表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哲学的ゾンビを研究していた俺、気がつくと異世界でNPCになっていた  作者: ちょこだいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

1.囚われた世界で

意識とは何か。


それが、大学での俺の研究テーマだった。


人間の行動はすべて物理的な反応で説明できるのか。

感情や意思と呼ばれるものは、ただの情報処理に過ぎないのか。


そしてもし、見た目も行動も人間とまったく同じなのに、中身が存在しない、そんな存在を作ることができたとしたら。


それは本当に人間と違うと言えるのか。


哲学ではそれを、哲学的ゾンビと呼ぶ。


……そんなことを考えていたはずだった。


気がつくと、俺は見知らぬ村の中に立っていた。


木造の家が並び、石畳の道が続き、遠くでは鐘の音が鳴っている。


まるでRPGの中に入り込んだみたいな光景だった。


最初に思ったのは「これは夢かも」だった。


次に思ったのは、「これはゲームの中だ…」だった。


そして三日後に思ったのは、


「——俺はここから出られないのかもしれない」だった。


この村での生活は、妙に落ち着いていた。


誰も俺を不審に思わない。

当たり前のように話しかけてくるし、

当たり前のように俺の名前を知っていた。


俺は、この村に住む人間の一人だった。


仕事もある。

家もある。

顔見知りもいる。


俺も、なぜかここの人たちのことや暮らしのことを知っている。


まるで最初からここで生きていたみたいに。

もしかしたら、研究していたと思っている方が夢が何かで、ここが現実の世界なのか?そんな気がしてきた。


それなのに、どうしても拭えない違和感もあった。


村人たちは、普通に笑う。

普通に怒る。

普通に悲しむ。


好きな食べ物もあるし、嫌いな相手もいる。


会話も自然だ。


…なにもおかしいことはない。


……ない、はずなのに…。


ある日、思わず隣の家の男に聞いた。


「この村のこと、好きか?」


男は少しだけ考えてから答えた。


「好きだよ。住みやすいからな」


「どこが?」


そう聞いた瞬間、男は黙った。


困ったような顔をして、少し笑って、


「……ここに住んでるからだよ」


と言った。


理由になっていない。


いや、言葉としては別に間違っていない。

だが、その奥にあるはずの何かが感じられなかった。


別の日。


広場で泣いている女がいた。


「どうしたんだ?」


「夫が死んだの」


悲しそうな顔をしていた。

声も震えていた。


だから俺は聞いた。


「どんな人だったの?」


女はうっすらと口を開いたまま止まった。


しばらくしてから、ゆっくり言った。


「……いい人だったわ」


それ以上は出てこなかった。


思い出も、

好きだったところも、

何も出てこなかった。


ただ、悲しそうな顔だけがそこにあった。


そのとき、ふと思った。


——こいつら、本当に中身があるのか?


違和感は、日を追うごとに大きくなっていった。


会話はできる。

生活もできる。

何も困ることはない。


なのに、どこか薄い。


この世界は確かに存在しているはずなのに、

触れても、話しても、奥行きがないように感じた。


俺だけが馴染めていない。


いや。


違う。


俺だけが気づいてしまっている。


そんな気がした。


そしてある日、

どうしても頭から離れない考えが浮かんだ。


——もしここが仮想世界なら。


——もしここがゲームの中なら。


……死ねば、戻れるんじゃないか?


その考えが浮かんだ瞬間、背筋が冷えた。


——試せばいい。


高い場所から飛び降りればいい。

刃物を使えばいい。


それだけで確かめられる。


ここが本物かどうか。


…なのに、体が動かなかった。


…怖かった。


ここが偽物かもしれないと思っているのに、

死ぬのが怖かった。


——もしここが現実だったらどうする?


——もし元の世界の方が夢だったら?


——もし、俺は最初からここにいたのだとしたら?




——哲学的ゾンビ。


研究室で何度も考えた言葉が浮かんだ。


見た目も行動も人間と同じ。

だが内面だけが存在しない存在。


もし、この村の人間がそうだとしたら。


そして、もし。


俺だけが違うと思っているこの感覚すら、

ただの反応だったとしたら。


——俺に、本当に意識があると証明できるのか。


その日から、俺は高い場所を見るたびに考えるようになった。


ここから落ちれば、

終わるのか。


それとも、


始まるのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ