博打
牢にギネッサが来てから数時間後、再度彼女は空の元を訪れた
彼女がバスク王のサインが入った紙を看守に見せたことで、空は牢から解放された
その後同じ建物の別の部屋に移動し、空は服を着替えた。
使い古された長袖長ズボンから、着物の様な小綺麗な服へと衣装チェンジである
着替えを終えた空が外に出ると、そこには立派な馬車とギネッサが待機していた
「アレス・アイガーさん、どうぞ乗ってください」
馬車の扉を開け、ギネッサは空に声をかけた
馬車の中で、空とギネッサは2人きりである
「空さん、1つ約束していただきたい事があります」
「…はい、何ですか?」
「自分が転生者であることは秘密にしていただきたいんです、無用な混乱を避けるためにもご協力をお願いします」
(なるほど。周囲に知られたくないから、人の目がある時はアイガーさんの名前を呼ぶんだな)
「そんなことで良ければ、もちろんいいですよ」
「ありがとうございます」
「あの、俺も聞いてもいいですか?」
「はい、どうしました?」
「これから何処に行くんですか?」
「アホンタインという町へ向かいます。そこでバスク王様と合流し、空さんの処遇を決定します」
「処遇…」
「あぁ、すいません、表現が剣呑でしたね。ただ空さんがどういう人か、これからどうしようと考えているかを知って、お互いの信頼関係を築こうということです」
「なるほど…」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、王様は優しい人ですから」
「ウルの馬車は余り揺れないんですね」
ウルとは、この国の名前である
「唐突ですね…」
「すいません、でもアイガーさんの記憶だと馬車はもっと揺れるものだと思っていたので、この馬車の快適さに驚いちゃって」
「なるほど…」
「どうしてあまり揺れないんですか?」
「私もあまり詳しくはないんですが…ウルの馬車は座席を紐で吊り下げる法式で振動を軽減しているそうです」
いわゆる懸架式の馬車である
「他にも、板バネっていう物も使ってると聞いた気がします」
「へぇ、発展してますね」
そんなこんなで夕陽が見え始めた頃
「そろそろアホンタインの宿に到着します、しばらくはそこで生活していただきますね。食事や身の回りの事はこちらで準備しますので安心して下さい」
「ありがとうございます、何から何まで」
「当然の事です、今日はゆっくりお休みくださいね。これからの事はまた明日にでもお話しましょう」
「はい、お言葉に甘えさせてもらいます」
アホンタインはそこそこ大きな港街である。
その街を一望できる小高い山の上にある家に、空達は到着した。
そこには立派な門扉と塀に囲まれた木造のお屋敷があった、ギネッサ曰くバスク王の別荘らしい。
空はそこで移動の疲れを癒すのだった
翌日、空は外から聞こえる鐘の音で目が覚めた。この世界では時計は市民にまで普及していない、その為こうして正確な時間を伝えている
(ゼン…今何時?)
(午前6時です)
(はや…)
朝食と夕食は宿の管理をしている人が用意してくれる。昼食に関しては自由だが、空は街に出て食事を摂っていた。衣服なんかも複数用意されている。お風呂は近くの銭湯に入りにいく。お金までも支給されているため、非常に快適そうである
そんな日が3日程続いた時
(バスク王様は明日にでも到着されます、もうしばらくお待ち下さい。)
そうギネッサから告げられた
「分かりました」
(とうとうか…自分で決めたこととはいえ、博打もいいとこだな)
時は遡り、空がまだ牢にいた頃
(ゼン、バスク・ドゥームは転生者なんですか?)
(はい)
(なら彼の能力は?)
(500)
(500…多くない?というか情報にも承認がいることがあるのか。500は多いけど、流石に転生者がどんな能力かは知りたいよな、インターバルは・・・)
その後空は様々なやり方で承認の数を減らそうとした
結果…
(インターバル3000万秒で、承認が0…。3000万秒って、1年位だよな…、どうなってるんですか?)
(そう言われましても、そういう物なので)
(水を操るっていうあり得ない事はインターバル100秒でできるのに、どういう基準なんですか?)
(情報に関しては、能力の制限はあまり承認の数を減らすことに繋がりません。なぜなら釣り合いがとれないからです。)
(釣り合い?)
(はい、水を操る等の超常的な技術を全知全能で得たとしても、インターバルを設定すればその時間は能力は消える。しかし情報は違います。たとえインターバル中でも、得られた情報は消えないのです。)
(技術は消えるけど、情報は消えない、だから情報に対するインターバルの価値が低いって事ですか?)
(おっしゃる通りです。)
(……まぁ、何となくは分かりました。)
(代償ならば、問題なく設定することが可能です)
(…アイガーさんに関連するものは論外として、今の俺に差し出せる代償は魂だけ。でもそれは魂の入れ替え時に必要だから、今は使えない。どうするか…)
(空様、バスク・ドゥームがこれまで何をしてきたのかは、0の承認で知ることができます)
(え?、マジですか?)
(はい、ただし知れるのは10年前までの記録です、それ以降の最近の記録は0の承認では知ることはできません。)
(あぁ、バスク王が転生者になったのが10年前以降なら意味がないんですね)
(その通りです)
(まぁ、それでも知ろうとしない選択肢は無いですよ。教えて下さい)
(承知しました。しかし知れるのはあくまで何をしてきたかです、何を思い何を考えていたのかは対象外です。)
(それでも充分すぎますよ。ちなみに、その対象外も知りたいなら)
(300)
(ですよねー)
その後、空は承認が0で得られる情報を片っ端から聞き出すのだった。
「いっけねー!、遅刻遅刻ー!」
そう叫びながら、1人の男性が海の上を走っていた
空が牢から出てから4日目の夜
「初めまして。私がウルの王であるバスク・ドゥームだ。よろしくね」
空は遂に、バスク王との対面を果たす
「アレス・アイガーといいます、よろしくお願いします」
「お互い話したい事があるだろうけど、食事の後でもいいかな?」
「はい、もちろんです」
「助かるよ」
バスク王の既望で、空達は昼食を摂っていた
そこへ
「すいませーん!、遅れましたー!」
快活な声が響く
「お待ちして…サナトス様?!ずぶ濡れじゃありませんか!」
宿の管理をし、空達の食事を用意してくれたお姉さんが驚いていた。無理もない…
全身びしょびしょな高身長の男性が、笑顔で入ってきたのだから
「サナトス、まずは着替えてこい」
バスク王が彼に話しかける
「いやぁ、すいません本当」
サナトスと呼ばれた男性は、宿の人に連れられていった
(…)
空はその人物に意味深な視線を向けていた
「お騒がせして申し訳ない」
「いえ…大丈夫です」
食事を終えた空達は、長いテーブルの両端に座り向かい合う。
バスク王の両隣にはギネッサと先程サナトスと呼ばれた2人が、護衛のように立っている
「さて、まずはお互いの事を知りたいのですが、よろしいですか?」
バスク王が口を開く
「…はい」
「"なら日本語で話しませんか?その方がお互い話しやすいと思うんです、どうですか?"」
バスク王は日本語で話し始めた
「"日本人だったんですね…驚きました"」
もちろん空は全知全能の力で事前に知っている、今のは演技である
「"私も驚きましたよ、まさかってね"」
「"…ありがたいです。ちょうど日本語が恋しくなっていた所だったので"」
「"ではここからは日本語ということで。バスク・ドゥーム改め、本名は田中優人といいます。よろしくお願いします"」
「"鈴木空です。よろしくお願いします"」
「"私は千葉の一般的な家庭に生まれました。幼い頃から野球に熱中し、学生時代は野球に青春をささげました。大学まで行ってプロになろうとしたんですが、結局怪我で引退。その後は心機一転して起業したり何なりして生活していました。そんなこんなで2020年の7月27日、31歳で命を絶って、この世界の15歳の少年へ転生したんです。この世界ではもう16年生きているので、実質47歳ですね"」
「"…お若いですね"」
「"第一声がそれですか?笑"」
優人は笑いながら返答する
「"いや…すいません。でも15歳に転生して16年生きてるなら身体は30歳位の筈ですよね?どう見ても…"」
「"肉体の老化速度を私の能力で調整しているんです。肉体年齢は16歳ってところなんですよ"」
「"凄いですね"」
「"いえいえそれ程でも。それより、空さんの方はどうなんですか?話しにくい事は話さなくても大丈夫なので、教えて下さい"」
「"はい。俺は…東京生まれ東京育ちです。正直話せることが特にない、普通の人生でした。それでまぁ、色々あって、2025年の3月31日に死んで、この世界に来ました。年齢は18です"」
「"…若いのに苦労されたんですね"」
「"…そんなことないですよ"」
「"それにしても、2025年か。私にとっては未来だなぁ"」
「"…2020年とそこまで変わりませんよ"」
「"そうなのか。ちなみに、iPhoneはいくつまで発売されました?"」
「"確か、17ですね"」
「"17…、私の時は12だったのに。どんな風になってます?17って"」
「"すいません、俺Androidだったので詳しくは…"」
こんな雑談がしばらく続いた後、お互いの能力の話が始まった
「"私の能力は、直接触れた細胞を自由に操る。それだけなんだ"」
「"それだけって…何でもできそうじゃないですか。そもそも若い肉体を維持してますし…"」
「"まぁ、それくらいは"」
「"充分無法ですよ…"」
「"だけど能力を使うには直接触れる必要がある、色々面倒だよ"」
「"それを言ったら、俺もです"」
「"へぇ、空君のはどんな力なの?ギネッサの報告では水を操ったそうだけど"」
「"そのままですよ、水を操るんです。俺のは直接触れるだけじゃなくて、声に出して色々設定もしないといけませんけど"」
「"見せてもらってもいい?"」
「"いいですよ"」
空は水の入ったコップを持つ
「"液体の水を操る、対象は右手が触れた範囲、上限500ml、持続時間10秒、インターバル100秒"」
空は水を操って見せた
「"なるほど。いい能力だ"」
「"ありがとうございます"」
「"聞いてもいいかな?"」
「"はい"」
「"さっき空君が声に出してた、インターバルっていうのは何なの?"」
「"溜めみたいなものです。インターバルに設定した時間中は能力を使えないんです"」
「"へぇ…そんなことあるんだね"」
「"使いがって悪いでしょう?"」
「"あぁ"」
「"引いてるじゃないですか笑"」
「"いや、難儀な能力だと思ってね笑」
「"本当ですよ笑"」
「"ありがとう、空君。教えてくれて"」
「"いえ"」
「"よし、これが最後の質問なんだが…空君はこれからどうしようと考えてる?"」
「"…はい。俺は、アイセルに行きたいと考えてます"」
「"アイセル…、空君の器の故郷だね"」
「"はい"」
アイセルは、空の肉体であるアレス・アイガーの故郷の国である
「"正直、俺個人はやりたい事が無いんです"」
「…」
「"何の夢も目標もない俺が、アイガーさんの人生を奪ってしまった。俺はその償いをしなくちゃいけない。そう思うんです。だから俺は、アイガーさんのやりたかったことをしようと決めました。それだけが唯一、俺にできる償いですから"」
優人はしばらく考え込んだ後、空に返答する
「"…まず言っておく、空君に罪は無いよ。君は望んでここに来た訳じゃない。自分ではどうしようもない世界の仕組みに強制されただけだ。償う必要なんて無いんだよ"」
「"ありがとうございます。でも、決めたんです。俺は、アレス・アイガーさんの幸せの為に生きるって"」
「"そう…1ついいかい?」
「"はい"」
「"君の目に、私達はどう映ってる?似た境遇を抱える同胞か?、それとも、この世界の人間から人生を奪った悪人か?"」
「"…俺は、他人の生き方を否定したくないんです。だから仲間とも悪人とも思ってません。強いて言うなら、他人です"」
「"…そうか"」
「"はい"」
「…」
「"分かった。空君の意思を尊重しよう"」
「"ありがとうございます"」
「"だけど1つ、条件がある。君の記憶を見せてほしい"」
また時は戻り、牢の中の空
(バスク王は他人の記憶が見れる)
空は0の承認で知ることができたバスク・ドゥームの過去から、そう推測した。
ちなみに、その過去はバスクの一人称視点での記憶をひたすら見せるという形で空に開示された。
空は、裁判でバスクが被害者と加害者の頭に手を起いた後、彼らしか知らない情報を言い当て事件を解決させた場面を見たのである。
(恐らくバスク王は他人の記憶を知ることができる…。全知全能の能力の事を知ったら…殺されそうだな…)
そう考えた空は、1つでも多くの情報をゼンから聞き出そうとしていた。
(0で分かるのは、顔と名前が一致してる人の過去だけか)
バスク王の周辺の人間の過去も見ようとした空は、そんな発見もする。そんな時…
(これは…)
空はあることに気が付いた
(もしかして、バスク王は魂の情報は知ることができない…。ゼン、どうなんだ?)
(400)
(まぁ教えてくれないよな…いやでも、そうとしか考えられないよなこれは…それなら)
「"記憶…ですか?"」
「"あぁ、私は能力で記憶を見ることができる。だから空君の記憶を見せてくれ"」
「"…どうしてですか?"」
「"君が言ったことが本当か、本心なのかを確かめるためだよ"」
「"それは…俺の過去も知られますか?"」
「"いや、転生前の記憶や情報は君の魂に刻まれている。私は魂に干渉できないから、空君の過去は分からないよ"」
(やっぱり)
「"そうなんですね…分かりました。俺はどうすれば?"」
「"頭を触らせてくれるだけでいい"」
「"…どうぞ"」
と言うと同時に、空は1つの願いを実行する
(全知全能、及びそれに付随する全ての記憶を消すことを代償に、俺は水を操る能力を得た転生者だと、自身の記憶を改竄する)
(0)
(実行)
またまた時は牢に戻る
(もし記憶を消してその場をやり過ごせても、アイガーさんに身体を返せなくなって詰みだよな…
ゼン、例えばですけど、何かの条件を満たせば記憶が戻るって願いは可能なんですか?)
(もちろんです)
(なら、承認が0でも成り立つ条件を見つけよう)
その後色々な条件を設定したが、どうしても0にはならなかった、その時
(空様、レイナ・エレパスとの接触が条件なら0でも可能です)
(え?……本当ですか?)
レイナ・エレパス、アレス・アイガーの婚約者である
(はい)
(…どうしてですか?もし記憶が無くなっても、俺ならエレパスさんに会いに行こうとするはずですけど…)
(300)
(どういう事なんだ…。確かに今俺がレイナ・エレパスに会いたいと思ってる理由は、全知全能の契約者になってもらうため。だから能力の記憶が無くなれば、彼女に会いに行かないと思ってるのか?それとも…
ゼン、レイナ・エレパスさんは生きてますか?)
(はい、生きています)
(ちゃんと健康に生きてるんですね?)
(はい)
(…もう死んでるとか不治の病とか、そういう最悪な事にはなっていない。なら尚更意味が分からない…でもやるしかないか)
(全知全能の記憶が消去された場合、レイナ・エレパスと直接接触することで記憶は回帰する)
(0)
(実行)
現在、バスク王こと優人が空の頭に手を置いている
そして数分後
「"よし、ありがとう"」
優人が空の頭から手を離す
「"どうでしたか?"」
「"空君の記憶におかしな所はなかったよ。疑うような真似をして申し訳ない"」
「"いえ、初対面ですしね"」
「"これからは空君の生き方に口はださないよ"」
「"ありがとうございます"」
「"あぁでも、法律は守ってね"」
「"分かってますよ"」
「"私のしたかった事はこれで全部終わりなんだ、空君は何かある?私達に聞きたい事とかさ"」
「"そうですね…1ついいですか?"」
「"もちろん"」
「"あの方達は何者なんですか?"」
空は、バスク王の護衛として二人の会話を見守った2人の人物について質問した
「"あぁ、あの2人も私達と同じ転生者だよ"」
「"あぁ、やっぱりそうなんですね"」
「"知ってたの?"」
「"いえ、知らなかったですよ?でも、バスク王の側近として2人、特別な力を持つ者がいるって、アイガーさんの記憶にあったんです"」
「"なるほど、2人もすっかり有名人だな"」
「"お二人の能力は何なんですか?"」
「"ギネッサは光の速さで動ける。サナトスは身体能力を超強化できるんだ"」
「"…お二人とも凄いんですね"」
何故レイナ・エレパスとの接触を記憶の回帰に設定できたのか、皆さんにはお教えしますね。
このままいけば、レイナ・エレパスは1週間後に死ぬからです。
空様には内緒ですよ?




