07 悪夢
暗い、怖い、息苦しい……。先が見えないほど暗く、黒い闇に包まれ音が何も聞こえない。目の前に広がる黒に恐怖心を抱く。何も見えない、独りは嫌だ。
「………っ誰か!」
震える声で叫ぶ様に声をあげる。ふと、首に温かいものを感じる。
……私はこの温かさを知っている。
「佑兄?」
私がポツリと呟けば、耳元でクスリと笑う声が聞こえる。懐かしい佑兄の笑う声に安心感を覚える。
しかし、それは一瞬のことで首に添えられた佑兄の手に力が入る。
「……っ佑、兄ちゃ……ん」
苦しい……苦しいよ。どうして私は首を絞められているの?
「莉樹は馬鹿だなぁ」
普段とは大きく異なる低い声に背中がゾクリと粟立つ。驚き、無理矢理顔を後ろへ向けると顔を辛そうに歪めながらも口角をあげ笑みをつくる兄が視界に入った。
「………っ」
佑兄を悲しませるのは誰?
あぁ、佑兄にこんな顔をさせてるのは私だ。恐怖心と首を絞められていることから言葉が出せずただ目を泳がせて佑兄を見るしかできない。
「もう元には戻ることはできないよ」
佑兄の言葉が頭の中でぐるぐるとまわる。嫌だ、そんな言葉聞きたくない。言葉が聞こえないよう耳を手で塞ぐ。佑兄は徐々に首を絞める力を強くしてくる。
「憎くないのか?」
「………嫌、だ……!」
「莉樹、憎め」
「……兄、さん!や、めて!」
嫌だ、これ以上聞いたら心が壊れる。聞きたくない……やめて!
「俺達のことを忘れるな、無かったものにするな。そして父さんを憎め!」
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「…………っ!!」
息ができなくなると同時に真っ暗だった視界が明るくなった。
「………はぁ、夢か」
深く溜め息を吐きながら前髪をくしゃりと掴み少し霞む目で辺りを見渡す。いつもの変わらない見慣れた自分の部屋の風景にホッとする。
「気持ち悪っ」
嫌な夢を見たからか汗でシャツが肌に吸い付いてしまう。不愉快な感触に顔を歪めてシャワーを浴びるためにベットから立ち上がる。
「……………っ!」
同時に立ちくらみのようになものを感じ、吐き気が襲ってくる。あぁ、駄目だな。何で私はこんなに弱いのだろうか。みんなを護るには強くなければいけないのに。
思わず自嘲するような笑みを零してしまう。自分の気の弱さに苛立ってしまう。頭痛と吐き気を感じながら風呂場へと向かった。
***
シャワーからあがると蓮がソファーの上で紅茶を飲んでいた。蓮を見て全身の力が抜ける。フラフラと覚束ない足取りで蓮に近寄る。
「ん?莉樹、あがったのか」
返事をする気にもなれなくて首を縦に振りそのまま蓮へと倒れ込む。驚きながらもしっかりと受け止めてくれる蓮にありがとうと呟く。
蓮の胸に顔を寄せて安心する匂いが香るシャツの裾をギュッと掴む。蓮はそれに応える様に私の頭を撫で自分の身体へと私を引き寄せる。
「………莉樹、大丈夫だ。俺はお前から離れない」
「うん、わかってるよ」
蓮は私の欲しい言葉を欲しい時にくれる。本当に何でわかるのかなぁ。顔を隠して苦笑いを零す。
「眠いなら寝ろよ。そばに居てやるから」
「蓮が隣にいると安心するからね、お言葉に甘えてそうするよ」
顔を少し上げて微笑む。安心する匂いと規則正しい蓮の鼓動の音を聞きながら私は意識を落とした。