第十八章
俺は何度攻撃を仕掛けてもジェネラルの盾に阻まれる事と、ホブゴブリンやゴブリン達のワイルドボアに寄る騒動も収まりつつあり、落ち着いた奴から俺の背後に円の様に囲まれ始めたのを確認し、この状況の打開策を考える。
と言っても考える時間は無い。
俺は、迷った時は逆張りだ。と良く思う。
ここで切り伏せなければ先は無い。一人でここに乗り込んだのだ。
俺は剣を鞘に納め、腰を低く構え、軽く目を閉じる。そう、居合だ。
「すぅーーー。」
ここで切れなければかなり劣勢になる事は明らか。
この数の魔物に囲まれれば逃げる事も難しいだろう。
ここまで俺自身を追い込み、絶対に成功させる。
大きく右足で踏み出し、影移動に加え、操影と重力操作も組み合わせ、最速の突進でジェネラルに向かい、大盾で身を護るジェネラルに一太刀。
「すぱっ。」
ジェネラルの大盾は真っ二つに分かれ、下半分が地面に落ちる。
「ギギッ」
ここからは大きく展開が動く。
俺の攻撃を防ぎきれなくなったジェネラルは、俺の攻撃を受けたり、俺の攻撃がキングに届くと、更にキングはジェネラルを気にせず攻撃し、ジェネラルはそれも喰らう。
一気にジリ貧になる2匹をここぞとばかりに追い込む。
先ずは半分になった盾に対応しきれていないジェネラルを、足を攻めて転ばせ、転がった所で首を落とす。
その流れのままキングに攻撃をし、あっけなくその首も落とす。
単体となったゴブリンキングは、ワイルドベア(自称)に比べれば、大きさも魔法を使うでもなく、あっけなかった。
だが、その後の処理はまだまだ続く。
残ったホブゴブリンと様々なゴブリンを倒していき、途中ワイルドボアからMPドレインを行い昏倒させ、もう一匹も含めて黒穴引に回収して、ゴブリンを最後の1匹まで倒し終える。
「ふうぅ。」
俺はゴブリンキングとゴブリンジェネラルの死体だけ回収すると、急いで先程隠した所に向かい、それらの状態を確認し、問題ないことを確認すると、操影に乗せ、影移動で最速で街に向かった。
前方に索敵を集中させ、ゴブリン部隊に追い付こうと進めると、丁度部隊の先頭が街に着き、戦闘が開始される所だった。
「ダ、ダーーーンッ!!」
と手榴弾を使った音が聞こえてくる。
その音はその後2回続く。
俺は、あわよくば戦闘開始前の部隊に追い付き、後ろから混乱させたかった。
が、それには間に合わなかったが、まぁ、これも想定範囲内だ。
その為の訓練も行った。
俺は道中にアークメイジ2匹が倒されている事を確認し、その先で砦内で見つけたものを、もう一度安全な所に隠し、更に最速でゴブリン部隊の後方に向かう。
そこで状況を確認する。
最後のゴブリンジェネラルは、やはり投擲型であった。
その背後にホブゴブリンが2匹大きな荷車を運んでおり、その荷車にはさまざまな投擲物と魔道手榴弾が20個位積まれていた。
そして、その傍らにアークメイジらしきゴブリンもいた。
俺が戦場近くに着いた時には、その手榴弾を3発投げられ、それを訓練通り対処し、その余波でホブゴブリン隊に大きな被害が出ている様だった。
まだ球は沢山ある。それらの対処で、超大戦士型ジェネラルや弓使いジェネラル等に攻略される恐れがある。
急いで敵戦力の要であるアークメイジを叩く。
そしてジェネラル3匹を屠る。
そう優先順位を決める。
俺は影盾を3層前方に作成し、影移動で投擲型のジェネラルの傍らにいるアークメイジに突進する。
「ドサッドサッドサッ」「ドサッドサッドサッ」「ドサッドサッドサッ」
「ギギッ」「ギギッ」「ギギッ」「ギギーッ」
ある程度近づいた先で、射程距離内に入ったアークメイジに向かって影刃を放つ。
それはあっけなく首を落とし、暫くジェネラルの投擲型と弓使いでは、この距離では脅威は無いと判断し、超大戦士型ジェネラルに向かって行く。
すると背後から大きな殺気が感じられ、俺は突進を止め左に大きく旋回する。
何かが俺の頬の横を凄い勢いで通り過ぎた。
投擲型と思っていたジェネラルは、格闘家型でもあった様で、今のはそれの右回し蹴りが通り過ぎた後であった。
そこで体制を崩すかと思いきや、その流れで荷車から投擲槍を掴み、それをまるでナイフを持っているかの様に俺に突いてくる。
俺は咄嗟に後ろに飛び退けたが、その先から超大戦士型からの攻撃を感じる。
飛び退けている途中だが、それを操影で自身を殴る様に叩き込み、真横に回避させる。
2匹の攻撃は寸での所で回避できたが、そこに弓使いが矢を拳に握り、鏃を俺の頭に叩き込む所だった。
俺は咄嗟に重力操作と操影を使ってその場から大きく離れた。
俺は何とかこの攻防から逃れる事が出来た。
しかし、このまま距離を取っていては、超大戦士型は仮砦を破壊するだろうし、弓使いはは隙を突いて防衛ラインの冒険者を、一人ずつ落とすだろうし、万能型(?)と呼んだらいいか、そいつは代わりのアークメイジを従え、魔道手榴弾を投げ込み、戦況を一気にひっくり返してくるだろう。
俺がこの3匹の相手をするべきであろう。
既に仮砦の前では、ホブゴブリンやアーチャーやメイジと交戦中だ。
ただ俺が、ゴブリン大隊の中腹の左側面で、ジェネラル3匹と睨み合ってる事で、戦況はぐちゃぐちゃではある。
俺は黒虎徹を抜き、近くに居るゴブリンやホブゴブリン達を薙ぎ払いながら、ジェネラル3匹に向かって進む。
先程の3匹の連携は、キングと大盾使いジェネラルのコンビを大きく上回る立ち振る舞いであった。
特にやっかいなのが万能型だ。
用意した荷車から、さまざまな武器を取り出すと、奇抜で多彩な攻撃を放つ。
そしてその武器による攻撃が躱されるようになると、即座にその武器を放り、拳と蹴りの肉弾戦に切り替える。
そしてまた距離を取ると新たな武器を手に。
その万能型に構っていると、弓使いは距離を取り、超大戦士型が短距離、万能型が中・短距離、弓使いが長距離と間を取り、この3匹がこの間に入るとほぼ手出しできない。
恐らく人間100人規模の大隊でも落とされるだろう。
暫く攻防を続けていると、俺とジェネラル3匹を囲っていたゴブリン達は居なくなった。
俺達の戦闘に巻き込まれた奴、弓使いはわざとゴブリン集団の居る所に下がり、そこから矢を射ってくる為強制的に巻き込まれた奴、そうこうしている内に砦に向かった方が賢明と判断した奴らが殆どで、ここには1人と3匹だけの空間になった。
その攻防とは、自分たちに優勢な間を取った3匹を攻略する為に、手前の2匹をどうにか躱し、弓使いの所まで最速で移動し、接近戦に縺れこませていた。
そうやっていると、直ぐに他の2匹に追いつかれ、3匹との接近戦に。
3匹が揃うとかなり押され、やはり間を取られる。
それを繰り返していた。
しかし考えようによっては、この状況は最悪ではない。
ここにキングと大盾使いが居たと思ったら、この街は簡単に落とされていただろう。
その2匹は既に始末してあるのだ。
もうこれ以上の最悪にはなり得ない。
そう考えた時に少しだけ笑みがこぼれた。
俺は何度目かの超大戦士型を振り切り、万能型を躱し、弓使いへと向かう。と見せ掛けて、万能型に影縫いを重力操作最大値で足止めし、超大戦士型へと反転した。
そして、そこは弓使いと万能型の直線状になる位置で、万能型の武器がギリギリ届かない辺りを計算した間合いにした。
後ろに中・短距離型と長距離型を控えて戦うのは無暗な行動ではあるが、これ位のリスクが無ければこの場は崩せない。
加護によって即死はない。回復魔法も自身が使える。ある程度の攻撃なら黒粒界で防げる。というのが勝算だ。
1体1なら超大戦士型ならキングや大盾使いとのより上手く立ち振る舞えると判断しての事だ。
後は時間との勝負だ。
「うぉおおおおっ!」
俺は渾身の踏み込みで超大戦士型に突進すると、超大戦士型の周りに同時に影盾を数枚発現させた。
俺は重力操作減重で加速させ、超大戦士型に接敵する直前に影盾を蹴って軌道を変え、そのまま数回軌道を変えた先が相手の背後を取り、黒虎徹で一閃。
「ここだぁっ!」「きんっ」
「ググォッ」「ドサッ」
超大戦士型はその場で倒れる。
俺はすかさず弓使いまで突進し、接敵。
「次はお前だぁっ!」
弓使いも万能型までとはいかないが、接近戦の対処をかなりできた。先程まではそれにてこずっていた。
だが、ここで俺は今まで見せてこなかった、黒穴引と出を弓使いの前後に生成し、その二つを潜って即座に背後を取り一閃。
「お前もだぁっ!」「きんっ」
「ググッグォッ」「ドサッ」
弓使いもその場で倒れる。
そして即座にその先の万能型に向かう。
「お前で最後だぁっ!」
影盾と黒穴との両方見られた万能型には、影盾数枚と黒穴引と出を前後に生成した。
色んな組み合わせが出来る事と、先程見たばかりの戦法の、対処法を思いつく前に仕留めたい。
そこで、先程のこいつとの攻防で投げられた投げ槍を、俺は黒穴引で躱しており、それを今その黒穴出から回収し、先程の前後の黒穴に全力で投げ入れる。
俺自身は奴がその前後の間合いから、左右どちらかに動いて前後の攻撃に対処できる位置に行くと想定し、一瞬の判断で影盾を蹴ってその更に背後に回る。
予想通り万能型の背後を取ると最後の一閃。
「これで終わりだぁっ!」「きんっ」
「ググッグォッ」「ドサッ」
万能型も倒れ、俺は3匹のジェネラルとの戦闘に勝利した。その3匹の死体と荷車の投擲武器と魔道手榴弾を回収した。
そこで、街の砦の攻防を見ると、仮砦は破壊されており、その残骸を足場に本砦の上にいる者に攻撃を仕掛けていた。
しかし防衛ラインは盾使いを中心として、魔法使いと槍使いがそれらを振り払い、その奥からは弓使い達が間引きをしていた。
善戦している。
俺は息を落ち着かせると、後方から戦線に参加した。
殆どはゴブリンの為、メイジからMPドレインで魔力補充しつつ、ゴブリンやアーチャーはHPドレイン1発で、ホブゴブリンは近づいて来た奴には黒虎徹で一閃、それ以外はHPドレインを数発で屠っていく。
戦線は急速に収束していく。
ゴブリン達は城攻めなのに、何故かいつの間にか前後から挟まれる形に。
慌てふためいて、逃げ出す奴と砦にがむしゃらに登る奴と俺に向かって来る奴に別れた。
俺は、逃げ出すゴブリンには目も掛けない。何故ならこの騒動以降もハーデンたちにゴブリン狩りの依頼を受けさせたいから。全滅は困る。
しかし、ホブゴブリンとアークメイジは別だ。
アークメイジが残ったら、また手榴弾の危機が訪れる可能性がある事と、この戦いを生き残ったホブゴブリンなら、高い確率でいずれジェネラルになるかも知れない。
向かって来る奴らを対処しながら、それらが逃げるのだけは全力で食い止めた。
アークメイジとメイジの区別は分からないが、明らかに高価な装備の奴や、高度な魔法を使った奴、闇魔法を使った奴はMPドレインで昏倒させた後、確実に仕留めた。
それと逃げ出すメイジも仕留めた。
生き残るとすれば、明らかにただのメイジだった奴だけだ。
奴らはMPドレインで昏倒させただけで、仕留めてはいない場合がほとんどだ。騒動が収まった後に目を覚まし、逃げ出す奴が数匹ほどいる程度だ。
そうこうしていく内、砦の前で立っているゴブリンが一匹も居なくなった。
その瞬間俺とギデルの目が合った。
「ようっ。生きてたか。」
「あぁ。」
ギデルは弓を置き、砦の最前線で大剣で戦っていた。
その両隣にはダンとダルクが、その更に隣にジゼルとハオク。
それらの後ろにはマインとブリューにヘレン、マルティアとビルカーヌの姿も。
「そちらは皆無事かぁー?」
と俺は大声で確認する。と、
「こっちは多少の怪我人と、魔力切れで昏倒した者はいるが、死人は出ていない。」
と、ダンが。
「それなら良かった。」
俺はそれだけ言うと、操影を使って砦を登ってダンの所まで行って、一言。
「戦後処理があると思うが、先にギルマスとダンに相談したいことがあるんだ。梨花亭で話せないか?」
「何故梨花亭?」
「理由はそこで話す。」
俺は先に梨花亭に足を進める。
そうすると数人が、俺の後を追って付いて来てるのを感じる。
俺は、ギルマスとダンだけに言ったつもりだったが、他にも数名が付いて来てるのを感じながらも、ここまで大事なのは確かで、仕方が無いと思いながら歩みを続ける。
俺は緊急事態の上、閉店と共に厳戒態勢の梨花亭の扉を開き、アギレンに向かって言う。
「アギレン、厄介ごとに更に付け加える形で申し訳ない。一番大きいテーブルに彼らを着かせてくれ。」
アギレンは、
「あぁ、皆さんこちらの席にどうぞ。」
と、俺が依頼していた中央にある大テーブルの、楕円形の長い半円側に今着いた面々を案内する。
俺は皆に、
「ここで少し待っててくれ。」
そう言って、2階の自分の部屋に向かう。
俺は自分の部屋に入り、そこにある、先程ゴブリン砦で見付け、隠し、その砦を攻略した後、それらを回収してから、ゴブリン大隊の後を追って、道中で隠したもの。
それらは、モノではなく、人間、二人の親子であった。
俺はその二人を自分の部屋に確認すると、
「お二人共落ち着きましたでしょうか?」
「は、はい。」
「・・・」
「それでは、この後、事の顛末について詳しく説明致します。」
「そ、そうですか。」
「・・・」
これは先程の騒動の中、救っていたのがモノではなく人をお救いしていたという話。




