始まり
自殺を推奨する意図はありません
あらかじめご了承下さい
2025年 日本
ひとりの青年の生涯に、幕が下ろされた
名前は 空、年は18歳
彼の魂は死後、とある場所に辿り着く
空は今、不思議な感覚に襲われていた
解放感のような、浮遊感のような、何とも言えない感覚だ
その感覚以外は、何も見えず何も聞こえない
はずだった
謎の声「ここは魂の循環を司る場所、上界という」
空「は?…」
聞こえる…というより頭に直接話しかけられている、そんな感覚だ
謎の声「魂には、生前の記憶や感情が刻み込まれている。ここでは死後、それらを洗い流し魂を純粋な状態に戻す。そして、下界で生まれる新たな器に宿す。それがこの場所の役目である」
まるで子供に読み聞かせるように、謎の声はゆっくりと言葉を紡いでいる
そうして次第に、空は自分の状況を理解していった
謎の声「理解したか?」
空「……はい、何となくは。俺はもう死んでいて、これから俺の魂を浄化する、そういうことですよね?」
謎の声「そういうことだ」
空「そうですか…」
空の声色からは、肩の荷が下りたような安堵間が感じとれる
謎の声「普通ならな」
空「え?」
謎の声「今のままでは、お前はこの魂の循環に戻ることはできない」
空「…なぜですか?」
謎の声「お前が、自ら命を絶ったからだ」
空「!」
謎の声「自ら命を絶った魂には、深い傷がつく。この上界でも治せない程のな、それが循環に戻れない理由だ」
空「……」
謎の声「よってお前には、その魂のままもう一度下界へ降りてもらう。そこで新たな器に宿り、もう一度生を全うしろ。
そして今度こそ、自殺以外の死を迎えるんだ。」
空「…断る事は出来ないんですか?」
謎の声「そんな権利があると思うか?」
空「…」
謎の声「魂の数は有限なのだ、1つとて無駄にはできない」
空「……」
謎の声「安心しろ、お前の様な奴には特別な能力を与えている。次に過ごす世界では幸せな人生を送れるだろう」
空「…どういう」
謎の声「では、行ってこい」
空「なっ?!、待って!」
そうして、空は何処かに吸い込まれていった
謎の声「うん?、何か忘れているような…」
「あっ、そうだ」
「ほい」
謎の声がそんな気の抜けた声を出す、すると光の矢のようなものが空を高速で追っていく
「それがお前の能力だ、持っていけ」
空(なんだ?、光が…)
「うわっ!」
光の矢がソラに直撃する
ソラ(?!)
「………正気なのか?」
謎の声「良き転生生活を」
そうしてソラは、異世界に転生した
10代半ばの少年と少女が、言葉を交わしている
「今言わないと、きっと俺は一生後悔すると思う。だから言わせてほしい」
「?」
「俺は、レイナを愛している」
「!」
「俺はこの先の人生を、あなたと共に生きていきたい。だからもし、この戦争から生きて帰る事ができたなら、結婚してほしい」
「アレス…あほやなぁ。まぁ…返事はまた今度な!笑」
「え…」
「そんな顔せんと笑、大丈夫。ちゃんと返事は考えとくから笑」
「レイナ…」
「やから…約束して?ちゃんと帰って来るって」
「!」
「お願いやから…な?」
「…分かった、約束する。やからそっちも、ちゃんと返事決めといてや?」
「うん、任せとき!」
(転生が完了しました)
そんな声が頭に響き、空は意識を取り戻す
先程までの解放感は消え、今はずっしりとした重さを感じていた
手や足、身体の感覚がある
空は、自身の身体の重さを感じとっていた
空は恐る恐る目を開ける、しかし何も見えない
光が一切ないため、暗闇だけしか認識出来なかった
頼むから、悪い夢であってくれ
そんな空の願いも虚しく、頭の中に声が響く
(夢ではありません、ソラ様。あなたは日本でその生涯を終え、この異世界に転生されました)
空は、自分の頭がおかしくなった可能性を考えた
だが仮にそうだとしても、自分にできることは無い
そう感じ、空はこの考えを放棄した
実際、これは夢だと何度自分に言い聞かせても、見える景色は変わらなかった
よって空は、今自分が見聞きしている物を現実として捉えることにした
(あなたは、俺の能力の一部って事で良いんですよね?)
空は、頭の中の声に質問する
(はい、仰る通りです。私はソラ様の力である全知全能、その全知を司るものです)
そんな返答が、空の頭の中で響く
iPhoneのSiriみたいな感じか
空はそんなことを考えていた
(そうですか、なら聞きたいんですけど…この世界でも自殺を選んだらどうなりますか?)
(また新たな異世界へ転生します)
(その世界でも自殺したら?)
(また別の世界へ転生します)
(それはどこまで続くんですか?)
(永遠にです)
(…そうですか)
(もし仮に、俺がその選択をして別の異世界に行っても、また今みたいにその世界の住人の身体を奪うことになるんですか?)
(はい、そうなります)
そう、空はこの世界の少年の身体を奪うかたちで転生した
少年の名はアレス・アイガー、15歳
この異世界で生きてきた、ただの少年である
(そうですか…なら、このアレスさんの様な人の魂はどうなるんですか?)
(上界に行き、魂を浄化され、新たな命として生まれ変わります)
(それはつまり、1度死んだって事ですか?)
(魂に関しては、そうなります)
(…転生するにしたって、なぜこんなやり方を?)
(これが最善だと結論付けられたからです)
(…どうしてですか?)
(以前は、魂が宿る前の赤子に転生者の魂を宿らせていました。ですが、それには多くの問題がありました)
(問題?)
(はい、赤ん坊の身体に転生した者のおよそ7割が精神崩壊をおこしました。残りの者たちも、そのほとんどが10歳を迎えずに死亡しました。)
(どうしてそんなことに…)
(赤ん坊は手足も上手く扱えず、言葉を話すこともできない。更に周りには理解できない言語を話す大人達、そんな状況に耐えられなかったのだと考えられます。
もしもその状況を乗り越えたとしても、まだ試練は続く。
転生者は皆特別な力を与えられ、それは幼少期から使用できる。
特異な能力を持った子供が大人からどう扱われるか、大抵は録なものではありません。
よって、既にその世界の言語を習得し身体的にもある程度成熟した器を選び、転生させるようになったのです。)
転生者は、器の記憶を全て見ることができる
空の場合、器であるアレス・アイガーの記憶や知識を全て自由に見ることができる
(…なるほど、でも自殺ではないのなら転生者がどんな死に方をしても関係ないのでは?)
(仰るとおり、自殺以外の死ならばどんな死に方でも魂を循環させることができます。ですので仕組み上はなんら問題はありません)
(じゃあどうして器の対象を赤ん坊から変更したんですか?)
(それはおそらく、あのお方のご厚意かと)
(あのお方…俺がさっきまで話をしていた存在の事ですか?)
(はい)
(そもそもあれは誰…いや、何なんですか?)
(あのお方は魂を循環させる役割を持つもの、それ以上でも以下でもありません)
(本当ですか?)
(はい)
(…分かりました、……あの、最後に1ついいですか?)
(勿論です)
(そもそも魂って何なんですか?)
(魂とは、意識の元になるものです)
(意識の元?)
(はい、肉体だけでは意識は成立しません。、その為、魂がその土台となり、そこへ肉体が様々な情報を積み重ねていき、初めて意識が成立するのです。)
(…意識が無いとどうなるんですか?)
(刺激に反応するだけの機械になります)
(なるほど…)
(高度な情報を積み重ねる程、意識の段階は上がっていきます。ですので、人間ははっきりとした意識を持つことができる。逆にいえば、その他の動植物は機械に毛が生えた程度の意識しかありません。)
(…随分な物言いですね)
(事実ですから)
(…)
(それよりも、空様はこれからどうするかを考えられた方が良いかと)
(あぁ…そうですね)
空は考えた
いくら特別な力があっても、生きる道を選ぶつもりはない
最初は、転生した時点でもう一度死ぬつもりだった
いや、今でもそう思ってる
でも身体を乗っ取られた挙げ句、自殺されるなんて
いくらなんでも、アイガーさんが不幸過ぎるよな…
(アイガーさんの魂を、この身体に戻す事はできるんですか?)
(勿論です、ソラ様は全知全能ですから)
(そっか…ならそうします)
(ただその場合、ソラ様の魂は器を失います。器を失った魂は浄化を待つだけの存在になり、実質死を迎えます。
元の器は既に日本で死亡しているため、ソラ様という存在は完全に消えて無くなります)
(それは問題ないです、俺はそもそも今でも消えて無くなりたいので。俺もアイガーさんも得をするなら、Win-Winですよ。)
そうして空は、自らの命を終わらせアレス・アイガーに身体を返す決意をした




