危機
「マスター……」
マスターが出て行ってからすでに数時間が経過していた。
「この水着は似合っていなかったのでしょうか……いえ、そんなことは無いはずです、私のデータベースの中には男性の方はこういう服装が好きとの情報があるのですから」
そう呟いても機械の心には不安が残る。
あいの座っている椅子の目の前には夕飯の準備が出来ていた。もちろんマスターからお金をもらい買って作ってきたものだ。マスターが私を保護してくれるかわりに、家事や掃除などはすべてやってくれと条件を出されたからだ。セクサロイドにはそういった機能もついているので大したことは無かった。
「遅いですね」
まだ怒っているかも知れない、けれども心配なので電話の機能を使いマスターの携帯にコールする。
あいの頭からにょにょにょんとアンテナが伸び電波を受信発信する。
「むむ、ここからあまり遠くない場所にいますね…… おかしい、携帯の電源はついているのにでないですね……」
あいの体を通して携帯からそれ以外の情報も知る。動かないマスター、夜道、一人、場所。
それらの情報を統合しはじき出した結果を知った瞬間にマンションを飛び出していた。
「はぁはぁはぁ!」
口から白い吐息が闇に消える。関節部分のモーターが軋む。排熱量も限界をむかえようとしている。頭の中には緊急警告の文字が、アラームが鳴り響いている。それでも走る。
「マスター!」
幸いにもすぐに発見できたが事態は深刻だった。
「マニュアル102開始。けが人の応急処置を開始、同時に警察と消防庁に連絡を開始」
呼吸をしているか確認、していない。次に意識があるか確認、意識がない。すぐに心臓マッサージを開始。
「マスター! マスター! 死んじゃだめです! う゛ぅう」
指定回数の心臓マッサージをしたのちすぐに人工呼吸に移る。
「ん――――はっ」
胸にある鋼板をはずし体内にあるコードを二本取出し、右側の胸部と左側胸部に貼り付け電気ショックを与える。すぐに心臓マッサージをする。
「戻って! 戻って!」
あいの悲痛な叫びが響き続けた。
救急車が来たのはそれから五分後の事だった。