨らんだ様に感じた。

すると、膨らんだ 大気が剣を中心にゆっくりと回り始めた。


「さぁアッシュこれからよ。お腹に力を入れて踏ん張りなさい。」


ギリギリギリ。

アッシュの剣を握る握力が上がる。


大気の渦の速度が徐々に上がり、竜巻が大きくなっていく。


(外に吸い出されそうだ。)

アッシュは足の間隔を広げ、腰を落とし踏ん張る。


竜巻の威力が増すにつれ、荷物はガタガタ、マントはバサバサ、髪はボサボサ。


「もういいか?」

「いいわ。いけるわよ!」








「………………………………え?で、これどうすんの?」

「イメージよ!竜巻を剣から放出するイメージ!!」


「ま、またイメージかよ。了解ッ!こうなりゃ、いくぜ!!」


アッシュは今一度、剣を握る手に力を込める。


「喰らえ、必殺!!?風の?竜巻のぉぉっ!!」


ドッゴォォオォオォォォオォオオオォォッッ!!


凄まじい爆風と共に、スラ(ぶつ)共が宙に巻き上げられ、塵と化していくのが見えた。


同時に反動でホロ馬車の荷台も浮き上がったが、ドウズ自慢の手綱裁きで車体は横滑りしながらも何とか着地に成功した。

荷台の車輪からは土煙が立ち上っていた。



荷台から飛び降りたアッシュは馬上のドウズの所へと回り込んだ。


「ドウズさん、大丈夫スか?」


馬から降りながらドウズも問い返す。

「あぁ、お前もな、アッシュ。まぁ、商品は多少ヤラレっちまったがな。えぇっ!?てか、どうしたその髪型?ボッサボサじゃねぇかよ。」


「あぁ、これ?さっきのアレでチョットね。と言うか、俺の事分かってたんスね。」

手櫛で髪型を整えながら言う。


「あぁ、ザウスんとこのだろ?光のサインの出所見付けた時に分かったぜ。」


「え?あれ結構距離あったっスよ?」


「まぁな、俺ぁ目が良いんだ。何たって、視力は4以上は有るからな。………………両目合わせて。」


「いや、足さないで下さいよ。」


「ハハハハハ。でも、お前を見付けた瞬間ザウスの息子なら何とかしてくれるって直感的に分かったぜ。何せ勇者の倅だからな。ところで、ザウスはまた今回の来魔(らいま)で旅に出たんか?」


「いや、今回は俺っス。」


「ほお。」


「親父はちょっと、事情が有って………………。」


「そうか。」

ドウズはアッシュの表情から何かを感じ、深く聞く事をやめた。


「ところで、ドウズさんは何故こんな所に?」


「いや、ちょうどお前さんの村まで商売しに行こうと思ってよ。けど、まぁ、商品がアレじゃあ出直した方が良さそうだな。」

ドウズはそう言いながら、右手親指で後方の荷台を指差す。


「な、何か、すいません。」


「何がだ?別にアッシュがやった訳じゃ無ぇんだ。気にすんな。それに、この来魔(らいま)の時期にスラーの墓場で休憩してた俺の不注意、プロの行商人ならやらねぇ凡ミスだ。」


※(「スラーの墓場」とは、世界各地に生息する小動物スラーは死期を悟ると特定の場所で最期を迎える習性がある。その場所がスラーの墓場と呼ばれ、そこには草木が溢れ、綺麗な水場が有り行商人達の憩いの場ともなっているが、来魔(らいま)の時期だけスラーの亡骸(スラ仏)が襲ってくる事が有る。)



「で、アッシュはどっかに向かってる途中だったんだろ?」


「メバンニの村までね。」


「メバンニか。俺も一度出直すのに戻るから乗ってくか?」


「良いんスか?助かります。」


「遠慮は無しだぜ。助けてもらったのはこっちだしな。」


こうしてアッシュはメバンニ村までドウズの馬車の荷台に乗っけてもらえる事になった。






スラ(ぶつ)との戦闘に勝利したアッシュは経験値が上がった。

新必殺技「風の?竜巻のぉぉっ!」を覚えた。

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