名探偵クマちゃん。トラブルをトラブルで解決する。
名探偵クマちゃんは、トラブルのにおいをふんふんふんふん……と湿ったお鼻でかぎとった。
なんと、どういうわけか、部屋の中から枕カバーが一枚消えてしまったらしい。
クマちゃんはうむ……と頷き、事務の人に冷たい目で見られたんだけど……と嘆く青年に、心の中だけで告げた。
そのお悩み、名探偵クマちゃんが解決いたしまちゅ……、と。
◇
一日の勤務時間がすべて休憩で埋まっている名探偵は、丸くてふわふわな頭を俯かせ、むむむ……と考えた。
消えてしまったということは――青年の枕カバーはこの世から消滅したのだろう。
無いものは無い。
青年の枕カバーは二度と戻ってこないのだ。
ではどうすれば良いのか。
――手先が器用な名探偵が自作すればいいのではないだろうか?
天才的なひらめきである。
名探偵は先の丸い猫手をス――と裏返し、ピンク色の肉球を見た。
うむ。素晴らしく器用そうだ。
まずは、素材の調達をしなくては。
毎日部屋をウロウロする家猫のように室内の事情に詳しい名探偵は、『袋っぽい布』がある場所までヨチヨチ……! と移動した。
◇
名探偵の前には、長い布が二本もあった。
つまり、名探偵が一本使っても、もう一本残るのである。
躊躇を知らぬ名探偵は、先日入手したばかりの切れ味の良いハサミで、長い筒状の布を、ジョキ……と切った。
かなり丈夫そうな手ごたえだった。
遠くから、青年たちのはなし声が聞こえる。
――いま、なんか変な音しなかった?
――さぁな。
袋を引きずる子猫によく似た名探偵が、ずるずる……と円筒状の布を引きずり、部屋のすみへと移動する。
美しい観葉植物が、名探偵の作業スペースをほどよく隠し、猫が好みそうな空間に整えている。
とった獲物を保管するのにぴったりな死角、と言っても過言ではなかった。
円筒状の布を枕カバーへ近づけるため、名探偵はごそごそ……と大体なんでも入る鞄をあさった。
コツコツ、と静かな足音が響く。
それほど遠くない場所から、青年の叫び声が聞こえる。
――ズボン片方だけ短くなってんだけど!!
優れた聴力を持つ名探偵は、近隣の騒音に耐えるため、丸くてふわふわなお耳をぱた……と伏せた。
◇
紙袋の中で猫手をガサッガサガサ!! と素早く動かす猫のように、名探偵はお手々を動かし、円筒状の布に綿を詰めた。
平らだった時よりもさらに細長く見える布は、ふわふわの綿で棒状に膨らんでいる。
枕カバーというより、もはや冒険者のズボンにそっくりである。
枕カバーよりも上等なものを作ってしまった名探偵は、大体なんでも入る鞄の中に、誰かの足っぽいものを入れ、うむ……と頷いた。
すごく頑丈そうなので、この枕カバー――別名綿入りズボンは、お外で寝るときに使ってもらうのがいいだろう。
本日も素晴らしい仕事をした名探偵は、深く頷き、子猫のような声で言った。
「クマちゃ……」
解決ちゃ……、と。
遠くから、青年たちのはなし声が聞こえる。
――ちょっとリーダー見てこれ俺のズボン!
――変わんねぇだろ。
――いやいやいやいや無いないナイナイ……――。