06 家族の証
フードから微かに覗く普段とは違う、短い金髪が歩く度に揺れる。屋上のドアを開くとモノクロの空が見え少し冷たい風が私達を迎え入た。
「莉樹ー、会いたかったぁー!」
「っ!」
フェンスに背中を預けようと思いフェンスへ歩こうと思った途端コウが抱きついてきた。勢いがついていたため、少し後ろによろめいてしまった。背中に手を回しギュウギュウと抱きつくコウの頭を撫でる。
「……莉樹」
声がした方へ顔を向けると、少し寂しそうに私とコウを見ている要がいた。コウを撫でるのをやめ身体を離して要に向き直す。
「要、おいで」
「ん」
そう言って両手を広げ要に微笑む。要は嬉しそうに私の胸に飛び込んできた。身長差があるため、私が要の胸元に寄りかかる態勢になってしまう。
「莉樹」
「どうした?」
「最近莉樹が俺を構ってくれなかった」
「要、大丈夫。ちゃんと見てるから」
頭上から聞こえてくる声は不安と寂しさで少し震えていた。精一杯背伸びをして要の綺麗な黒髪を撫で、背中をポンポンと安心させるようにたたく。顔を見上げると安心したように頬を少し緩める要。
「莉樹そろそろ」
「ん、わかってる」
要は真剣な話しだと察して名残惜しそうに背中に回していた手を離した。
「さて、本題に入るぞ。このメールを見てくれ」
私は目を閉じ、男口調で低い声を出した。この声で皆は先程の表情とは大きく変わった真剣な顔をした。
「莉樹姉、これって……」
メールをみた皆の顔が徐々に険しくなっていく。
最初に口を開いたのはハルだった。
「ねぇ莉樹。これ誰がやったのかわかってるの?」
「いや、調べてない」
大きな目を鋭くさせて怒りに目を染めるコウに、無表情で答える。
「調べてないの……?」
「今は取り敢えず様子見だ」
「……………」
「……ハル」
話を聞いていたハルがパソコンを起動させたのに静止をかける。ハルは綺麗な横髪を耳にかける。この仕草はハルが不機嫌の時にやる仕草だ。
「何」
「調べるな」
「……チッ」
ハルは舌打ちをし眉間にしわをよせながら顔を背けた。
「莉樹」
「ん?」
「もしも相手が動いたら俺達も動いてもいいんだよね?」
「あぁ、もちろんだ」
もし私達の邪魔をするなら私は容赦無くそいつらを潰すだろう。
「莉樹は俺が護る」
クイッとパーカーの裾を引っ張られた方へ視線を向けると、要が真剣な表情で私の顔を覗きこんでいた。
「あぁ、ありがとな」
そう言って要に微笑む。
本来私の方が要を護らなければいけない立場なのに要は私を護ると言ってくれる。満足そうな顔をして静かに微笑み返してくれる要をみていると、愛おしさが込み上げてくる。恋情でも、友情でもない。家族愛と言ってもいいだろう。
「だが、いつも言うようにまずは自分の身は自分で護れ」
それが第一に優先することだ。皆んなの目を見て睨みつける様に念をおす。
「俺達は一人も欠けてはいけない。俺達五人で黄華だ。それだけは忘れるなよ」
最後に安心させるようにふわりと微笑むと、緊張の糸がプツリと切れたようにみんなは肩の力を抜いた。
「もちろんだよ莉樹姉」
「了解」
「わかってるよ!」
「ん」
それぞれ返事をしアクセサリーや刺青に触れる。他人から見ても愛おしいと感じる程優しく、私達の繋がりを確認するように。
「いいか? この黄色い薔薇は俺達が家族っていう証だ」
「家族」という言葉にみんなが顔を緩めた。
最近思うんだ。みんなが居て笑顔で過ごす、そんな毎日がずっと永遠に続けばいいのにと。
でも願えば願う程崩壊していくことがわかっている。
ただ、もう少しこの心地の良い時間を過ごして居たい。そう思うのはわがままだろうか?
「……ふっ、馬鹿らしい」
私はみんなに気づかれない様自嘲するような笑みを零した。