謁見
「よい、近う寄れ」
言われたから、正座をしたままで俺は木下城主の真正面に正座して座った。
犬は俺のすぐ横に座っている。
「おぬしらが山賊を退治したと申すものか」
「退治というか、まあ捕まえました」
「うむ、あっぱれじゃ」
日の丸扇子でも広げかねない勢いで、城主が俺らに言った。
「ならば褒美を取らそう」
城主が持って来させたのは、籐でできた箱だ。
「特にお前が必要になる物だな」
犬が俺にこそっと教えてくれた。
「開けてみよ」
城主が俺に言う。
箱のふたを外すと、立派な日本刀が一振りと、着物が入っていた。
「お主の着物じゃ。これから必要になるであろう」
「なぜですか」
俺は城主に聞いた。
「お主をここで住まわそうと思う。山賊を捕縛するような者じゃ。腕も立つであろう」
「ありがたい申し込みですが、お断りします」
俺が城主に答えると、片眉をあげて、あきらかに嫌な顔をしていた。
「はて、ならば何が望みだ」
「私の望みは、大統長へ会うことです」
城主に告げると、顔色が驚愕へと変わった。
「大統長閣下へか……」
「はい」
俺は再び正直に答える。
そう言うと城主は立ち上がって、刀だけを俺につきだした。
「ならば仕方あるまい。閣下に無事に会うことができればよいが」
刀を受領し、平頭してから、さらに言う。
「お主らには、厄介な山賊を退治したという恩がある。だから、特別にこれをやろう」
そう言って用意させたのは、一つの書面だ。
「手形だ。これを関所の者に見せれば、通してくれるであろう」
「ありがとうございます」
それだけ言って、通行手形と刀をもらって、城を後にした。