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終焉を告ぐ  作者: 未圭
紅羽編
20/20

19 思考の沼


「……う"っ」


 意識が浮上すると、首元に違和感があるのに気がつく。重い瞼を開ければ朱斗が馬乗りになって俺の首を掴んでいた。目が合うとニコリと胡散臭い笑み浮かべた。


「あ、気がついた?」


 何事も無かったかのように話しかけてくる朱斗を無視して状況を把握するために周囲へと視線を巡らせた。じんわりと熱を持つ左頬と他に目立った外傷が感じられないことに、意識が無かったのはほんの数秒だと認識する。


「もう少し骨のあるやつだと思ったんだけど。俺の勘違いだったかな」


「……ははっ。そうだな、俺もそう思ったよ」


 情けない。攻撃を受けるのは仕方ないことだが、意識を飛ばすなんて……。思わぬ失態に呆れると同時に笑いがこみ上げてくる。


「……ぐっ……ぁ!」


「あのさー、今の状況理解出来てる? このまま俺が手に力を入れたら黄華は息が出来なくて死ぬんだよ」


 朱斗は私が笑ったことで余裕があると見たのか、眉根を寄せて不快感をあらわにした。

 グッと気道を圧迫され呼吸が出来なくなる。


 力を調節してるにしても、苦しいものは苦しい。いっそこのまま力一杯首を締めてくれた方が楽になる、なんて考えつつも私の両手は無意識に朱斗の手首を掴んでいる。

しかし、当然力なんて入るはずもなかすかな抵抗は虚しくも意味をなさなかった。


「まぁ、そんな簡単に殺してやらないけどな。もっと苦しんで息絶えればいいよ」


「……ヒュッ、ゲホッ!」


 パッと手が離された瞬間、息を吸い込めばヒュッと情けない音が響いた。急に肺が酸素で満たされた為か、激しく咳き込む。押さえつけられて出来た喉元の圧迫感が嫌で両手で喉元を掻きむしりたい衝動に駆られる。

 ニッコリと笑って楽しそうな顔をする朱斗に掴みかかろうとするが、思うように体が動かない。


 ……ックソ! 動け、動け、動け!


 無防備な姿で私を嘲笑う敵が目の前に居るのに対し、何も出来ないもどかしさと一瞬でも隙を見せた自分に苛立ちが芽生える。まだ全身に酸素が足りないようで身体が鉛のように重たい。


「黄華の顔。初めてはっきりと見たけど随分と綺麗な顔をしているんだな」


「………ゲホッ……やめろっ」


 前髪を掴まれ、顔が鮮明に見えるよう持ち上げられる。ウイッグを止めているピンが引っ張られブチっと髪の毛が抜ける音が聞こえた。グッと近づいた距離に険悪感を隠さずに朱斗を睨みつける。 

  端正な顔立ちな奴に綺麗な顔とか言われても嬉しくない。


「青い瞳か。フードでずっと目元が隠れてわからなかったな。生まれつきか?」


「さぁな。どうだろう」


 ハッと小さく息を吐く。息は大分整った。体も先程と比べれば動く。口角を上げて朱斗を真っ直ぐ見つめ返す。少しでも余裕がある様に見せろ。隙を見せるな。体が動かないなら頭を働かせろ。どんな手を使ってでも自分が優位に立て。

 

 さぁ、勝利へ導く策を考えろ。この状況、蓮ならどうする? 黒鬼ならどうやって動く?



――兄さんならどうする?



 思考の沼に沈んでいた意識を引き戻して、朱斗を見据える。少し冷静になれば分かることだった。これ以外の方法はない。


「残念だけど、俺の勝ちだ」


 ニッと挑発的に笑ってみせる。


「この状況で何を言ってるんだ? 息も乱れて力も満足に出せないのに。この俺に一人でどうやって勝つって?」


  朱斗は奇異な目で俺を見た。そして憐れむように、落胆するように、どこか期待をするように小さく笑みを浮かべた。


「ははっ! 教えてやるよ。お前は一つ間違えた」


 自分が勝つと。私には何も出来ないと決して疑わない。その自信をグチャグチャに潰した時、朱斗はどんな顔をするのだろうか。

  頬から流れる血を手で拭って、ニヤリと笑った。

 これらは朱斗が自分の力……否、自分達の力を過信して犯したミスだ。


「俺は一人じゃない」


「っ?!」


 ほんの少しの隙を見逃さずに、俺は左のポケットからバタフライナイフを掴み手早く刃を出す。 

 そして、私の前髪を掴んでいる朱斗の腕を目掛けて躊躇無くナイフを振り下ろした。


「い"っ……!」


 朱斗は咄嗟に手を離してナイフを避けようとしたが、それよりも先に振り下ろしたナイフが皮膚を切り裂いた。深くは刺さらずとも、切れた皮膚からは赤い血が流れる。


「タイムオーバーだ、朱斗」


 握ったナイフの刃先を伝って血がポタリ、ポタリと地面を赤く色を付けていく。傷を抑えて額に汗を浮かべる朱斗は怪訝な顔をした。


「ははっ、タイムオーバー? 言っている意味が理解できないね」


「そのままの意味だよ。時間切れ、この戦いは幕を閉じるんだ」


「何を勝手に……。この俺が負けるとでも?」


「そうだな」


「っ冗談じゃない!」


 感情に任せて飛びかかってきた拳を横に受け流して、力強く握った拳を朱斗の左頬へと食い込ませた。骨と骨がぶつかり合う感触に自然と口角が上がる。


「クソ野郎がっ!!」


「ぐっ?!」


 チカッと一瞬、目の前が真っ白になった事で殴られたことに気がつく。ぐらりと揺れる視界の中で、ニヤリと笑う朱斗の手には黒く光る拳銃が握られていた。


「消えるのはお前だ」


――その言葉を合図に、銃声が鳴り響いた。


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