01 モノトーン
私の見える世界には色がなくモノトーンで全て統一されてる。唯一色付いて見えるのは仲間だけ。
『ギャング』この言葉から人は何を想像するだろうか。普通に生活していれば知らない世界なのかもしれない。物語の中で起きる出来事と思っている人もいるのだろう。
でも実際、私達は此処に存在している。
『人に暴力を振るってはいけない』と教わり育った人が多いだろう。
だが、私達の世界はそんなルールは通用しない。一瞬の隙を見せればやられる、そんな世界。
生きる為には、戦うしかない。私はそれしか生きる術を知らない。
「莉樹ってさ、普通じゃないよね」
生きていく中で何度この言葉を聞いたのか。怪訝な顔をしながら薄く見下す様に吐き出される言葉。
私はみんなにとっての普通がわからない。
何をすれば普通なのか、何を言えば普通なのか。
本当に、本当にたまに思う。もし私が普通の女子高生だったら……と。私が普通の女子高生なんて、想像もできないのが結果なのだが。
学校の屋上に寝そべり空を見上げる。やはり今日も色が見えない。
「ねぇ、蓮。もし私が普通の女子高生だったらって考えられる?」
「お前が普通の女子高生? うわぁ、考えただけで鳥肌立つわ」
「それは失礼じゃない?」
そう言って鳥肌が立った腕を擦りながらこちらを見ている男は、私のパートナーの蓮。
蓮とは腐れ縁というやつで今年で十三年一緒に居ることになる。幼い時からずっと一緒に生活してきた、私の大切な人。
ふと、視界が暗くなり何事かと視線を向ける。
「莉樹、今日はみんなに会わないのか?」
キラキラとした大きな瞳で私を見ているのは私の一番信頼している部下の洸輝。
「今日はいいや」
「そっかぁ……」
「私が居ない分コウにまかせる」
少し落ち込んでいるコウの頭を軽く撫でてから蓮と屋上を出て家へ向かう。
コウとは洸輝のニックネームのことだ。コウは自分の名前を酷く嫌っている。
コウだけではなく、私の部下のほとんどは自分の名前が嫌いでニックネームで呼び合っている。
「蓮昨日のデータ処理お願い」
「あぁ、了解」
家に着くなり二人でパソコンへ向かい無言で黙々とキーボードを叩く。カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋に響いている。
ふと、窓に目をやると空には月がのぼっていた。
時間が気になり時計をみると午前一時。家に帰ってきてからずっとパソコンを弄っていたため気づかなかったようだ。
私は立ち上がり、隣でパソコンに向かっている蓮に声をかける。
「蓮、行くよ」
「え? あぁ……もうそんな時間か」
「服は?」
「わかってる。今渡す」
蓮が持って来た黒いパーカーと黒のスウェットズボン、白のカットソーを慣れた手つきで着る。最後に、短髪で金髪のウイッグを被る。
「莉樹」
蓮に呼ばれ、振り向くと狐のお面を投げられた。蓮も既に着替えていたようで、私と同じ狐のお面を持っている。
「行くよ」
「おぅ……」
外へ出ると月が私達を照らした。顔を上げ空……月を見た。あぁ、今日の月は何だか寂しそうだ。
今から行くのはチームに属している人だけが寄り付く迷路の様な路地裏。普通の人は寄り付かないため、世間ではかなり危険な場所として名が通っている。
暗い路地裏を進んで行くと、呻き声が聞こえた。すぐ近くに気配を感じる。
「ゔあぁぁっ……!」
「弱過ぎるなぁ、お子様は寝る時間ですよ」
「ははっ、うける。泣いてんぞこいつ」
「うわ!本当だ」
声のする方へ歩いて行くと、ケラケラと笑う不快な声が聞こえてきた。三人の男が一人の男に群がって暴力を振るっているようだ。
「……っや、やめてくれ!」
「どうしようかなぁー」
紅い刺青……紅羽か。刺青だけってことは下っ端だな。
「ほら、早く逃げないと顔が潰れちゃうよ」
「ひっ、やめてくれ!」
「やめてくれじゃなくて『やめてくださいお願いします』だろ?」
見る価値もない、そう判断した。その瞬間刺青の男が横に吹き飛んだ。隣で吹き飛んだ男を見て何が起きたのか理解出来ていないのか、二人の男は目を見開いて呆然とこちらを見ていた。
私はその男達を無視し、横目で暴力を受けてた男を見る。男の右肩には黒の骸骨の刺青。この男は黒鬼の下っ端か……なんて頭で考えながらも男に向けて口を開く。
「早く逃げれば?」
「あ……」
男が逃げたことを確認して、飛ばした男を見る。運悪く頭を打ったらしく頭から血が流れている。
「……っおい、お前誰だよ!」
「最近紅羽は調子に乗り過ぎてる」
「おい! 誰だって聞いてんだよ」
「煩い、吠えるな犬」
「なっ!」
「吠えてる暇があるなら、助けでも求めれば?」
挑発するように口角を少しあげる。
「ははっ、随分余裕だな。残念、もう呼んだわ」
そう言って不気味な笑みを浮かべながら携帯をヒラヒラと見せ付ける男。
それと同時に複数の足音が聞こえる。五人、いや……十人程度か。正直舐められたものだな。十人で戦うと?
はっ、ほんと笑える。低脳にもほどがあるだろ。
「一人で十二人相手じゃ無理だろ、降参してもいいんだぜ?」
「誰がするかよ。準備運動にもならないわ」
「……っこの野郎! 行け、手加減はなしだ!」
怒りで顔を真っ赤にして叫ぶ男が哀れで、滑稽で自然と笑みが浮かぶ。鏡を見なくてもわかる。私が今、どれだけ不気味な笑みを浮かべているのか。
「ふっ、馬鹿みたい。いや馬鹿なのか」
男が声を上げてこちらへ向かって来る。その姿が哀れで笑がこみ上げてくる。
じゃ、そろそろ始めようか。
「GAMESTART」