【天使】養殖・第三話(5)
全身こわばらして横に大きくかしいだ【痴天使】の、今度は反対側の頬を少女は手の甲で張りもどし、さらに追い打ちかけようとするのを、
「ちょちょちょ、ちょと待ってえな!」
叫びながら【痴天使】は後じさりして逃れた。
「なにをするのん……お姉ちゃんあんたこんな暴力キャラやったん……? ぼくみたいなちびさんにしてええ攻撃ちゃうやん……!」
腫れた顔に両手あてごうて涙目で、
「【天使】同士やんか、お互いの持ち味で片をつけようやん……」
「うるさい! なにが【天使】だっ! なんの関わりもない人を殺しておいて!」
少女は立ち上がり、踏み出して、【痴天使】が反射的に頭上に交差さした腕の上からめちゃくちゃに平手を浴びせた。死んだ中年男性はむろん少女にとって赤の他人やったが、彼女自身驚くほど涙が出てしゃあなかった。
(絶対にゆるさない)
そう思た。
「痛い! 痛いねん、やめて! 【語り部】助けて!」
黙殺した。
わたえが受けた命令は【痴天使】と【海天使】の勝負に水を差させぬこと。【天使】がその争いにおいて自身の身体能力を補助的に使うぶんにはなんの差しつかえもあらへん。
「どこが補助なん! メインウェポンやんか! わかった! わかったからぼくの話聞いて『海』のお姉ちゃん! そのおっちゃんは死んでるんやない! 『死者』になっただけ! 『死体』になっただけや!」
意味不明すぎて手を止めた少女に、いつのまにかキャラ付けとしての一人称『ワイ』を使うのも忘れて【痴天使】、「お姉ちゃん、ぼくの【準奇跡】はそんな甘いもんやないねん。『死者』はいつでも『生ける死者』に、『死体』はいつでも『動く死体』になれるやんか? とくにこんな夜には!」
言うなり、倒れてるおっちゃんへ振り返り、
「死ニ返れ!」
その【超準語】におっちゃんがびくんとふるえて。
ぎこちない動きで立ち上がり、両手を体の前方へ泳がしながら体を揺らし、うつろな青白い表情でよだれ垂らしてゆっくりどこへともなく歩みだす。
「な。立派な『ゾンビ』やろ?」
誇らしげに【痴天使】が言うた。(『【天使】養殖・第三話(6)』に続)




