11 家族とペンダント
東城高校から徒歩約十分、紺色の屋根の白い一軒家が私の家だ。みんなに昨日拾った庵を紹介する為に我が家に呼ぶことにした。
「……今日来る奴等ってどんな奴?」
昨日の生意気な態度とは裏腹にしおらしい態度に思わず眉間に皺が寄る。
「何、お前もしかして緊張してんの?」
煽る様に言うと庵は昨日と同様鋭い綺麗なオッドアイで私を睨み付ける。
「別に緊張なんてしてねぇし!」
「ふっ、庵ちゃん声が震えてるよ」
「震えてねぇ‼︎」
鼻で笑ってやると顔を赤くして怒鳴る庵は凄くいじりやすい。
「そうやってお前は生意気なままでいろよ。俺の仲間は全員良い奴だから」
庵の額に軽くデコピンをして安心させる様に優しく微笑む。デコピンをされた額に触れながら目を見開いていた庵はハッと我に返りすぐに拗ねて顔を背けた。
「……確信犯め」
「知るか、挑発に乗るのが悪い」
庵と暫く戯れてると鍵を開ける音と賑やかな声が聞こえてきた。次第に大きくなる声と足音に隣から緊張している気配が伝わる。
「ただいま……って何で庵は莉樹の後ろに隠れているんだ?」
蓮はドアを開けるなり私の背後に隠れる庵に怪しい者でも見たかの様に冷めた視線を送る。
「べ、別に隠れたわけではないし」
「いや今のは完全に隠れてただろ」
「うるさい黙れ」
面倒臭い奴だなとか呟いてる蓮を無視して庵の腕を無理矢理引いて自分の前に立たせる。
蓮と一緒にリビングに入ってきたコウ達は一瞬目をキョトンとさせたが直ぐに状況を理解したのか目を輝かせた。
「君が庵かい?!」
「え? あ、はい……」
「俺は洸輝! 皆にはコウって呼ばれてるから庵もそう呼んでよ」
コウが興奮した状態で勢いよく話しかけるから庵が若干引いてる……。敬語になってるし完全に庵の頬が引きつってるよ。
「ちょっとコウ! あんたの所為で庵が引いてるじゃない」
ハルはそう言うと庵とコウの間に無理矢理身体を入れて庵に向き合う。
「ごめんなさい。うるさかったでしょう?」
「いや……大丈夫」
「私は長谷川遥花。ハルでいいよ」
「俺は、庵」
ふわりと優しく笑う彼女に安心したのか庵も肩の力を抜いて自然に話している。どうやらハルとは仲良くなれそうだ。
要だけ自己紹介していない事に気付き、要を見ると蓮から貰ったのかコーヒーを冷ましながら飲んでいた。
……正直庵よりもコーヒーに気をとられる要に呆れたが熱いコーヒーを冷ます姿があまりにも必死だったから何も言えなかった。
「要、あとはお前だけだぞ」
コーヒーから意識を離してチラリと横目で庵を見る。
「………高杉要」
一言自分の名前を言うとすぐにコーヒーへと意識を向けた。
その様子に私は思わず微かに苦笑いを浮かべた。
「ハル、昨日頼んだ物持って来たか?」
「うん。もちろんだよ」
ハルは手に持っていた黒い紙袋から小さな白い箱を取り出し、意味がわからずに首を傾げている庵の手の上に箱をのせた。
「私達からのプレゼントだよ!」
ニコニコと笑いながらハルは箱を開けるように庵を急かす。
「……コレって」
「お前のためにハルが作ったんだ。綺麗だろう?」
箱を開けると黄華の象徴である黄色い薔薇が描かれているペンダントが入っていた。
「黄華へようこそ。これからはお前も私達の家族だ」
私よりも少し上にある頭を優しく撫でる。
「これからよろしくね!」
「家族なんだし敬語とか必要ないからな!」
「………っ!」
ニコニコと笑っている私達を少し目に涙を浮かべて見た。
「何、お前泣いてんの?」
からかうようにそう言えば庵は笑った。どこか儚く、淡い綺麗な笑顔。
「……うるせぇ」
この時の庵の笑顔は、きっと私は忘れることはないだろう。