犬神との出会い
気持ちよく眠っていたら、いつの間にか晴れていたようだ。
「晴れたか、じゃあ行かないとな」
俺は乾いた鞄を背負い、再び柏手を打ち、お礼を言った。
「お邪魔させていただきました、おかげで濡れずに済みました」
「そうか」
ご神体の裏から声が聞こえてきた。
「え?」
「濡れずに済んだことはいいことだが、ここはお前が来るべきところではない」
「どういうことですか…」
俺は声の正体が知りたくなり、ご神体の後ろ側を覗き込んだ。
大きな白い犬が、鎖につながれて、お札をそこらじゅうに張られて座っていた。
「だが、ちょうどいい。お前、これを解け。お前ならできるはずだ」
「ちょっと言っていることがよくわからない…」
犬は、俺を赤い瞳で睨み付けた。
「言っていることがわからない?ならおしえてやろう。ここは、お前が来た世界と並行して存在している世界だ。本当ならば、こちらとそちらはつながることはない。だが、500年に一度、13次元という高次元まで接することがある。こうなれば、正しい位置と正しい時間にいれば、こちら側と行き来ができる。お前にとっては不運であったかもしれないが、こちら側にとっても不運な出来事だ」
「…やっぱし意味が分からないですが」
「では、単刀直入に教えよう。お前は異世界へと来たのだ」
この言葉を聞いて、俺が理解できたはずがない。
だが、そのことは事実のようだ。
最初に神社の中を見たときには、裏に隙間なんかはなく、犬も当然いなかった。
俺は、何も言えずに、その場に座り込んでしまった。
「立つんだ。そして、私を縛っているこの鎖を解くのだ」
「…解いたら、元の世界へ返してもらえますか」
「約束はできんが、努力しよう」
俺は、藁にもすがる気分で、犬の鎖に触れた。
刹那、鎖は、元からなかったかのように消えていた。