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第1章 其の貳


 さっきも思ったかも知れないけれども、この世は概ね、基本的にはなにが起きても平常運転を貫こうとする性質があるようだ。言うなれば、世界単位での慣性の法則。揃いも揃って物理法則1つの奴隷であるという訳だ。奴隷の体内で生きている細菌のような俺たち人間は、即ち奴隷なんかよりよっぽど位の低い俗物であるからして、そんな下等生物の分際で新たに奴隷を所有しようなどとは愚の骨頂、片腹痛いにもほどがある。分を弁えて生きるのが世界における唯一の正解なのだから、横道に逸れるようなことはなるべくしない方がよい。他の誰がどこでなにをしていようと構わないけれども、少なくともそんな面白くもない真理を悟ってしまっている俺自身くらいは、よりよい生き方を奨励し邪道を自制しようと思うのである。

「よし、うん、理論武装終わり」

 言いながら俺は、学ランの長袖をぶらぶらと揺らした。

 うちの高校――私立竈ヶ原(かまどがはら)高校には、やや長めの衣替え期間がある。6月中旬から7月初旬にかけて、夏服と冬服とが混在する期間があるのである。気温どころか天気も不安定な時期だから、正直長袖と半袖を選択できるのはありがたい。今日はやや肌寒さを覚えるくらいの気温だったから、どす黒い学ランを纏っているという訳だ。なんとも機能的な制度じゃないか、俺はこういう機能美を愛する。

 少なくとも、突然転がり込んできた元・ゴキブリの痴女よりは、よっぽど愛情を注げる。

「……ったく、あいつの所為でこんなことを考えなきゃいけねーなんて…………今日はなんつー厄日だよ……」

 蟋蟀峠蜻蛉、御年もって17歳、高校2年生。

 只今、思春期真っ最中。

 そんな精神状態だというのに、しかも朝っぱらから、起き抜けの頭に叩き込まれたのは、交尾のことしか頭にないであろうゴキ子の戯言だったのだから厄介だ。彼女がいないのも手伝って、鬱憤ばかりが募る俺の脳内では今、ギラギラと欲望の淫獣が滾り切っている。あいつの言葉一つ一つを思い出す度に身体が熱くて、無理矢理にでも理性的にならないととんでもないことの1つでも仕出かしそうだ。

 今俺は、自分のことが一番信用できない。

 理論武装っていうか、自分を無理矢理正論っぽいもので捻じ込むだけだ。いいんだよ根本的なところで間違ってたって。それっぽく聞こえれば、どうせ俺の本能には、反論する能なんざねーんだから。

「ちっ…………それにしても、時間も時間だからかも知れねーけど、誰もいやしねーな。都合がいいんだか悪いんだか……」

 時刻は未だ7時25分。あと15分も歩けば学校に着くというのに、人の影1つ辺りには見えないのだ。

 見知った奴でもいれば積極的に話しかけて気を紛らわせるのだが、もしも知らない人ばかりだった場合、俺は妙に目をギラギラと輝かせた不審人物に映ることだろう。それは遠慮したい。俺だってバカじゃないんだから、自分が今どんな状態かくらいは知っているつもりだ。とてもじゃないが、第三者に合わせるような面はしているまい。

 都合がいいんだか、悪いんだか。

 どっちだか判然としやしない。


『体調悪そう?』

『血ぃ吸う? デトックスる?』

『どうでもいいけど、踏まないでね』


「お前らに話し相手役は期待してねーんだよ。こういう日くらい、大人しく黙っていろ」

 一人で歩いていると、余計に虫が寄ってくる。会話が成立する人間が珍しいのだろう、外に出るだけで俺の周りは虫の溜まり場になってしまう。

 喜ばれたのは、重宝がられたのは小学校低学年までだ。中学年に上がる頃にはいじめの対象にクラスチェンジし、高学年になるとえんがちょの向こう側に不法投棄された。体質が人払いのそれに変わってからはこの通り、彼女もいない独り身の人生だ。

 自分で言うのもなんだけど、顔の造形はそこそこいい方だと思うんだけどなぁ。

 料理だってできるし、家事は結構万能だ。

 付き合う上でメリットの方が多いことだけは、確約できるんだが。

「どうして俺には、彼女ができないんだ…………」


『そりゃ、こんなに虫が近くにいればねぇ』

『女の子って、虫苦手だよね』

『気持ち悪いとか、失礼極まりないよ』


「理由が分かってんなら散れやボケェっ!」

 折り畳み式蠅叩きを瞬く間に伸ばし、刹那の間に一閃。居合抜きさながらの早技を披露すると、虫たちは一斉に四散していった。

 これだけ怒気を発してやったというのに、1匹も殺していないのだから、我ながら惚れ惚れする。ただ、同時にこんなことの腕だけ上達してどうするんだよと、我ながら悲しくなる。なんなんだこのジレンマは。


「お、今日もやってるねぇ蜻蛉」


 お。

 やり場のない怒りをぶつける、手頃な奴が向こうから寄ってきた。

「おはよう、今日はちょっと肌寒いねっとぉっ!?」

「ちっ、外したか」

 にこやかに向かってくる級友へ振り向き様、俺は蠅叩きを振るった。鼻先を掠めるくらいの、絶妙の位置。案の定、彼はその襲撃に気付き、慌てて前進を停止させた。蠅叩きは蠅も鼻も叩くことなく、ただ虚しく空を切る。

 大して焦った様子もない我が旧友は、俺と蠅叩きを交互に見て、それからようやく目を鋭く尖らせた。

「蜻蛉。僕に対していきなり攻撃するのはやめろと、散々言いつけた筈だよね? 一体いつになったら、君は僕の言うことを素直に聴いてくれるんだい」

「うるせぇ。今日はちょっと、やむにやまれぬ事情があったんだよ。なにせお前の鼻の頭に、直径20センチくらいの虻の幼虫が」

「嘘を吐くにしてももう少し心臓にいい嘘を吐いてくれないかなぁ!?」

 大法螺だと分かっている癖に、妙に切迫した様子で彼は鼻の頭を擦る。顔面の中央に何者も鎮座していないことを確認したそいつは、額を伝う冷や汗を拭いながら続けた。

 我が旧友――――腐れ縁の少年、鎌谷(かまがや)桐杜(きりと)は。

 線の細い身体と大人しそうな顔、その二つに似合わない、なんとも偉そうな台詞を。

 堂々と胸を張って、続けてきたのだ。

「まったく、君という人間は何回言っても聴いてくれないみたいだから、僕の方としても口を酸っぱくして言わせてもらうけどね。そもそも君には他人の気持ちを鑑みようという精神がないんだよ。いっつも自分の都合最優先でさ、相手の気持ちにどこまでも鈍感だ。普段は遅刻ギリギリに教室へ駆け込んでくる、『時の破滅者』とまで銘打たれる君と、こうして登校時に出会えたという奇跡を目の当たりにした僕に対してだってこの仕打ちなんだ。本当、君のコミュニケーション能力のなさに憐憫の情を隠せないよ。ほら、あれはいつだっけか、確か幼稚園の時だって君はそうだったんだよ。隣で僕が食べているおやつを横取りしたり、絵本を呼んでいる時に限って連れ回そうとしたり…………あぁ、思い出したらむかむかしてきた。君のこと、一発でいいから殴らせてくれないかなぁ蜻蛉」

「出てきて初っ端からアクセル踏み過ぎだろ、お前。落ち着けよ桐杜、今日はなんかテンション高過ぎだぞ?」

「……ふん、君には分かんないだろうね。あぁ分からないだろうさ。僕の気持ちなんて、これっぽっちも分かるものか」

「なんだよ、拗ねんな拗ねんな。悪かったよ、ちょっとからかってみたくなってさ」

「蜻蛉なんて、一生涯彼女ができなければいいんだ……」

「おーい、殴るぞー☆」

 それは流石に鬼門だろうが我が親友よ。未だ毛虱の1匹も殺めていない蠅叩きを、その小ざっぱりとした頭にめり込ませてやろうか。


「あはははは、今日も楽しそうだねお二人さん。いやぁ、見ていて思わず妬けちゃいますなぁ」

「……おはよ、ございます」


 割とマジな殺気を孕んだじゃれ合いに、ふと乱入してくる声が2つ。

 まぁ桐杜以外で俺に積極的に話しかけてくる奴なんて、相当数は絞れるから、誰かはすぐに分かる。声のした方向へ目線を移すと、予想通りのアンバランスな二人が揃って近付いてきていた。

「……そういうお前らこそ、いつも通りに仲よさげだな、雨降(あめふらし)姉弟。っつーかしおり、妬くってなんだ妬くって。俺と桐杜の小競り合いに、嫉妬する要素なんざ皆無だろうが」

「いやぁ、あはははは、なんていうかなー、恋っていうのは素晴らしいねと」

「意味が分かんねー。俺のことは盛大に振った癖に」

「蜻蛉ちんのことは憎からず思っちゃいるけれど、悪いがわたし、虫が大の苦手なのさー」

 あくまで朗らかに、嫌味な調子一つなく言ってくるのは、雨降姉弟のちんまりした方、雨降しおりだ。同学年とは俄かに信じられないくらいに背が低く、体型も子どもっぽいのだが、頭の中身は見た目以上に子ども丸出しである。なんだ『ちん』って。人の名前に妙なものを付け足すんじゃねーよ。

 虫の言葉が分かる故に虫に好かれ、反面女子に好かれなくなったこの俺ではあるが、女友達が皆無という訳ではない。限りなく0に近いというだけで、いるにはいるのだ。その一人が、この雨降しおり。俺が35番目に告白した際、『ごめんねー、蜻蛉ちんのことは別に嫌いじゃないんだけど、虫だけは勘弁だわー、ないない』と滅茶苦茶明るく振ってくださった。その直後こそバッタとキリギリスを武器とした激しい闘争があったものの(というか、俺が一方的にけしかけた。わーきゃー騒いで実に楽しかったよ、えぇ)、今では仲よしこよしの親友である。昼飯だって一緒に食べたりする。

 だから、俺には女友達がちゃんといるのだ。いるったらいるんだ。それだけは譲れない。

「……蜻蛉さん、それ」そう、繰り返す通り俺の女友達であるところのしおりの、その隣に佇む少年が、俺の手にした蠅叩きを指差す。

「ん? あぁ、ついカッとなってやって反省していますがなにか?」

「僕に対する釈明がないとはいい度胸だね蜻蛉。君を不能にする呪いでもかけてあげようか?」

「物騒なこと言うんじゃねーよ!」

「……仲、いいですね」

「物理的な上から目線で優しい言葉を投げかけないでよ爽乃(さわの)くん!」

 何故だか顔を真っ赤にして、桐杜が叫んでいた。本当、こいつは昔からよく分からん。

 怒鳴られた方の少年――――しおりの弟こと雨降爽乃は、しょんぼりと肩を落とした。どうにも男らしからぬ名前だが、彼はきっと『名は体を表す』という言葉の見事な反例であろう。俺も桐杜も、彼以上に男らしい男など知らない。

 190を優に超える背丈に、がっしりとした身体つき。名の漢字通りに爽やかな笑顔だが、姉と似ているのはその部分だけだ。あとはもう、全部が全部姉の真逆。1つしか年が変わらないとは思えない、奇跡の凸凹姉弟なのである。

 ついでに言えば、礼儀正しく物静かなのも、姉とは正反対。足して二で割れば、双方共に丁度いいっていうのにな。

「そういえば聞いたよ蜻蛉ちん。小割ちんに告白したんだって?」

「ぐ…………てめぇ、どこでそれを聞きつけやがった」

「いきなり敵意剥き出しはやめてよー。別にからかうつもりなんてないよーだ。だぁって、告白して振られるだなんて、蜻蛉ちんにとっては日常茶飯事だもんね」

「殴るぞてめぇ」

「蜻蛉、女の子を殴るなんていうのは感心しないね」

「お前は黙っててくれよ桐杜。お前に分かるものか、いつまで経っても彼女ができない独り身のこの辛さが…………!」

「……それを、僕が知らないと思っていることが、だから鈍感だって言っているんだよ」

「ヒューヒュー、いやぁあっついねぇお二人さん。しおりさんってば干上がっちゃいそうだよ」

「木乃伊にでもなっちまえ」

 雑談が再開され、ついでに登校に関する再生ボタンも押される。体格のまるで異なる俺たち4人ではあるが、足並みを揃えるのも、もう慣れたものだ。蠅叩きの存在をアピールしておけば、虫は滅多に近付いてこないしな。尤も、蠅叩きを持ったまま付き合える連中というのが、なにを隠そうこいつらくらいなものなのだが。

「小割ちん、随分と怖がってたみたいだけどさー、蜻蛉ちん、なんかやったの?」

「俺がそんなことをするような奴に見えるか?」

「見えないからこそ訊いたんだけどね。じゃあなに? また虫たちが蜻蛉ちん目掛けて群がってきたとか?」

「その通りだ」

「相変わらず変わってないねぇ、その体質。虫に好かれるフェロモンでも出てるの?」

「んな訳あるか」

 否定はしておくが、しかし本当のことを言う訳にもいくまい。虫と会話ができるだなんて、知られたらそれこそ村八分にされる。

 人間は、理解できない事象に対して本能的な拒絶反応を示す。現在進行形で『あの女』がそうであるように、人間、自分の常識に照らし合わせていかないとまともに歩くことすらできないのだ。理解不能な物事は、残さず排斥して、自分たちにとって生きよい世界を作り出す。それが人類誕生から数千年、絶やすことなく行われてきた営みだ。

 生憎俺は、そんな風習の犠牲になるつもりはさらさらない。

 例え親友でも、親友だからこそ、話せないことというのは存在するのだ。

「まぁそーだよねー。蜻蛉ちん、変な臭いとかがする訳じゃないもんねー」

 そう言って、しおりは俺の身体へと、その幼顔を近付ける。鼻先を押し当てるように漸近させ、ひくひくと鼻腔に蠕動を促す。

 と、その時だった。

 空気が凍りついたような、凄まじい殺気が俺の肌を舐めた。

「しお――――」

「お、おぉ?」

 咄嗟に、まるっきりの反射行動で、俺は、しおりのことを突き飛ばしていた。

 額をとん、と手で突いて。

 風船みたいに軽いしおりの身体は、それだっけで呆気なく傾き、俺との距離が離れていく。コンマ一秒前よりも確実に、俺としおりとの間には空間が広がっていた。


 その空隙に、勢いよく弓矢が襲来した。


「っ!」

 上空から放たれたのであろうその矢は、アスファルトの地面に深々と突き刺さる。びぃん、と音を立てて撓り、獲物を捕らえられなかった悔しさを嘆いているようでさえあった。

 弓矢。

 おもちゃでもなんでもない、殺傷のみを目的とした凶器。

「っ、あっの女郎またかよっ!」

「あは、あはははは…………いやぁ、流石にちょっと、びっくりした、かな」

 すぐ横にいた爽乃に支えられ、ようやく立っているしおりは、青い顔をしながらもなんとか笑っていた。命を狩られるか否かの瀬戸際だったというのに、なんとも暢気な奴である。そんな姉を落ち着いて抱えている爽乃も爽乃だが。

 くそっ、あの女。

 少しでも隙を見せるとこれだ。まったく、いい加減手に負えない。

「また揚羽宮(あげはのみや)かい? 蜻蛉、君はまだ彼女と仲違いしたままなの?」

「仲違いなんて言葉は正確じゃねーよ。あいつが、俺のことを一方的に敵視しているだけだ。まるでお互い様みたいに言うんじゃねぇ」

 そう言うと、桐杜は「やれやれ」と肩を落とした。

 揚羽宮――――揚羽宮愛虫(あいむ)

 豪壮な名字が示す通りの、家柄だけならどこに出しても恥ずかしくないお嬢様。その実態は、とある件から俺のことを逆恨みし、常に影から俺の命を狙う暗殺お嬢だ。授業中もその姿を滅多に見せず、日に数十回の不意討ちを食らわせてくる、厄介極まりなく迷惑この上ない人物である。どうして捕まらないのか、未だに不思議で仕方ない。

 揚羽宮財閥って、そこまで力が強いのか?

「あはははは、まったく桐杜ちんといい愛虫ちんといい、みんな素直じゃないよねぇ。もっと真っ直ぐに生きればいいのに、なんて、他人のわたしからすれば思っちゃうんだけど」

「は? なに言ってんだお前? っていうか、巻き添えで殺されかけた直後だっていうのに、なんであのバカ女郎のことなんか笑顔で語れるんだよ」

「そこはそれ、蜻蛉ちんとわたしの、レベルの差という奴なのだよ」

 意味不明なことを嘯いて、何事もなかったかのように歩行を再開するしおり。何故か顔を真っ赤にしている桐杜も連れ立って、俺たちも釣られるようにして歩き始める。

 それにしても、揚羽宮愛虫、か。

 名前の通りに女性となのだが、そういえばこいつには告白したことがなかったな。なんでだっけ? 少しでも惚れ込む要素があれば、俺は後先考えずに告白しちまうような、そういう猪突猛進タイプの人間なんだけど。

 ここ数ヶ月、あいつの姿をまともに見ちゃいないからな。

 怒りの方が先行して、細かいことを忘れてしまっているのかも知れない。

「まぁまぁ、小割ちんはわたしと同じで、虫が苦手だったっちゅーのが敗因だけど」しおりは悪戯っぽい笑みを浮かべ、爽乃の腕にまとわりつきながら言う。「蜻蛉ちん自身は、なかなかにスペックが高いのだということは、わたしがちゃんと保証してあげよう。1周回って、それが取っつき難さに繋がっている部分もあるんだけどね。けれど、普通にしていれば彼女の1人くらい、その内できるようになると思うよ」

「…………しおり、知っているとは思うけどな、俺はお前を含めて66人からごめんなさいの返事しかもらってねーんだぞ……?」

「たかだか66人でしょうに。卵子と受精しようだなんていう精子たちは、一体何億個が淘汰されると思ってるのさ。それに、いざっていう時には隠し玉があるじゃない」

「隠し玉?」

「揚羽宮愛虫ちん。あの子だったら、きっと蜻蛉ちんの彼女にぴったりなんじゃないかな。あの子には、まだ告白していないんでしょう? 1年、2年と同じクラスだった癖に」

 お前もだけどな。ついでに言うなら、桐杜も。

 いやしかし、揚羽宮? あいつに、俺の方から告白しろってのか?

 人のことを勝手に逆恨みした揚句、命を狙い続けるようなイかれたお嬢様にか?

「……冗談は大概にしろよ、しおり。俺は自分から、命を捨てようとは思わねーよ」

「贅沢だねぇ」

 当たり前だ。

 俺だって女子に夢見ている身だから、そんなに偉そうなことなんて言えないけれど――――甘えるなという話である。

 女子が思っているほどに、この世の男子は王子様じゃない。

 優しくないし、面白くないし、スポーツはできないし、勉強も不得意だ。

 女子たちが、お姫様でないのと同じように。

 八つ当たりみたいに道端の石ころを蹴飛ばして――――俺たちは、竈ヶ原高校の正門をくぐっていった。


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