旅の目的
犬は、鎖が解けるとまず、前足を思い切り伸ばし、伸びをしていた。
「はぁ~、これでいい」
そう言って、伸びが終わると、俺にすり寄ってきた。
「お前には助けられたという恩がある。恩返しをさせてもらいたい。それが、お前を元の世界へと返すということだ」
「なら、どうすればいいのか教えてもらえますか」
「500年前までなら、大統長へ申告すれば、別世界へと送ってもらえたのだが…」
「だが?」
「大動乱以後、どうなったのかはさっぱり分からん」
「大動乱?」
俺は初めて聞いた単語を、そのまま聞き返した。
「知らんか。古国の統一的な政治体制が崩壊したという世界戦争だ。大統長を選ぶ権利があるのは、古国を構成している部族長のみ。大統長とは、まあ、世界の全てを統べる権利がある人のことだな。この人が法律であり、文字通り全てだ。古国は大動乱以前にあった国のことを言う。他の国は対して新国と言ったりするな」
「つまり、そんな大統長のところに行かないといけないと」
「まあ、そういうことだな」
俺の横に座り、犬は俺を見上げていった。
「そういうことで、そこまで案内しよう。もっとも、その前にその大動乱を引き起こしたきっかけが自分だと言うことにされているから、それでどうなるか分からんが」
「どういうこと?」
犬目線になるように、立て膝をつく格好をする。
「大動乱は、大規模な戦争だ。そのきっかけが自分だと言うことさ」
それを繰り返すばかりで、俺はこいつと一緒に旅に出ることが不安になった。
だが、こいつ以外に、今は仲間と言える者はいない。
仕方なしに、元の世界に戻るために、今は我慢をすることにした。
「では、行こうか」
手元にあった傘と、すっかり乾いたカバンと服を持って、服はちゃんと着こんで、カバンは肩にかけて、傘は左手に持って、お堂を犬と一緒に出た。