彼女と俺と
全寮制ということもあり、生徒の大半は顔見知りばかりとなる。
吸血本能を抑えるため、特別な栽培方法で育てられたトマトを、一日に何リットルも補給することになるが、俺もそのうちの一人だ。
「おっはよー!」
壁際でトマトジュースを紙コップで飲んでいると、後ろ側からドンという衝撃が俺を襲った。
衝撃で、2メートルほど吹き飛ばされて、無様に地面にへたり込む。
「あっ、ごめんね」
壁から現れた彼女は、俺がここに来てからの悪友の一人だ。
「お前なぁ~」
起こっている俺が、能力で彼女の頭の上から水を浴びせかける。
それを、さっきと同じように衝撃波で吹き飛ばすと、あたりは霧が立ち込めた。
「ったく、毎度毎度のことだけども、ちっとは手加減しろっての」
俺は霧の中を、軟らかい風が吹いている方向へと歩いていく。
「だってさ、力の調節って、一番難しいじゃん」
笑っている顔が見える程度に霧が晴れてくると、周りの生徒たちは何も変わった雰囲気を見せずに、相変わらずだべっていた。
ちょうど昼休みだってことも関係しているのだろう。
「それで、今日は何の用だ。ルーマニア語の宿題なら、もう提出しただろ」
吸血鬼の世界では、共通言語はルーマニア語だ。
さらに、それぞれの国籍や両親との関係を吟味して母語を習う。
俺の場合は日本語が母語に当たる。
「お昼、どうかなって思って」
見ると、実家から送られてきたであろうお弁当箱を手に提げていた。
周りの関心が一瞬でこちらへ集中するのがはっきりと分かる。
「…わかった、どこで食う?」
「食堂で良いんじゃないかな」
俺たちは、視線の注目を浴びながら、食堂へ向かった。