元の世界へ
大統長は何やら部下に指示をしつつ、畳の上に魔法陣を描きだす。
複雑怪奇なその印章は、俺の脚をもまたいでいた。
「そこからわずかでも動くなよ。動いた時、お主の命はないと思え」
再び喀血しながらも、大統長は俺に言った。
「犬はどうする、俺と来るのか?」
「いや、止めておくよ。お前と行っても、きっとつまらんだろうからな」
そう言った犬は、確かに笑っていた。
「描けたぞ。では、これから魔術をお主に掛ける。よいな、絶対に動くなよ」
そういわれると動きたくなる。
だが、俺は必死に我慢をした。
魔術をかけ始めたその時、外で気配がした。
その気配は、複数人いるのは間違いなく、大統長も気付いているだろう。
しかし、動いたのは犬だった。
「ではいってくる」
犬は大統長にそう言うと、大統長は呪文を唱えつつ、手を振って見送った。
「御覚悟っ」
犬が壁際にたどり着くと、壁の障子をけ破って人が3人入ってきた。
背中は見えないが、どうやら2人か3人か入ってきているようなので、5人か6人がこの部屋に侵入してきたことになる。
「させぬわっ」
犬はそのうちの一人に飛びかかり、腕をかみちぎる。
しかし、血は出てこない。
まるで、人ではないかのような感じだ。
俺の周りはなにやら空気が濃くなってきた。
「……故に命じる。神の名において異界への紋を開き、この者を連れて行けっ」
大統長の首が飛ぶ瞬間、その呪文は完成した。
俺の体は宙へ浮き、何かに吸い込まれるようにして真っ黒な世界へと突入した。