名探偵クマちゃんの光と闇
穏やかな朝。
半分開いた窓から、そよそよと緑の香りが運ばれてくる。
蝶々がひらひらと花びらのように、風のなかを泳いでいる。
クマちゃんは壁の角にスッと身を潜めた。
うるうるの黒い瞳に、金髪の男が小さく映っている。
ミィ……と鳴く子猫のように、クマちゃんがささやく。
「クマちゃ……」
リオちゃ……。
黒の中の金色が、くるっと振り返る。
金色が、どんどん大きくなってゆく。
「クマちゃんどしたの? かくれんぼ?」
リオはクマちゃんだけに見せる顔をして、もふっと我が子を抱き上げた。
きゅおー。湿ったお鼻から、喜びの音が鳴る。
クマちゃんがごしごしと、彼の手に丸い頭をすりつける。
ははっ。かすれ声が明るくはじけ、ふわふわなお耳がぴくぴくと動いた。
「クマちゃん可愛いねー」
金色がいつものように、世界の理を告げる。
甘い鳴き声がきゅ! とこたえる。
「クマちゃ、クマちゃ……」
クマちゃ、かわいいちゃ……、と。
◇◆
日が沈み、夜行性というほどではない猫が、肉球をさまよわせる時間帯。
賑やかな笑い声。
温かな色合いの照明が、仕事終わりの冒険者達をやさしく包む。
食器がぶつかる音と飲み物を注文する声が、テーブルの上を飛び交う。
名探偵クマちゃんは、ホシの居場所を確認すると、二階へ続く階段の陰にさっと身を隠した。
チャ……チャ……。
子猫がミルクを舐めるように、格好良く舌を鳴らす。
ジャケット柄の幼児用エプロンに、ス――と猫手を差し込む。
ごそごそふにふに。肉球で、黒いブツをなでる。
かちゃ……。
名探偵は、サングラスを耳ではない場所にかけ、クールに呟いた。
「クマちゃ……」
暗いちゃ……。
その刹那。
金色のホシが、視界からふっと消える。
名探偵はハッと、猫探偵のように顔を険しくして、肉球をかんだ。
大変ちゃ、と。
名探偵は、心なしかあたりがさらに暗くなったように感じた。
まるで、段ボールのふたが閉まってしまったかのような――。
ざわざわと、賑やかな夜の酒場で、隙間風が乾燥気味にささやいた。
「いやサングラス外せばいいじゃん」と。




