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第2章 其の肆


 家に帰ると、玄関は綺麗に元通りになっていた。いや、元通りどころではない、ゴキ子に破壊される前よりずっと綺麗に、ずっと丈夫に造り替えられていた。ボロアパートの一角には、とてもじゃないが似合わない。周囲との調和を図れないのは、天才の拭い難い悪癖なのかも知れない。

 緊張のあまり、上手く手が動かない。普段なら五秒とかからず開けてしまうであろう鍵を、今日に限って一分近くも時間をかけて開けていた。

 ガチャリ、と音がして、扉は俺たちを迎え入れる準備を整えた。

 緊張の一瞬。

 俺はドアノブを握り、ゆっくりとそれを開いた。

 果たして、そこには。

「…………あは」

 夕闇に支配された部屋の中。

 銀髪を煌めかせ、黒い瞳に欲望の炎を灯し。

 小柄な身体と小振りな胸を、藍色の礼拝服で覆い隠して。


「お還り為さいませ」


 妹が。

 蟋蟀峠繭遊が。

 満面の笑みを浮かべ――――出刃包丁を抱えて、俺たちを出迎えてくれた。


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