02 GAME
「GAMESTART」
私の声を合図に男達は一斉に襲いかかって来た。自分達が有利な状況だと信じて疑わない男達は隙だらけで私からすると、雛鳥が群れで成猫に向かって来ているとしか思えない状態だ。
「……っゔぇ!」
一番近くにいた男の頭を思い切り蹴り払うと蛙が踏み潰された様な、何とも不快な声が聞こえる。
態勢を整えると同時に、横にいた男に足払いをかけ男が転んだのを見計らい力一杯顔面に靴の踵を振り下ろす。
鼻が折れたり血で濡れたりしている為、元々の顔がわからない程醜くなっている。
「まず、二人」
踵についた血を拭うかのように地面に踵を引きずりながら歩き敵に近づく。怯えきって震えている相手の鳩尾にシークレットブーツの爪先を入れるといとも簡単に男は吹っ飛び壁にぶつかって次々と動かなくなった。
三人目、四人目、五人目……。
次々に殴りかかってくる男たちを軽々と避けながら確実に急所を狙って蹴りを入れる。
「弱過ぎて話にならない」
狐のお面に微かにかかった金色の前髪を手ぐしで整える。するとその態度が気に入らなかったのか顔を真っ赤にして拳を向けてくる。
「感情的になったらもっと隙ができることも知らないの?」
「ぐぁっ……」
「これだから下っ端は……」
下っ端は弱過ぎて話にならず萎えてしまう。
もう戦うのも馬鹿らしくなってきた。
「萎えた、もういいや」
そう言って男達に背中を向けた。私が背中を向けた途端、背後で一人の男が動く気配を感じた。
だが、私はあえて避けずに男の方へ振り返る。
「うああぁぁあぁ!」
男は奇声を発しながら内側の胸ポケットからナイフを出し、私を目掛けて走ってくる。私はその姿をただ、憐れだと思い無表情で見つめた。
あと数センチで胸に刺さる、というところでナイフは金属独特の高い音を発して床におちた。
「折角逃げれるチャンスだったのに……お前馬鹿だな」
「なっ?!」
目の前には同じ狐のお面をつけた蓮が呆れた様に息を吐いた。
蓮はナイフを拾おうと動く男よりも先にナイフを拾い一瞬で男をうつ伏せにし首までナイフを持っていく。ナイフの刃はギリギリで止められていて少しでも動けば触れてしまう距離だった。
「ひ、卑怯だぞ! 一対十二って……!」
「 誰がそんなこと言った?」
「え?」
私の言葉にただ目を見開いて唖然とする男に淡々と言葉を投げかける。
「お前等が勝手に一対十二人と妄想して、勝手に負けてるだけだろ。どこが卑怯なわけ?」
はぁ……本当馬鹿じゃねぇの。紅羽もおちたな。
悔しそうに歯をくいしばる男を鼻で笑い、靴音を立てて男に近づく。そうする事で相手の恐怖心が勝手に煽られるから、わざとやるんだ。
「最後に……特別に教えてやるよ。俺等が誰なのか」
まるでスポットライトを当てるかの様に月が私を照らす。
「『俺』は黄華だ」
そう言って男達を上から見下ろしお面を半分横にずらし艶やかに笑ってみせた。男は黄華と聞いて目を見開いて顔を真っ赤にして固まっている。
いつもこのパターンだと飽きてしまう。もう少し別の反応が欲しかったなど内心どうでも良い事を考えてしまう。
「俺は黄華の相棒、月光だ。その小さい脳にしっかりと刻んどくんだな」
挑発するように蓮が言う。
だか、男達は顔を青くしているだけで挑発に乗ることはない。
つまらない……ただ単純にそう思った。
「……もう、いいや」
「なら終わらせるか」
ポツリと小さく呟いた言葉を蓮が聞いていたらしい。蓮はうつ伏せになった男の頭を掴み、ナイフを空中で振ってみせる。
「あいにく、俺は素手の方が好きなんだ。だから蓮にやってもらうよ」
「喜べよ。俺は優しいからな。斬られる場所は選ばせてやるよ」
この言葉が出たことで男の運命は決まった。本当に性格が悪い。
「……と、やーめた。やっぱり苦しんでくれたほうがこっちは楽しいんだよな」
男が口を開こうとしたが、先に口を開いた蓮によって男は言葉を紡ぐことができなかった。蓮の楽しそうな声を聞いて呆れる。本当に性格の悪い男だ。
私の合図を急かす様に男に近づけたナイフを何度も右手で握り直す。私はそれに応える様にお面で隠れた口角を上げた。
「GAME OVER」
この声と同時に、男の首から鮮やかな赤色が飛び散った。