03 黄華
町中に噂が流れた。黒いパーカーを着て狐のお面をつけた『男』二人が、紅羽の下っ端に手を出したと。
下っ端は首から血を流しているものや腕が折れ足が変な方向へ曲がっていたり、顔の原型を留めていない人がいるようだ。下っ端に手を出した男の内一人は『黄華』と名乗りもう一人は『月光』と名乗ったという。
学校の屋上のフェンスに寄りかかり、空を見上げる。
「莉樹、また蓮と二人だけで下っ端に手を出したんだってね。何で俺と一緒にやってくれないの?」
コウが私の顔を覗き込んで聞いてきた。
「……蓮が私のパートナーだから」
「蓮は莉樹のパートナーだろうけどさ、俺とやってくれたっていいじゃん」
私の答えに不満があるのか頬少しふくらませて拗ねるコウ。
……うん、可愛いな。少し癖っ毛のあるクリーム色の髪を揺らしながら拗ねるコウはその辺の女子よりも可愛いと思う。
「おいおい、コウ!莉樹が困ってるだろ?」
「うるさいな、蓮は黙っててよ!」
「あ"?何だと?」
この二人はお互いの性格を嫌っていてすぐに口喧嘩をする。いつもしょうもないことで喧嘩をするから正直少し呆れてしまう。
「だから莉樹が困ってんだろって言ってんだよ!」
「そんな訳あるかよ! ねぇ、莉樹。別に困ってないよね?!」
興奮気味に鼻息を荒くして尋ねてくるコウに若干引きながらも実際困っていないため、肯定の意味でコウの頭を撫でる。撫でられるのが心地良いのかコウは嬉しそうに目を細めた。
「ほら、ほら! 莉樹は困ってないよーだ!」
「うわぁ! まじで腹立つんだけどコイツ!」
目をギュッと閉じて舌をだす仕草をするコウをみて腹を立てる蓮。この光景はいつものことで煩いのを我慢し放置する。
「莉樹姉」
「ん?」
名を呼ばれ振り向くとクリクリとした大きい目でこちらを見ている少女がいた。
「情報はどこまで隠せばいい?」
そう言って首を斜めにコテっと傾げると同時に彼女の綺麗なサラリとした地毛の茶髪が揺れる。
「ハルにまかせる」
無表情で言ったが彼女には私が伝えたいことがわかったらしく照れた様にはにかみながら微笑む。
そんなハルが可愛くて思わずコウにした様に頭を撫でてしまう。
私が昨夜名乗った『黄華』は私達の居場所である大切なものだ。蓮曰く『黄華』というのは私の通り名……らしい。
ちなみに、私は普段黄華として街に出る時は金色の短髪ウィッグをつけていて狐のお面を被るため世間では男と噂をされてる。
黄華……本名、倉野莉樹。ストレートの金色の髪が胸元までのびていて青色の瞳、右耳にピアス。母がフランス人で、ハーフなためこの青色の瞳はカラコンのような人工にできたものではなく自然なものだ。
そして、私のパートナーの月影蓮。蓮は黄華の光で月光と呼ばれている。私と同じく金色の髪で左耳に私とお揃いのピアス。私と一緒に動く時は蓮も狐のお面を被る。
蓮と日常の様に口喧嘩をするのは中谷洸輝。前にも説明した通りコウは自分の名前を嫌っている。少し癖っ毛のあるクリーム色の髪で、首の横に黄色い薔薇の刺青をしている。
同じく私の部下である高杉要。要は黒髪に青メッシュで左手の甲に黄色い薔薇の刺青。無表情……と言われるが私からしたら普通の人と変わらない。
そして先程私に話し掛けてきた少女、情報管理役の長谷川遥花。肩に少し触れる程度のサラリとした綺麗な茶髪でブレスレットをしている。
私達黄華は主にこの五人で動いている。それぞれのピアス、ブレスレットには黄色い薔薇が描かれてあり黄色い薔薇は黄華を表す象徴だ。
「蓮のバーカ!」
「何だと?! 俺よりお前の方が馬鹿だろ!」
そんな事を思い出していたが、コウの大きな声にふと我に返る。まだ続いていたか……。
はぁ……言い合いが低レベルすぎて口をはさむのも面倒臭いがいい加減憂鬱しくなってきた。
「コウやめなさい」
「ゔっ……俺だけ?」
「蓮も言動は考えろ」
「わかったよ、悪かった」
これでようやく静かになった。
パソコンに向かうハルに視線を向けると、ハルは何か考える様に画面を見つめていた。
何かあったのかと思ったが、昨日の喧嘩で眠れなかったため睡魔が襲ってきて口を開き何とか言葉にしようとしたが意識を手放してしまった為その行動は無となった。