三服目
道行く男の眼差しが、太陽の光のように美香の全身に注がれた。ご馳走にたかるハエのように男どもが群がってきた。
「ああ…美しいということはこういうことなのね…」
ある時はレーサーと、そしてダンサーと、またある時は医者や弁護士、はたまた国会議員と言う具合に、美香はあらゆる種類の男どもと付き合う日々に耽溺した。
ただどの男も美香を求めてくる段階になると、次第に意地悪で陰険な心が芽生え、多額のお金や宝石を貢がせてとことん翻弄した挙げ句に捨て去るようになったのです。中には美香という底なし沼にはまり溺死する男も数名出ました。
「ああ…私という女を心から愛してくれる男はいないのかしら…」
ある昼下がりに公園で散歩をしていると、油絵を描いている男に出会った。
美香は彼の芸術論と、何より自分をよこしまな目で見ない態度に惹かれ、次第に二人は付き合い始めた。
「ああ…この人となら私は全てを捧げられるわ…」
二人は花の回りを飛び交うつがいの蝶のごとく、幸せな時間を謳歌した。そして彼からのプロポーズを受けて、春の新緑がまばゆい吉日に結婚することとなった。
式の当日美香は、ドレスルームで花嫁衣装に身を包み、まさにその時を待ち焦がれていた。
何気なく鏡に振り替えると、美香の顔面が雪崩のごとく崩壊を始めていた。張りのあった肌が次第に垂れ下がり、皺が波のように押し寄せてきた。また衣装のウエストは張り詰めて、縫製がミシミシと音を立ててほつれていった。
「ああ…これはまさか副作用!」
式場を飛び出した美香は、自宅のマンションに籠ってただガタガタと布団の中で震えているしかなかった。
しばらくするとフィアンセである画家の青年がやって来た。
「ここを開けて下さい。どうしたというのですか?」