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女将
「女将さん、あなた……何者なんですか」
俺は、素直な疑問を聞いた。
「この世には、知らない方が幸せだと言うこともございます。とはいっても、あなた方には教えておきましょう」
女将さんが、俺たちのところへ、着物のまま音もなくやってきた。
「わたくし、昔は古国の一つ、五十嵐国の国主の娘、今はこのように女将業を営んでおります、五十嵐穏香でございます。この度は、狼藉者をここまで上がらせてしまいまして、申し訳ございませんでした」
正座して、謝る女将さんに、俺は慌てて言った。
「いえいえ、こちらこそ、先ほどの侍たちから守っていただきまして、ありがとうございます」
それから、女将さんが顔上げて、犬に聞いた。
「時に。貴方様、以前お見かけいたしませんでしたか」