山賊
俺らは、その大理石の板をカバンに詰めて、山を降りた。
「なあ、この人に会えば、俺は元の世界に帰れるのか」
「そればかり気にしているようだが、気にしていても仕方ないぞ。それに大統長が今なおそれほどの権力があるかどうかは、分からないからな」
「でも、キーマンになることは間違いないんだな」
俺は、先ほどの大理石から出ている淡い光が、俺の体を通過しながらも道先を教えてくれていたので、それに従って山の中を進んでいた。
「止まれ!」
男の声がする。
犬がピタリと止まった。
そこは岩山で、自分の身長の4倍も5倍もあるような巨石がそこらじゅうにあった。
俺は、立ち止まった犬の横に、何も言わずに立つ。
「誰だ」
「お前らの有り金、全部おいてけ。そうすれば、命だけは助けてやる」
「山賊か…」
俺はカバンを背中から下ろし、中からなにか武器になるような物を探した。
出てきたのは、犬と出会った時にお堂の中に落ちていたから、そのままカバンにしまい込んだ折り畳み傘ぐらいだ。
「おい、聞いてるのか」
顔を出して、こちらに弓をつがえている山賊が2人見える。
「ああ、聞いてるとも」
やるしかなさそうだ。
俺は山の上からこちらに飛び降りてきた山賊に向かって、折り畳み傘を向けた。
「だが、有り金をはいそうですかと渡すつもりはない」
ぶんと振り、柄の部分を伸ばす。
それを見ると、山賊は一歩引いた。
「その武器を置け」
弓は相変わらず俺を狙い続けている。
「いやだね」
それから、マジックテープを外し、傘を開ける。
ここまでくると、見慣れたものになるらしく、山賊はほっとした顔になった。
「さあ、その傘を渡すんだ」
「いやだねといっただろ」
俺はそれを振り回し、山賊の手首にぶつける。
ステンレスでできた傘は、この時代にはなかったようで、不自然な金属的な痛さにおびえていた。
「近くの奉行所に報告したほうがいいかな」
俺は逃げ出した一人は追いかけることもなく、足元で倒れてこちらを睨みつけている山賊の片割れだけをじっと見ていた。
「それがいいだろうな」
犬は俺にこたえて、縄を出してくれた。
「これで縛ればいい」
俺は縄で山賊を縛ると立たせて歩かせ始めた。
山を下りたところに奉行所があるらしいので、そこへと連れて行くことにする。