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第三章

 5日目の朝。今日も生きていることに、全てのものへの感謝のお祈りを捧げる。

 右脇腹の傷も塞がり始めている。

 治りが異常に速い。これもチートだと。感謝しかない。


 先ず朝食に兎の腿肉をナイフで削って食べる。

 血が足りないのか、体が栄養を強く求めているのがわかる。

 それと、みつかいさんから頂いた干し肉も残っているが、こちらは塩気があって保存性も高そうなので、当面はとっておく。

 

 食後はレッサーボアの搬送作業。

 まだ体は痛むが、急がなければならない。

 昨日沈めた河原まで行くと、担架も肉も無事だった。

 荒らされた形跡はない。

 丁寧にボアを担架に載せ直し、木の切り口側を両手で持って運び始める。 

 身隠し魔法を担架の先端まで広げ、さらに影を足元から担架へと延ばす。

 すると不思議と引くのが軽い。

 昨夜すでに内臓は取り除いていたし、一晩で血が抜けたとしても、そこまで軽くなるとは思えない。


 (これは……闇影が氷のような滑り効果を生んでる?)小さく「ピンッ」

 「んんっ」


 「そうかっ。重力だ!」「ピンッ」

 「そうなんだ!」


 魔法が、俺の無意識の願いに応えていたのだ。

 「これは面白い。」


 俺は思った。

 魔法とは明確なイメージを持って行使するものだと思っていたが、どうやら強い目的意識や状況次第では、使っている魔法が自然と変化することもあるらしい。

 今回の場合、"早く帰りたい"という強い想いが、「音を消す魔法」に“重力を和らげる効果”を付加させたのだ。

 

 これは大きな発見だ。

 さっきから頭の中で小さな「ピンッ」と時々大きな「ピンッ」が鳴りまくってる。


 強い意志と明確な目標が、魔法を変える。思い込みではない、事実として起きたこと。ならば――やることは一つ。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉーーーっ!」

 更に早く帰る目標を持ち、早く移動するイメージを持ち、闇影に魔力を注ぎ、駆ける。

 今日一日かけて運ぶ覚悟だったが、大樹の拠点に着いたのは昼ちょうど。汗だくで息も絶え絶えだったが、傷は開いていなかった。少しホッとする。


 木陰の枝にボアを吊るし、準備しておいた大朴葉の上で解体を始める。

 切り分けた肉を順に葉の上へ。

 内臓はすでに処理済みだが、残った廃棄部分は森へ持っていき、森に返すように祈りを込めて地に置いてきた。


 帰りに長めの枝を6本と追加の大朴葉、薪にする落ち枝を拾って戻る。

 新たにトライポッドを2基設置。

 火を熾し、炭ができたら各ポッドに移し、枯葉を重ねる。

 今日と明日の食事分を除いた肉はポッドに吊るし、上からボアの皮をかぶせる。さらに葉の付いた枝で蓋をして燻製開始。


 日が暮れるまで残り1時間少々。

 そこで、ふと思いつく。

 

 俺は水袋とナイフだけを持ち、影を纏って一目散に川を目指し駆ける。

 先程飲み切った水の補充と、おざなりになってた水浴びの決行だ。

 そして日が暮れる前に戻る。


 そういった目標を心に強く持つ。

 拠点には火も掛かってる。絶対だ。


 川に着くと、ぱぱっと急いで服を脱いで飛び込み、袋を満たしたらすぐに戻る。

 服を着てナイフを握り直し、拠点へ。


 往復で1時間を切った。

 これならまだ暫く拠点はここで問題なさそうだ。


 ボアの胸肉を切り分けて火にかけ、他の肉の燻製具合を確認する。

 「燻製はあともう少しかな。」


 焚き火を見ながら先日の茶兎の皮を加工する。

 端を切って作った革紐を、影槍で切った縫い穴に通して合わせていき、兎皮の小物入れが完成。

 全てみつかいさんのチート仕様だ。

 しかも耳の部分が腰ひもに結ぶ役目になっている。可愛らしい。

 人生初の戦利品として、これからいつも身に付けよう。

 初心を忘れぬ様にと。

 それと、今回のボアの皮は肩掛け鞄にする予定だ。


 焼けた肉を頬張りつつ、出来上がった燻製肉を大朴葉に包み始める。

 全て食べて全て包んだら火を落として木の上に。


 今日は寝落ちするまで闇魔粒子による水分操作だ。え?また魔物を呼び寄せるのでは?いや、木の上なら大丈夫なのだ。

 ここらの最大の脅威はワイルドボアだが、奴らは地上しか対応できない。

 魔力に反応するのも、彼らだけ。

 他の魔物は魔力を感じると逃げる。

 だから、ここでの魔法練習は安全。

 

 「闇魔粒子(自称)!」

 左手を掲げ、小声で詠唱。

 空中にメガホン型の闇魔粒子を作り出す。


 「魔法名変えないとだな。」

 問題はそこではないのだが。


 「うーーーん」

 目を瞑って空気中の水分を集める様にイメージする。

 どうやって集める?いや、


 「考えるんじゃない、感じるんだ。」

 これは前の世界で有名な格闘家の言葉だが、こと魔法に関してはこの言葉がぴったり当てはまる。

 それを口に出してみた。


 「感じるんだ。」

 「感じるんだ。」

 「感じるんだ。」

 「うーーーん」

 「うーーーん」

 「うーーーん」


 色々試してる内に本日もやってきました。

 「もう来たか。おやすみ・・・」

 寝落ちるのだった。


 6日目を迎えた。

 今日までいろんなことがあったが、怖い程に順調に過ごせている。

 これもみつかいさんのチートのお陰だ。

 今日もこの世の全てに感謝の祈りを捧げる。


 俺には今日の朝一番にやりたいことがあった。

 昨夜寝落ち直前に感じた、あることが出来るという確信。


 「水採取(自称)」


 そう叫びながら左手を掲げると、長さ8m位、直径8m位の逆円錐形の闇魔粒子が広がり、直後に一気に収縮。

 掌の上に直径10cmほどの水の球が現れる。


 「よぉーーし。また一つクリアしたな。」


 そっと顔を近づけて一気に飲み干す。

 「ぷはーっ、うまい!」


 喉を潤したら兎の干し肉を手に取り、ナイフで切り分けて口に運ぶ。


 「今日はこのまま塩の採取だな。」

 そう独り言を言うとみつかいさんから頂いた干し肉を、大朴葉に丁寧に包んで肉置き場に置いて、革袋を空にし、お昼分のボアの干し肉を兎袋に入れ、ナイフ、水袋を腰に下げ出掛ける準備をする。


 身隠しを纏ったら、昨日の感覚を思い出しながら体の下に闇影を作り、海まで約3時間は掛かるところを半分の時間で着くイメージを持ち、


 「影移動!(自称)」

 と叫び、両足の下に影を纏って走り始める。


 自分の力以上に早く走れるというのはこういう感覚なのか。

 昨日は暗くなってて気付けなかったが、景色が後ろに向かって飛んでいく。

 という言葉が一番しっくりくるか。


 初めて茶兎に会った辺り、初めて茶兎を仕留めた辺り、その先の海。

 海に到着するまでに1時間ちょっと。

 目標を大きく超えて到着。


 更に先の岩場の方まで行く。

 一番海に近い岩場まで行くと、足元で波打っている。その海水目指して左手をかざし、


 「水採取」

 先ずは海水から水だけ取り出せるか試してみる。


 闇魔粒子が海水を包み込み、収縮。現れた水球をひと口飲んでみる。


 「これまた美味しいっ!」


 朝の水とはまた違って、ミネラルが感じられる。

 これを慎重に水袋へと移す。


 直ぐに水袋はいっぱいになり、残った水はその場で放置する。

 「ぱしゃっ」と弾けた水は岩場に当たって流れる。


 「よーーし、次は塩だ」

 左手を海にかざして闇魔粒子を広げる。

 今度は頭の中で塩をイメージ。

 ゆっくりと。慎重に。

 頭の中の白くて輝く粉のイメージが、魔力の先で感じられる。


 「それだっ!」

 闇魔粒子を収縮させ掌に集める。

 するとテニスボール位の大きさの白銀の粉。

 右手で少しだけつまんで口に運ぶ。


 「しょっぱ」

 確かに塩だ。

 それを空の革袋にそのまま入れる。


 そしてもう一度最初から。

 「塩採取!」

 と叫び海の中へ闇魔粒子を放ち、収縮。今度はソフトボール位の大きさで塩が取れる。


 それもまた革袋に入れ、更にもう一度。

 「塩採取!」

 今度はハンドボール位は取れる。


 これを入れると革袋はいっぱいになった。

 ここまで海に着いてから30分位。

 当初の予定より大幅に時間が短縮できている。


 「帰りは何か採取していこう。」

 また身隠しと影移動で川沿いに北東に向かうと、ボアを沈めた辺りを北上して森に入る。


 すると、

 「野苺だ!」


 闇影を広げると、

 「すぱっ、すぱっ、すぱっ、すぱっ・・・・・・」

 野苺を実の根元で10個連続で切り取る。

 切り取った野苺を操影で手元まで運ぶ。


 「うわぁいい香り。」

 その内一つだけ口へと運ぶ。


 「美味しいっ」

 程よく酸味の効いた甘酸っぱい味。

 地球のものとそっくりだ。


 残りを兎袋に入れる。

 他にも何かないか探しながら、また北上する。

 すると一昨日のアケビの木の所に着いた。


 「よーし、よし。まだアケビはあるな。」


 そういうと闇影を伸ばし、一番熟してる実を一つ採取する。

 「すーっ、すぱっ」


 操影で落ちるアケビを受け取りそのまま兎袋の中に入れる。


 そしてそこから東に向かうと大樹に戻るのだった。

 「お昼用意してたのに戻って来ちゃったな。」


 木の枝に登ると、兎袋からボアの干し肉を取り出すと、ナイフで切り出し、少し塩を振ってから口に運ぶ。


 「うぉお、美味い!」

 塩一つでこんなにも変わるのか。


 肉を食べきると、アケビを食べる。

 また種は連射だ。


 そうして昼食を終わらせると、塩の入った革袋を肉を保管している枝の所にそのまま置く。

 兎袋の苺も葉の上にそっと置く。

 こちらは夜に食べる為だ。


 そして午後は魔法の訓練と体の鍛錬だ。

 体力もあげていかないと魔物との戦闘についていけない。


 まだレッサーボアとしか戦っていない。

 ここらにいるワイルドボアになると更に大きく、更に強い。

 この森にはボアよりも強い魔物がわんさかといる。


 そこで考えたのが、

 影移動の反対、重力を加えた環境で鍛錬するというものだ。

 俺は大樹の周りを歩きながら、重力を更に加わる様にイメージしていく。

 これが出来る様になると影縫いが更に強化されることになる。

 魔法の訓練と体の鍛錬を同時に行える。


 「重くなれ、重くなれ」

 俺の体自身を影で縛り付けるようなイメージを。


 「おぉ」

 少し重くなった。


 「まだまだ。」


 俺は大樹から30m程離れた所を大樹を中心に円を書くように回りながら、自身の下に影を作って重力操作を行う。


 この30mというのは、毎晩の魔法の訓練で草を刈り取り、全く草木が生えていない円状の広場になっている。

 その端を回っているのだ。


 「うぅ。よしよし。重い。」

 上手く魔法が効いてきたが、体の方は悲鳴を上げている。

  これは効きそうだ。


 感覚的には重力は1.5倍には少し届かない程度だ。

 俺は上半身も鍛えたいので、シャドーボクシングの様に拳を振り回したり、時々ナイフを抜いて突き刺す、や、左手の拳に合わせて振り回してみる。


 持続力も上げていきたいのでとりあえずこれを続ける。

 更にここで水分採取の魔法も発動させる。

 しかも身隠しの様に魔力を隠しながら闇魔粒子を広げるイメージでだ。


 たっぷり5時間近く続けると日が暮れ始める。

 この訓練の中でほぼ空になった水袋とナイフだけ持ち、今度は逆に重力を軽くするようにして身隠しと闇影を生成し、南の川へ向かって移動する。

 

 河原に着くと服をパッと脱ぎ、水袋の栓を外し川に飛び込む。

 水袋がいっぱいになったら服を着てナイフを持って戻る。

 大樹に着くとそれまで30分強。


 「よしっ」

 ここまで短縮に成功した。


 つい先程まで重力に加重していたのを一転、今度は減重したのだ。しかも重力操作の能力が上がっていつもより軽く、更に前にある景色が後ろに向かって吹き飛んでいく様は、未だ慣れないままだった。


 大樹に登るとボアの干し肉を切り取り、塩を振って夕食に。

 時々野苺も食べて大満足な夕食。


 当然同時に魔法の鍛錬も怠らず。

 今は魔力を隠した水採取。

 集まった水は先日ここから飛ばしたアケビの種の上に。

 飛ばしたアケビの種は操影で拾って、ある程度の間隔でこの大樹の周りに植えていた。


 「この大樹の周りにアケビの蔦が育って実が成ったら最高だな。」


 そうやって、気持ちいい木陰で休みながら、その上に成ったアケビを取っては食べる自分の姿を想像して、本日もまたそろそろ寝落ちの時間がやってきた。


 「今日もおやすみ」

 誰に向かって言うのではなく、独り言で寝落ちるのだった。


 7日目の朝を迎えた。本日も快適な朝を迎えられたことに、全てのものに感謝の祈りを捧げた。

 干し肉を切り取り頬張りながら、これまで身につけた術を確認する。

 「闇影、操影、影縫い、身隠し、影移動、水採取に塩採取、影槍に影盾、重力操作加重。」

 この辺りか。

 どれも僅か1週間で習得出来るとは。

 我ながら嬉しいが驚きでもある。

 「これも、もしかしてチートのお陰なのか?」「ピンッ」

 ああ、やっぱりそうなのか。

 本当に感謝しかない。


 それなら今日は狩りだ。

 出来るならこの辺りの一番の脅威であるワイルドボアを仕留めたい。

 それが成せばこの大樹での生活が安寧のものと言えるだろう。


 俺は身支度をすると身隠しを纏い、影移動で南方面へ真っ直ぐ河原を目指す。

 ものの10分ちょっとで河原に着くと、獲物の気配を確認する。

 近くには何も居ない。そのまま川下へ森の中を進む。

 少し進むと河原に近づく狸の様な動物が川に向かっているのを見つける。


 「よしっ。こいつを捕まえるぞ。」


 黒狸(自称)を獲物と捉え、気付かれないよう森の中を進む。

 きょろきょろと周りを警戒しながら川に向かう黒狸の背後を位置どる。

 もう今では30mを超える影縫いの射程では黒狸の位置は余裕だ。

 生成スピードも1秒を切る。

 しかも重力操作も加えたものでだ。

 新しく命名し。


 「新・影縫いっ!」

 発声と共に捕縛した黒狸に、続けて。


 「影槍っ」

 黒狸の喉元に地面から伸びた影の槍が突き刺さる。


 もうこの位の動物程度には自身が動かずして仕留められる。

 そして影縫いが黒狸を持ち上げ、血抜きを行っている状態のまま、北の森へ進む。

 そして黒狸を近くの木陰の枝に引っ掛け、わざと魔力隠しをしない闇魔粒子を広げる。


 「水採取っ」

 そして集めた水を黒狸の体に流して洗う。


 そして黒狸の血の匂いと、水採取の魔力に反応したボアを待ち伏せる。

 すると、何か近づく気配を感じる。


 「ボアだ。」

 西の方角を見ると明らかに大きな気配が近づいてくるのが感じられる。


 俺は操影をその方向に伸ばして対峙する。森から姿を現したのは形は猪を模したものだが、明らかにそのまがまがしさと大きさが桁違いだ。


 「ワイルドボアだ。」

 そのものは全長4m位か、前の世界の軽自動車位の大きさの魔物だ。

 それがこちらを警戒しゆっくりと近づいてくる。

 以前のレッサーボアとは違い、ただ単に突進はしてこない。


 「これは簡単にはいかないな。」

 俺はそうつぶやくと、ナイフを抜いて身構える。


 俺は10m近く伸ばした影をそのままにし、射程圏内の30mにワイルドボアが入るのを待つ。そして、


 「入った。」

 だが、放った操影を難なく跳ねて避けたボアは、そのまま突進。


 「まずいっ」

 影盾を展開し、回避行動。


 「しゅっ、ぱっ。ぱりんっ。」

 盾は瞬時に粉砕され、爆風のような衝撃が走る。

 一撃が直撃していたら終わっていた。


 「これは…読まれてる…?」

 操影の気配に反応し、攻撃のスキを突かれている。

 完全に手の内を見抜かれていた。

 

 俺は思考を変える。

 自分だけが軽く、敵だけが重くなるよう、半径5mの「重力場」を新たに構築するという未知の戦法を試す。

 できるかどうか分からない。だがやるしかない。

 ──ワイルドボアが突進を開始。

かつてない速さ。だが、俺も決める。

 

 「影盾っ、新影縫い、影槍っ」

 そう叫ぶと同時に左前方に飛んで突進の軌道から躱す。

 結末は一瞬だった。

 影盾が突進を受け止め、影縫いが重力を伴って足を絡め取る。

 ボアの巨体が一瞬止まり、そこを影槍が喉元に突き刺す。


 「ぶひっぶひっ」

 まだもがくボアの右耳へ、ナイフを突き立ててとどめを刺す。

 俺は手を合わせ祈った。

 「ただ俺が生きるために、お前を殺めた。どうか安らかに眠れ」


 この西の森での脅威には打ち勝ったであろう。

 その事実に誇らしくもあり、次への課題がある事に対し気を引き締めるのであった。

 黒狸とワイルドボアを大樹まで運ぶ。


 それらはもう自身の手は使わない。

 影が運ぶのだ。

 途中細くて丈夫そうな木を9本切り倒す。

 それも影槍でさくっとだ。

 またその木も操影で運ぶ。

 途中の大朴葉や薬草類も影槍が切り取り操影で運ぶ。

 俺は全力より少し遅めの駆け足で、影が遅れることなく取ったものを運ぶのに合わせて進む。

 こんな姿を1週間前の俺は想像できたであろうか。


 大樹に着くと、ささっと操影でトライポッドを新たに3つ作る。

 俺はワイルドボアを手近な枝に引っ掛け解体する。

 同時に操影で火打石を使って火を熾し、出来た炭をそれぞれのポッドに移し枯れ葉を乗せる。


 そこに新たに考えた魔法、細長い闇魔粒子で出来た逆円錐形を、それぞれのポッドの枯れ葉の中に伸ばし、辺りにある空気を枯れ葉の中に送る。

 水採取や塩採取の魔法を応用した、送風(自称)だ。


 これで枯れ葉に火が付き煙が立ち込める。

 俺は解体した肉をそれぞれのポッドの内側に引っ掛け、塩を塗り、大きな皮は新たに作った大き目のポッドの3つ共に掛かるようまたがって被せ、更にそれを被せる様に葉っぱ付きの枝を沢山周りに囲む。


 両方の獲物から出た廃棄分、胆のうや膀胱といった内臓を、これだけは自身の手で持ち、森の中へ。

 そっと地面に置き、森に帰りますようにと祈る。


 焚き火で焼いた黒狸の内臓の串焼きを食べ、燻製が出来るまで半径30mの円を重力操作で1.5倍を少し超えるほどまで高めた重力の中を走った。

 上半身は今までのナイフや拳ではなく、切った木から作った1mちょっとの木刀を振るった。

 いずれ剣を持って戦えるのを夢見て、だ。

 全くの素人だがこう動けたら格好いいなと想像して動く。


 そして日が傾いた頃、またナイフと水袋だけ持って川に向かう。

 水袋の補充と今日の汗を流しに。

 30分ちょっとで戻ってこれた。


 まだ日がある。

 今日は夕食前に肩掛け鞄を作る。

 もう構想は出来ている。

 みつかいさんにも確認済みだ。

 俺は操影で影を自身の手足の様に使い、ボアの皮を縫い合わせていく。

 そして出来上がると、前足どうしと後ろ足どうしをそれぞれ繋ぎ、その足の部分が肩に掛かるようにし、最後ボアの顔が鞄の蓋の役目をし、鼻の部分を鞄から出ている革紐に通すと鞄が閉じるという形になっている。これも愛らしい。


 鞄を作り終えると夕食に、今度はボアの内臓を串に刺して火の周りに刺していく。

 火の様子を見ながら操影で燻製肉に火が通ったかを確認し、それぞれ大朴葉に包み、枝の上に運ぶ。

 その帰りに操影で塩を少々持ち、その塩を手に取り内臓に振りかける。

 生焼けのまま食べる。


 「美味いっ。」

 塩が有るのと無いとでは大違いだ。

 随分と充実してきたな。


 俺は食べながら操影でワイルドボアの皮を持ち上げ、その上空で水採取を行い皮を洗ったらまたポッドの上に掛け乾かす。

 食べ終えると操影でボアの皮を畳んで肉を置いている枝に置く。

 俺もいつもの枝に登り腰を降ろす。


 今日からまた新しい魔法の練習だ。

 探索の魔法だ。

 俺は影を通して視界に頼らず先の情報を得る事が出来る。

 そう、アケビの中でも最も熟したものから採取するといったようにだ。

 その応用である。

 イメージとしては闇魔粒子を広範囲に広げ、そこから情報を得るというものだ。

 これが可能なことはみつかいさんに確認済みである。


 「操影っ」

 俺は先ず、いつもの操影でこの辺りの状況を確認する。

 現在の射程距離は木の上から影を這わせ、地面を半径30mだ。

 状況を確認すると、今度は操影を引っ込め、身隠しに使っている闇魔粒子を広げていく。

 そして先程操影で得た状況を闇魔粒子から感じ取る。

 少しずつ広げながら。


 「うーーーん。まだ操影から得られる情報からは程遠いか。」

 だが出来ると分かっているのだから練習あるのみ。

 ひたすら練習していると本日もまた寝落ちるのだった。


 8日目の朝を迎えた。

 いつものように感謝の祈りを捧げると、食事を摂り、出かける準備をする。

 暫く肉は必要ないので採取と魔法の練習だ。


 先ずは川へ向かう。川沿いを歩いていると、茶色い兎──茶兎を見つけた。


 「新影縫いっ」

 茶兎を影が捕縛する。


 ここで新しい魔法の練習。

 闇魔粒子を茶兎に纏わせ。


 「生命力吸収(自称)」

 と唱える。しかし、何の反応もない。感覚がまるで掴めない。


 「生命力とはどんな感じだ?」


 魔力は自分の中で明確に感じ取れるが、生命力はどうも曖昧だ。何度か試したが、やはり何も変化はない。やむなく捕縛を解くと、兎は慌てて森の中へ逃げていった。


 (MPドレインの方が、感覚的には掴みやすいかもな)


 俺はそこから北西に向かい、ボア系に遭遇しやすい森へと向かった。

 そこでかなり控えめに。


 「闇魔粒子」

 と小さく魔力を開放する。


 全力で開放するとレッサーボアは近寄らなくなったからだ。

 暫くするとレッサーボアが突進してくる。すかさず俺は、


 「新影縫い」

 とボアを捕縛する。

 そして、闇魔粒子を纏わせ。

 レッサーボアの魔力を感じる。


 「魔力吸収」

 殆ど魔力を奪った感覚はない。

 もっと闇魔粒子で包むようにイメージして。


 「魔力吸収」

 変わらない。

 闇魔粒子の一粒一粒に取り込むイメージで。


 「魔力吸収」「おおっ」

 今度ははっきりと魔力を感じられた。


 自分の魔力に変換出来るのも感じた。

 もう一度。


 「魔力吸収」「魔力吸収」「魔力吸収」


 何度も練習をしていると、レッサーボアが突然倒れる。

 「あ、魔力切れか。」


 このタイミングで、生命力の感知にも挑戦する。

 影を纏わせたまま、地面に胡坐をかいて瞑想状態へ入る。

 ボアから魔力が抜けた痕跡とは別に、温かく穏やかな“何か”を感じた。


 「これかっ。生命力吸収!」

 その瞬間、力が自分に流れ込むのを感じた──と同時に、


 「ビクンッ」

 レッサーボアが飛び起きた。


 だが影縫いの効果で動けず、こちらを見て荒い呼吸をしている。


 「寝てるとこに生命の危険を感じて起きたのか。……悪いことしたな。」

 殺す必要はない。捕縛を解くと、レッサーボアはよろめきながらも森の奥へと姿を消していった。


 (感覚は掴めたな。次は狩りで応用してみよう。)


 ついでに、昨晩の続きの魔法訓練に取り組む。


 「探索(自称)」

 とつぶやきながら、闇魔粒子を薄く、円状に展開してみる。

 

 (うーん、まだぼやけるな。)

 粒子を濃くしていくと、映像のように周囲の情報が明確になってきた。


 「おっ、見えてきた。あれは......イチジクか!?」

 100mほど西にイチジクのような実がなった木を確認。


 「早速行ってみよう」

 近づいてみると、やはり見た目通りのイチジクらしき実がたわわに実っていた。

 操影を伸ばし、影槍で実を二つ切り取る。

 一つはその場で口に入れ、もう一つはボアの革鞄に収める。


 「……昔食べた、あの味だ。」

 その美味しさに思わず顔がほころぶ。満足して座り直すと、再び探索。


 「探索っ」

 今度は、先日のものとは別種のアケビと、さらに別のイチジクの木を見つけた。


 「おぉっ、これは便利な魔法だ。」

 アケビの木へ移動し、影槍で実を一つもぎ取ると、操影で手元へ運ばせて口に含む。

 

 「ご褒美、ご褒美。」

 その後、大樹へ戻り、昼食をとった後は重力操作による身体鍛錬。

 日が傾くと川で体を洗い、水を補充し、再び大樹へ。

 夕食を済ませると、枝の上で夜の魔法訓練に入る。

 一日の終わりまで、ルーティーンが自然に身に付きつつあるのを感じながら、今日も静かに一日が終わっていった。


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