砦と石
犬が入った山は、川が流れていて、その周囲は、なだらかな稜線に沿って木が生えていた。
また、まばらに生えている雑木林と言った感じで、光がしっかりと差し込んできていた。
「なあ、こんなところから分かるのか」
「ああ500年前なら、な」
「おいおい、500年前って。とっくの昔に朽ち果ててるだろ」
「石造りだからな。木造じゃないから多分大丈夫さ」
犬は軽く言った。
俺はそれを聞いて、不安が募るばかりだ。
雑木林を延々歩いていたが山頂近くになると、急に木々がなくなって、視界が開けた。
「やはりあったか」
犬は喜び、一気にその建物に駆け寄る。
俺はその後ろをゆっくりと歩いた。
「ここなのか」
「ああ、扉を開けてくれ」
犬が鼻先で指したのは、石蔵のような、丈夫そうな扉だ。
その建物自体も、漆喰で塗り固められているように見える。
ただし、500年の年月で風化が進んでいるため、建物はあちこちが痛んでいた。
俺は言われた通りに扉を開けて、中へと入った。
中は雨漏りが激しく、あちこちぬかるんでいた。
「この箱だ」
木箱もすっかりと腐っていたが、まだ、どうにか形は保っていた。
だが、触れた瞬間に、箱は崩れ落ちた。
「かまわん、中身は無事だ」
犬が興奮気味に言っている。
木箱で朽ちた部分をのけると、鉄でできた箱が出てきた。
全面赤茶色であるが、まだしっかりと箱であった。
「開けてみよ。鍵はかかっていない」
確かに、蓋の噛み合わせだけで、しっかりと固定されていた。
すっかり錆び付いていたため無理やり開けると、中には青色の石が入っていた。
「よし、ちゃんとあったな」
石を俺に持たせ、さらに別に箱を開けさせると、今度ははめ込むための大理石でできた板がでてきた。
「石を板にはめ込むのだ。それが鍵となる」
犬がそう言った。
俺は青い石を、板に空いたくぼみにはめ込んだ。
刹那、部屋中に青い光が立ち込め、それは一直線に方向を示した。
だが、次第に薄くなっていった。
「この方向に、目指している人物がいる」
犬は俺にそう言った。