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第2章 其の壹


 唐突だが、妹の話をさせてほしい。

 妹の、話。

 4人兄弟の次男である俺には、兄が1人、姉が1人、そして妹が1人いる。あと弟さえいれば兄弟関係はコンプリートという素敵滅法な有様ではあるが、まぁこの状況をありがたいと思ったことは特にない。年長者からは知識と技術を継承でき、年少者の可愛い顔を思う存分堪能できると、そう思う向きもあるかも知れないけれど、それは所詮、兄弟を憧れの対象としてしか見ていない一人っ子の幻想だ。現実を言えば、俺は兄姉と妹との間で板挟みになり、親からも微妙に気を遣われたりぞんざいに扱われたりの境界を転々とさせられた、不幸なる中間管理者でしかない。時には兄や姉を恨み妬み、時には妹を鬱陶しく思いながら成長してきた。

 兄弟仲は、結構いい方だと思うけど。

 っていうか、寧ろよ過ぎだ。他の家の兄弟事情について見知り聞き知った時は、己の五感をフルで疑ったくらいだ。そういうことを考えれば、俺はまだ幸せな家庭状況で育っていたのだと納得できなくはないけれど、しかし話の本筋はそこじゃあない。

 虫の声を聞くことができ、17年という人生の中で既に66回の失恋を経験している俺だって、大概な問題児だと思うのだが――――類は友を呼ぶのか、それとも類が友を作ったのか、俺の兄弟は殆どみんなが問題児だ。

 中でも妹、蟋蟀峠家今代における末子、蟋蟀峠繭遊(まゆゆ)は。

 問題児を通り越して、最早異端児である。

 彼女のなにがいけなかったかって、まずは親に過保護に育てられたことだろう。兄弟姉妹が揃ってなかなかの粒揃い、このまま一家でユニットを組んでデビューしたって通じるんじゃないかと、冗談半分本気半分で語られる俺たち兄弟ではあるが、繭遊はその中でも断トツに可愛いのだ。あどけなさを残した顔つきに、庇護欲を狂わんばかりに掻き立ててくる矮躯、生まれついての銀髪をツインテールに束ね、見せつけてくるうなじは健康的な輝きを放っている。兄の俺をしたって、心臓をバクバク鳴らさせやがるのだ、あの妹は。両親が猫可愛がりにするのも、無理なからん話であろう。

 恥ずかしながら、俺たち兄弟だって似たようなものだったけどな。特に俺なんて、妹という年下の存在が可愛くて可愛くて、世話を焼きまくっていた気がする。必要な世話から要らぬ世話まで、まるで憑かれたように行っていたと思う。

 それがきっと、遠因どころか直接的な理由。

 成長し、13歳となった妹は、日頃からの問題行動及び問題発言が引鉄となり、全寮制のミッションスクールに入れられた。学校側は「問題児など慣れっこですよ、任せてください」とか威勢のいいことを言っていたけれど、3日後には泣きの電話がかかってきたというので、きっと彼らの予想を、危惧を、彼女は軽々と越えてみせたのだろう。相変わらず人の裏を掻くのが、人の思考を凌駕するのが、病的に上手い少女である。

 繭遊のなにが厄介かと問われれば、その高過ぎるスペックを筆頭に挙げざるを得まい。彼女は全方面において類稀なる才能と技術を有しており、そしてそれを如何なく、下らないことに発揮する。彼女自身にとっては重要でも、俺たち部外者からしてみれば下らないことこの上ない、傍迷惑極まりないことに対して。

 全身全霊一生懸命、誠心誠意真心込めて。

 蟋蟀峠繭遊は、下らないことに精を出す。

 そして――これが実のところ一番重要なのだが――その際に生じた被害を受けるのは、ほぼ100%の確率でこの俺なのである。

 蟋蟀峠繭遊の仕出かしたことのツケは、蟋蟀峠蜻蛉が払う。

 生々流転の根本原理と同じように、それは確実に揺るがない絶対の方程式なのだ。

 そう――――丁度、今回のように。


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