10分間のタイムカプセル ——愛する人を救うための奇跡——
短編です。10分後の未来が見える不思議な話です。
# 10分間のタイムカプセル【短編恋愛】
「これ、持っといて」
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ミサキが差し出してきたんは、古びた懐中時計やった。
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「なんやこれ」
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「骨董品。ちょっと変わっててな」
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カチッと蓋を開く。
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中の針、ゆっくり動いてる。
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「これな、10分だけ未来見れる時計なんよ」
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「……は?」
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思わず笑った。
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「いやいや、ドラマやないねんから」
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ミサキは、ちょっとだけ真面目な顔した。
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「ほんまやって。せやけどな」
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「使うんは、本当に困った時だけにして」
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その言い方が妙に引っかかった。
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「はいはい」
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軽く流して、ポケットに入れた。
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その数日後。
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やらかした。
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待ち合わせ、完全に遅刻や。
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「やば……」
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スマホ見ながら全力で走る。
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「絶対怒ってるやろな……」
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そのとき、ふと思い出した。
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懐中時計。
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「……まさかな」
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冗談半分で、取り出す。
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ボタン、押した。
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その瞬間。
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視界が、ぐにゃっと歪んだ。
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足元、消える。
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「……え?」
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気づいたら——
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地面に座り込んでた。
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息、荒い。
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手、震えてる。
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周り、ざわついてる。
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「救急車呼べ!!」
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誰かの声。
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サイレンの音。
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視線の先。
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道路。
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散らばった、カバン。
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見覚えある。
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ミサキのや。
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「……は?」
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血の気、引く。
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その先に——
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動かへん、ミサキ。
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「……嘘やろ」
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自分の声、聞こえた。
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泣いてる。
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必死に名前呼んでる。
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それ、全部——
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“自分”やった。
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「10分後……?」
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頭が真っ白になる。
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その瞬間。
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また視界が戻った。
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元の場所。
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息、荒いまま立ってる。
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「……今の……」
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考える暇なかった。
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走った。
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全力で。
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「間に合え……!!」
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待ち合わせ場所、見えた。
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ミサキ、おる。
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ちょうど、道路に出ようとしてる。
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「ミサキ!!」
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叫んで、腕引っ張った。
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ガッと引き寄せる。
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その瞬間。
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ドォン!!
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大型トラックが、すぐ横を通り過ぎた。
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風、巻き起こる。
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あと一歩遅れてたら——
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終わってた。
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「……はぁ……っ」
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その場で、崩れ落ちる。
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ミサキ、驚いた顔してる。
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「な、なに……?」
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答えられへん。
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ただ、強く抱きしめた。
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「よかった……」
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震え、止まらん。
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しばらくして、落ち着いてきたときや。
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ふと、時計見た。
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「……あれ?」
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針、止まってへん。
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普通に動いてる。
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「一回だけちゃうんか……?」
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恐る恐る、もう一回押す。
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カチッ
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また、視界が変わる。
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今度は——
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静かな公園やった。
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ベンチ。
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座ってる男女。
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最初、誰か分からんかった。
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でも——
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「……え?」
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白髪の男。
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隣には、同じく年を重ねた女性。
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手、繋いでる。
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笑ってる。
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穏やかに。
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幸せそうに。
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「……俺か?」
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心臓、ドクンと鳴る。
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女性が、こっち向いた。
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その顔。
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ミサキやった。
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「……」
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言葉、出ぇへん。
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そのとき。
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耳元で、声がした。
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「やっと気づいた?」
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振り向く。
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ミサキ。
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今の、ミサキ。
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「その時計な」
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優しく笑う。
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「未来のあんたが、どうしてもって言うて」
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「今の私に預けたんよ」
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「……は?」
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「“この10分だけは、絶対にやり直したい”って」
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息、止まる。
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「だからな」
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ミサキが、少しだけ強く手を握る。
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「ちゃんと使ってくれて、よかった」
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視界が、ゆっくり元に戻る。
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気づいたら、またあの場所。
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今のミサキが、目の前におる。
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「……タクヤ?」
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不思議そうな顔。
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でも、生きてる。
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ちゃんと、ここにおる。
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ポケットの中で、時計を握る。
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まだ、温かい気がした。
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「……なぁ」
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ミサキを見る。
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「この先も、ずっと一緒におるで」
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少し笑って言うた。
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ミサキは、ちょっと照れながら笑った。
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「なに急に」
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その何気ない返事が、たまらなく愛しかった。
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空を見る。
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もう、未来を見る必要はない。
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ちゃんと、この手で掴めたから。
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