08 ディノ
暗い路地裏で冷たい空気が流れる。
「なぁ、今どんな気持ち?」
黒いパーカーのフードから覗く金髪が風に吹かれさらりと揺れる。私は足元で震え上がる男達を冷めた目で見る。
声も出せずただ目を見開いて私を見ている男達の姿は実に滑稽だ。
「……怖い? 痛い? 泣きたい?」
ただ単に恐怖に染まった目。本当につまらない。
私は目を細めてから男達から視線をはずす。少し目を伏せてため息を吐く。
「なぁ……聞いてるんだけど。返事もできねぇの?」
あぁ、つまらない。ほとんどが自分よりも強いと感じるとすぐに逃げに入る。
そんなに自分が可愛いか。まぁ、それはそうだろうな。人間なんて口では何とでも言えるが実際には自分が一番の自己中な生き物だからな。これ以上見る価値もないと思い胸元の内ポケットに入れていた銃を右手に握った。
「もういいや、じゃあな」
目の前の男の頭を狙い一度だけ引き金を引いた。パァンと発泡する音が狭い路地裏の中に鋭く響く。それ合図に二発、三発と躊躇うことなく引き金を引いていく。
最後の男の頭が貫かれたと同時に後ろで違う銃の発泡音が響いた。
「……っ!?」
素早く後ろを振り向きながら横へと顔を背ける。少し避けるのが遅かったのか左頬に傷がつきツーっと血が頬を伝う。
突然暗闇の中から聞こえる拍手。
「流石は黄華! ……まぁ想定内だね」
男にしては少し高めの声が響く。男……いや女か?姿が見えないから確信は持てない。
「……誰だ」
低い声で威嚇をするとクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「やだなぁ、そんなあからさまに警戒しないでよ。私はまだ何もしないよ」
そう言って姿を表したのはツインテールに結んだ銀髪をさらりとなびかせながら目を細めて笑う女。
「……まだ?」
「うん、『まだ』何もしないよ。あなたに少し興味を持ったからね」
女の言葉に自然と眉間に皺が寄る。そんな俺をみてさらにクスクスと笑う女に少し苛立つ。
「そうだなー、私のことはディノとでも呼べばいいよ。私のコードネームだからね」
「ディノ……」
教えてもらった名前を覚えるように口ずさむ。そんな俺を見て人差し指を口元にもっていきへらりと笑うディノ。
「もう少し話したいけどそろそろ行くね。私の主に怒られるから」
ディノの態度から何者か検討がつかず、警戒して睨んでしまう。
「…………」
「まぁいつかそのうち私が何者かわかるから焦らないでよ。その時に……ね」
そう言って全く隙の無い背を向けた。私はただその場から動けずにディノの背中を見つめることしかできなかった。