第十五章
第十五章
「おう、お前達戻ったか。早かったな。それで予定通りに事は運んだのか?」
「あぁ、申し分ない。期待以上だ。」
「おぉ、それは明日も楽しみだな。」
「期待してくれ。」
「それで今日はこの後どうするんだ?」
「俺たちは3人でハーデンの新しい武器を買い物に行く予定だが?」
「あぁ、いや、別に何でもないんだが、この後ここに集ってる皆で仮砦を作成するんだが、その後遅めの昼食でもどうかと思ってな。」
「それはどの位で終わるんだ?」
「1時間は掛からないぞ、南のあと西も終わらせてな。」
「そんな簡単に出来るのか?」
「あぁ、簡単では無いんだが、定期的に練習しているから早いんだ。」
「定期的に練習?」
「あぁ、非常時訓練と言ってな、土属性持ちが全員集まらなかった事を想定して、くじを引いて半分にして、西と南で時間と強度で争うんだ。ま、それに街の連中が賭けたりして、一種の祭りみたいなもんだ。」
「そうなのか。食事中にまた詳しく聞かせてくれ。」
「あぁ、いいぞ。それで今日は本番だから、全員で一つずつ作るから早いんだ。あ、もう始めるぞ。」
「じゃあ、俺達も見学していこうと思うがいいか?」
「はい。」
「えぇぇぇっ、仕方ねえなぁ。」
「そうだよな。新しい武器って、いち早く見て決めたいのにな。悪いな。」
「いやいや、ちょっと駄々こねただけだよ。たった1時間の事で言い過ぎたよ。師匠が謝る事なんかない。一緒に探してくれるだけでも助かるってのに。」
「あぁ、それは問題ない。悪いな付き合って貰って。滅多にない事だから見ておきたいんだ。」
「あぁ、あぁ、俺もそれは見ておきたいよ。だから謝んなって。」
「そうだったな。」
「ふふふっ」
「あなた達二人も顔を赤くしてますよ。」
「っるせーなー!」
「はははっ」
やっぱ良いなぁこのパーティー。
そう思っていると、仮砦を作るのに中心的な土魔法使いの一人が皆に向かって話す。
「形はいつも通りで、3m超の化物がいるってんで、高さは5m位か?」
その言葉は仮砦の作成責任者のギルマスと衛兵責任者代理のダンに向かっている。
「あぁ、儂らはそれで良いのだが、折角ここに居る、ひゅうごはどう思うかの?」
「あ、良いのだろうか。口を挟ませて貰えるなら、俺が思うには、仮砦の目的は、第一にホブゴブリンの殲滅に特化した高さが良いと思う。200匹も確認しているからな。」
「あぁ。」
誰か俺の話を聞いた奴の声がこぼれた。
「ここが最初の関門だ。その後、ジェネラルが攻めてきた際には、仮砦を放棄して本砦からの攻撃に移った方が良い。」
「は?」
俺はその疑問の言葉には聞かなかったことにして続ける。
「たった4匹だが、直接攻撃特化型と遠距離攻撃特化型が確認出来ている。直接攻撃型なら数分で仮砦を破壊出来る可能性があることと、遠距離攻撃特化型なら、こちらの矢が届く射程外から矢を放ってくるだろう。
「うっ」
先程の声の主からか、何人かが俺の言葉を想像出来た様でそうこぼす。
「その他の2匹がどういうタイプかは調べられなかったが、超攻撃型や魔法型などであったとしても、仮砦の破壊か乗り越えかの2択だと。
「ほほぅ」
周りの反応が興味に変わった。
そのまま続ける。
「そこで第二の目的は囮だ。仮砦は囮だ。本砦にあるあの穴は弓穴だろ?」
皆が弓穴に注がれる。
俺は続ける。
「仮砦の破壊や乗り越えを試している隙を狙って、そこからその破壊工作をしているジェネラルを狙えるようにして欲しい。その位の高さと幅と厚みで出来たら、こちらの思うツボになると思うが、どうかな?」
「ほほぅ、初めてだが、納得のいく説明だな。」と、ギルマス
「あぁ、そうか。」
「して、ジェネラルの弓使いが我々より高射程というのはどういう根拠が?」
「あぁ、それか。そこは話したから理解して貰ってたと思っていた。が、追いついていないようなら再度説明する。」
片方の眉をジゼルが動かしたが、俺は続ける。
「奴は2mを超える体躯に、4m弱の弓を持っていて、その弓矢に敵う弓を引ける人間がいるかと思うか?明らかに超速度、超威力、長距離からの矢を放てるはずだ。」
皆が真剣に俺の話に耳を傾ける。
「奴は俺達の矢が届かない距離から、仮砦の上で真下のホブゴブリン達と相対しているものを1人、また1人と1本の矢で1人ずつ殺していき、全員倒したら数歩進んで本砦の上にいる者を、また1人、また1人と殺していくんだ。」
皆が唾をごくりと飲み込む。
「そして仮砦にはホブゴブリンに混じって、超攻撃型のジェネラルがその仮砦を破壊する、いや、その破壊の前に先程のアーチャーが破壊活動中のジェネラルの肩を使って飛び込んで、本砦の上を制圧さえ出来るかもしれない。」
もう、皆は真剣に俺の話の続きを待つ状態になった。
「あくまで可能性の話をしているつもりだが、直接見た俺からすると、これらは全て可能だと思っている。だから、ここに少しでも相手がゴブリンだからとなめている者がいたなら、今回の作戦は非常に厳しいものになるだろうなと。」
皆もごくりとその先を確認する。
「だから、本砦の側面の弓穴から仮砦の破壊工作中のジェネラルを狙える大きさと角度で作成し、今まで体験した事のない程の速さと威力の矢に対抗できる盾使いに守らせ、その射程距離に届く魔法使いで硬め、それでも奴らは自身の弱点が魔法だと思ってる筈だから、そこにも対策してあると思って対応して欲しい。」
「ほほぅ、ここはひゅうごに聞いて正解だったようだな。ここにシルバーを読んでおいてこれも正解だった。ほら、弓担当はそれぞれ弓穴から指示を出してくれ。土属性は確認しながら幅と高さを確認してくれ。」
「じゃあ俺は砦内部に向かう。ブリューとダルクは持ち場が変わるから砦上部で確認してきてくれ。」
ギデルが翼のメンバーに指示を出す。
「周辺の石や岩を投石班様用に上に運んでくれ。以前作った石砦の残骸が沢山あるだろう。」
ダンが指示を出すが、今新しい指示が出たばかりの土属性魔法使い達には不評だったようだ。恐らく代理ということもあるのだろう。
「それ位なら俺が手伝おう。」と俺
「二人共砦上に付き合ってくれ。」
「はい。」
「喜んでっ」
俺達は砦の上に上がって、俺が影を使ってどんどん岩等を上に運ぶ。
その中から小さいものだけマインとハーデンが手分けして指示された場所へ運ぶ。
「余り大きいのは俺が後で影で移動するから無理はするなよ。」
「はい。」
「あいよ。」
「よーしっ南はこれでいいだろう。次は西に移動だ。このまま砦の上を使って移動だ。今日は許可が降りてる。」
そうして一行は西の門に向かったが、所々普段は開かない扉が開いていたり、普段は何もない壁に簡易の階段が付いていたり、もし何かの際に敵に砦の上を登られても、簡単には別の門までは進ませないという事なのだろう。
「よーしっ、こっちはちゃちゃっと終わらせよう!今度は扉を作る必要もないしな。」
明日、俺達作戦組は、全員南門へ帰る事になっている。
そこで全員が中に入ったところで石壁が降ろされることになっている。
降ろされる石壁の仮砦のものは先程見たから理解している。
現在仮砦の上に乗っかっている大きい石壁を、俺達が潜った後降ろすことで仮砦が完成するのだろう。
そこまでが作成者の仕事なのであろう。
それよりも、だ。
元の砦の門にも石壁が降ろされると。
元の門の大きさは、馬車や、もしかして居るのか巨人族でも通れる位、5mはある門だ。
それを塞ぐ石壁とは。
常に非常用に設置されており、明日はそれを作動させるだけとの事だが、いったいどういう仕組みになっているのか。
そういうメカ的な物にはどうしても憧れるよな。
でも魔法がある世界だから、物理法則だけではないのだろうけど。
後でダンに聞いてみよう。
そう思い耽っていると、作業が完了しそう。
「やばっ急がないとっ」
俺は慌てて影で岩を上まで運ぶ。
二人は同じく移動させる。
やがて全ての作業が終わる。
「じゃあお昼にしようか。梨花亭がいいんだろ?」
「あぁ、いつもの所でお願いしたい。」
「じゃあ、向かおう。」
「あぁ。」
「はい。」
「おうっ」
「ダン、一つ聞いていいか?」
「おう、何だ?」
「この街にはどの位武器・防具屋があるんだ?」
「全部で8つだ。」
「即答だな。しかも街の規模にしては多くないか?」
「あぁ、この街はダンジョンがあるからな。冒険者も集まり易いんだ。しかもうちのダンジョンの魔物は外殻が硬かったり、酸を飛ばして防具を腐食させるモノがいるからな。儲かるんだろうな。」
そんな魔物いたっけ?
「そ、そうなのか。それで、ダンのお勧めの武器屋ってあるか?」
「お勧め?」
「あぁ、ハーデンの武器だから、通常のよりは少し短めで、例えば子供用みたいのがあればいいんだが。」
「ああ?子供用?子供に剣を持たせるなんて、貴族か、逆に貧しくて子供でも稼がないといけない様な環境の者だな。ハーデンなんかそうだろ?」
「あ、あぁ。そうだ。」
「数は少ないだろうが大体どこの店でも置いてるぞ。」
「じゃあ、店はどの辺りにあるんだ?」
「あぁ、それな。6つの店が東門付近にある。その他は北門付近に一つと、西門にも一つ、丁度そこだ。」
「そこか?ちょっと寄っていいか?適合するのを探すだけだから時間は掛らない。」
「適合?短いってだけでなく、何か他に条件があるのか?」
「あぁそうだ。若干短くて成年前のハーデンでも取り扱い易く、それでいて魔法剣を使うから耐久性が高いか、特殊な材料で作られたものを扱うような所があればベストなんだが。」
「し、師匠!魔法剣って何だ?俺聞いてないぞっ!?」
「あぁ、今日言おうと思ってたからな。」
「思ってたからなっ。じゃっねぇよ!ちゃんと聞かせろよ!」
「まぁ待て、俺が思うものを見付けるのは大変そうだから、一先ずそこの店に行ってくる。」
「いや、待てひゅうご。さっきの剣への条件なんだがな。普通ならお前が思うように簡単に見つかるなんて有り得ない。有り得ないんだが、それがピタリと当てはまる代物を俺は昨日知ったんだ。北の武器屋でな。ただ、貴族の子供用に設えた物でな、値は張るぞ。ハーデンには難しいと思う。だけど、店主も捌けなくて困ってたから買い叩き、足りない分はギルドで金借り申請するといい。俺とひゅうごがいれば申請が通るかもしれんしな。」
今のダンの話をまとめると、俺が出した条件に合う剣が、北の武器屋にはあると。
だが、それはかなり高価で、ハーデンには買えず、ギルドでお金を借りろと。
なんかギルドって前世の銀行の様な働きがあるみたい。
賢いな。
「闇雲に見るより先ずはその剣だな。食事を摂りながら詳細を聞こう。」
「そうだな。」
「はい。」
「えぇっ、あぁっ、あのっ、俺の魔法剣っていうのは、、、」
この話の一番の当事者を置き去りにして、残りの3人は納得して梨花亭へ向かう。
そこでこの雰囲気に最初のうち戸惑っていたダンが口を開く。
「正直、この厳戒態勢では、武器を探すっていうのを止めようと思ってたんだ。」
それで食事に誘ってきたんだ。
「あ?それはなんでだ?」
「あぁ、この厳戒態勢でな、ギルドから全ての武器屋に、緊急強制依頼で、鏃、もしくは矢の作成命令が飛んでいるんだ。彼らは夜を徹して出来るだけ作成しようと励んでいる最中だ。」
俺は今のこの街の危機意識を自分から啓蒙したのに、自分がその事の重大さを理解した行動でなかったことに反省した。
確かに今、ダンが言った武器屋は、離れて見てても慌ただしくしていて、販売なんてそっちのけな感じだ。
「しかもこの街だけで作られる分では足りないかと、一番近い領都に早馬が5体出され、騎士団の要請とぎりぎり持ち帰れる量の矢を買って帰ってくるんだ。しかも馬を変えてな。行きも帰りも全速でないと明日に間に合わないからな。」
「へぇぇ、そこまですんだぁ。」
「確かにそうだな。俺の価値観が、俺の直ぐ周りの事にしか考えられてなかった事に気付かされたよ。」
「あぁ、確かに最初はそう思った。が、今はそれが、俺の尊敬する鍛冶師を救う可能性があるかもって話だ。でも、まぁ、なるようにしかならないって話だから。今は美味しく昼食を摂ることだけ考えよう。」
「それには同意だ。」
「畏まりました。」
「えっ?あっ?な、何っ?俺の話はっ?どどどどうなったのっ?」
「ぷっ」
「ふふっ」
「はははっ」
梨花亭に着き、アギレンに塩の麻袋を2袋渡す。
「えぇっ!こんなにか?良かったのか?」
「あぁ、俺達分はこれとは別に採って来てるからな。」
「ほんっとうに助かる。ひゅうご。恩に着る。」
「いや、俺にとってもだ、ここの料理が食べられない日があったら非常に困るというだけだよ。」
「あぁ、それでも。ありがとうな。」
「もうその辺でいいから、昼を食べさせてくれ。」
「あぁ、それはもう、直ぐに用意するよ。お金は?」
「いつでもいいよ。急いでないし。無くてもいいくらいだ。適当に決めてくれ。」
「あぁ、何らかでひゅうご達の為になるものを考えるよ。お金になるかもだが。」
「それでいいよ。」
そういったやり取りの後、遅めの昼食を摂る中、ダンは今まで溜めてた言葉を口にした。
「ひゅうご、いいか?ぶっちゃけた話なんだが、明日の護衛の俺の役目の肝は何だ?」
「肝?」
「あぁ、俺が思うに、お前の立案には殆ど抜けがない。だが、一人護衛を付けたいと思った、その何か理由がある筈だと。それが知りたいんだ。」
「何だ、そんな事か。それはダンにとっては要らぬ心配を掛けさせたようで悪かったな。」
「ん?どういうことだ?」
「あ、あぁ、昨日の会議で、護衛が一人欲しいと言ったのは、俺達陽動班が魔法士ばかりで、物理防御、物理攻撃、索敵能力のある者が必要で頼んだんだ。」
「あぁそうだったな。そこで白虎のジゼルがブロンズからの護衛では心許ないって、言うのと、俺なら大丈夫って言うのは?」
「えっ?だって、あの時お前が物理防御、物理攻撃、索敵能力を他より有しているからと自薦したからだろ?」
「自薦って、ま、まあそうか。」
「お前の懸念するのも分かるが、今回護衛をお願いした理由は、マインの為それ一点だ。」
「マインの?」
「あぁ、そうだ。今回の我々陽動班の第一目標は、斥候部隊リーダーの暗殺だ。だが、それだけだったら、俺一人の方が確実で安全だが、問題は第二目標の南の見張り台の破壊だ。」
「ほぉ、それで?」
「あぁ、俺もマインも対人に特化してて、対物破壊には向いてないんだ。」
「あー、そういうことか。大体読めてきたぞ。」
「あぁ、そういうことだ。そこで物理破壊に向いた魔法士を2人陽動班に付ける。そうすると今度は、複数人隠密出来るマインの能力が必須になる。」
「そうなるな。」
「あぁ、だがそうなると、だ。第一目標の暗殺で俺の補助までするのに、第二目標に必須な魔法士の隠密、となるとマインの責任が大きくなりすぎる。必然的に魔法士の護衛も担っていることになるからな。」
「確かにな。そこで俺か?」
「あぁそこだ。マインには隠密、俺は身隠しと読んでるんだが、その身隠しをもう一人分の負担にはなってしまうが、自分を含めて’護衛’の部分は責を外せるだろ?」
「あぁそうなるだろうな。理解したよ。」
「昨日の件もあるからな。俺はマインを今回の作戦に参加させたくなかった。だが、マインにももっと自衛の力を付けさせたかったというのと、今回の脅威はどうしても早く取り除きたいという思いからこうなったんだ。」
「あぁ、あぁ、それで俺がお前達の役に立てるってんなら誇りに思えるよ。」
「そう言って貰えるなら助かる。この街にどれ程の者がいるかは知らないが、あの場ではお前か翼のとこの大男位しか頼れないと思ってたからな。」
「翼の大男って、ダルクか俺って、、、お前って本当に凄いな。あの場には玄武の幹部もいたのにな。」
「あ?あぁ、そうなのか。良くわからんが、俺はお前で良かったって思ってる。俺達には速さも大事だからな。」
「ははっ、皆良く誤解してるが、あのダルクはああ見えて速いんだぞ。ま、速さだけなら俺の方が上だがな。」
「そ、そうなのか?あの巨体で速いって?それはそれで見たかったかもな。でも、、、あの巨体が速いとなると、マインの身隠しでは隠しきれないかも!?」
「ぷっははははっ!それじゃあ隠密どころじゃねえなぁ。」
「ふふふっ」
「あははははっ」
「本当は、暗殺集団みたいなのがあれば、マインを作戦に入れなかったのに。なんか、冒険者ってそういうのとは真逆だろ?」
「暗殺部隊か、噂には良くあるんだよな。領都のは本当に噂だけかもしれないが、王都のは本当にあると思う。暗部が。騎士団の中の特殊部隊って感じで。」
「領都?王都?騎士団?」
「あぁ、お前は記憶喪失だったもんな。」
「記憶喪失ですって!?」
「えっ!?師匠がか?」
「えっ?あっ?こ、これって、、、」
ダンが口を滑らしたかもと、バツが悪い感じになってる。
「あぁ、悪い。話してなかっただけで、この二人には隠すつもりはない。本当の事も含めてな。」
「あぁ、そういうことなら良かった。まずいことを言ったかと思ったよ。」
「いや、こちらこそ悪かったよ。」
「いや、おいっ、で、どういうことだよ?」
「俺ってな、ここではバルカの迷子って言うんだっけか、それなんだ。」
「えぇ!?バルカの迷子?」
「んぁっ!バルカの?」
「だが、ギルマスとダンとが気を使ってくれて、冒険者達には記憶喪失の漂流者ってことになってる。」
「記憶喪失?ですか?」
「なんでだよっ?」
「あぁ、そこは俺の持つ知識の流出や、俺の身を案じてのことだ。二人もそれに合わせていて欲しい。が、二人には全てを話すつもりだ。」
「そうか、それなら俺は、別に・・・」
「そ、それはもしかして、ただのバルカの迷子ではなくて・・・?」
マインの言葉に一同が静まり返る。
「そこまでにしてくれ、今のところは。俺はここで言う、バルカの迷子ってのは本当の事だ。が、ここでは漂流者で記憶喪失ってことにしておいてくれ。」
「は、はい。」
「な、な、な、なんか、暗部とかバルカの迷子とか、俺が聞いちゃいけないことがいっぱいなんじゃ? そ、それより今日は俺の武器探しの時間って言ってただろっ?早く喰い終えて北の武器屋に行こうぜっ!」
「はははっ」
「ははっ確かにな。お前にとっての一番をお預け状態だったからな。」
「その言い方はどうかと思うけど、でもその通りだぞ。ちゃんと待ったんだからなっ」
「それは悪かった。が、ダン、話は逸れたが聞きたがってた明日の要の部分だ。」
「お、あ、あぁ。」
「俺は明日の撤退時の殿が気になっている。」
「殿だって、それはなんでだ?」
「明日、順当に行けば殿は玄武になる予定だ。俺はその為もあって守りの硬いパーティーをと勧めたからな。」
「ほう、それで?」
「それで、だ。順当でなかった場合、例えばジゼルも言ってたように、保険パーティーの合流前に殲滅出来たりすると、殿は陽動パーティーに変わる。そうなった時に守りの強い護衛が欲しかったんだ。」
「あぁ、それでダルクか俺ね。良く見てるなひゅうご。流石だよ。」
「いや、お前にそう言われると照れるな。」
「いやいや、本当だよ。この街で殿をやらせたら、俺とダルクが1,2を争うと思うぜ。」
「本当か?そこまでなのか?」
「あぁ、そこには自信がある。まぁ、こればっかりはどっちが上かなんて図りようもないがな。」
「なぁ、ダン。違ってたら悪いが、お前達二人は何か関係があるのか?」
「よーく分かったな!ひゅうご。凄いな。察しの通り俺達は兄弟だ。」
「やはりか。」
「えぇっ?ダンさんとあのごっついおじさんがか?」
「ハーデンはダンのことさん付けなんだな。」
「そこかよっ!しかし、ひゅうご、どこで分かったんだ?」
「いや、似てると思って。」
「初めて言われたぞ。全く似てないだろう?」
「いや、悪い。見た目じゃなくて雰囲気というか、纏っている”気”というか、がだ。」
「お、おう。そうなのか。ひゅうごには何かが見えるんだろうな。凄いな。」
「おいおい、それより早く向かおうぜ!」
「そうだったな。皆食べ終わった様だし向かうとするか。」
「おうっ」
「だな。」
「・・・」
俺は先程からマインが考え事をしているなと思ってはいるが、敢えて気付かぬふりで進める。
「歩きながらでいいんだが、ダン。聞いていいか?」
「お?何のことだ?」
「大砦の門を塞ぐ石壁についてだ。通常はその壁がどうなってるのかと、どうやって塞ぐ構造になってるか等、知りたいんだ。」
「あぁ、そこねぇ。気になるよな。」
「あぁ、非常にな。」
「あれはな、・・・・。」
ダンは知る限り説明してくれた。魔法のあるこの世界の理をまだ良く知らない俺には、完全には理解出来なかったが、物理法則と魔法の両方で成り立っている事は理解できた。
東門の2重の門とも同じ構造だと。
更に、もう一度石壁を上部に設置するのがかなり大変だという事も聞いた。
土属性魔法使いが全員と、力自慢の冒険者が数十人で左右から丈夫なロープで引っ張り上げて、30cm位ずつ上げては間に石畳を挟みを繰り返し、5m上空まで引き上げたら、最後に複数の魔法使いによる秘儀にて設置するとの事。
これはまた見学したいと思った。
手伝うし。
「なあ、その、石壁を引き上げる作業、もし俺に手が空いてたら、手伝うぞ。ていうか、見てみたいから手伝わせてくれ。」
「お?そうか?人手はいくらいても足りないからな。それは歓迎だぞ!ただ、秘匿作業の部分は俺ですら排除されるんだ。手伝ったから見せて!なんて権利は絶対発生しないからな!」
「ははっ、そうか。それでもだ。その時は頼む。」
「あぁ、そこを踏まえて貰える奴なら、手伝いは幾らでも拒まずだ。お願いするよ。」
「そうしてくれ。」
「お前達も道連れだぞっ」
「え?あっ?なんでそうなるんだっ?っていうか、俺の剣の話はどうしたっ!」
「そうだな。ダン。先程の剣は何故依頼主の貴族さんは買わなかったんだ?」
「あ、あぁ、それは、だな。依頼主はこの街の男爵でな、息子の10歳の誕生日のプレゼントとして作らせたんだが、誕生日を1週間に控えたある日、領都で剣術稽古を受けた帰り道、西の草原で盗賊らしき者に襲われ、馬車の一行、息子とその母、後執事や護衛が数名いたが全滅したんだ。」
「全滅!?」
3人の声が揃った。
「あぁ、ちょうど10日前になる。我々衛兵に帰宅予定日に帰らない馬車を、男爵から捜索依頼を受け探し始めたが、見付けるのに3日を要した。3日目にやっと宿場町の食堂の従業員が、朝食中に西の草原にプレインバッファローを狩って帰りたいと話してたと聞き、町から西の草原から南に捜索していったところ、襲撃跡を発見したって経緯だ。」
「なんで草原なんだよぉ。盗賊って森で襲うのが常套って聞いたぞ?」
「あぁ、俺達もそこが気になってな。そんな見晴らしの良い場所で襲う筈はないし、食堂で聞いてた奴が追って襲ったというのも理由がなきゃ難しい。というのは只単に息子の稽古の往復だ。金品や食料を運んでたっていうのもない。じゃあ、恨みの線で調べる事に切り替え、第一夫人の説が浮上し聞き込んだんだ。その無くなった息子と母というのは男爵の第二夫人で、第一夫人には娘が二人しか生まれず、よくある後継者問題かと。その線で捜査を進めたが、それも無かったんだ。」
「どうしてだ?」
「あぁ、夫人間はとても仲が良かったと、男爵も含め、ほぼ全員が同じ発言だったんだ。少々お歳の第一夫人は第二夫人に立派な後継者を生んでくれたと感謝していると。」
「ほぉ、そういう良い関係の所もあるんだな。」
「あぁ、そうだ。遅くに生まれた息子が、魔法剣の素養が現れたと、男爵家としては念願の陞爵の日が近いと、それは一家総出で息子の教育に力を入れていたと。そこには誰も妬みや恨みを持つ者はいないと。」
「な、なんか曰く付きって怖いなぁ。」
「剣に罪はないぞ。それを気にする者は多いとは思うが、モノを見て判断すればいい。しかもその事件、俺はそのバッファローを狩りに出たゴブリン隊と遭遇したんだと思うぞ。」
「な、何っ!?」
「どうしてですか?」
「あぁ、詳しい位置関係は分からないが、十中八九当たっていると思う。500に迫る数のモノ達を喰わせていくのに、森の中だけだとは到底考えられない。ホブゴブリン隊でならバッファロー位他愛もないだろう。」
「た、確かに、、、。」
「もし剣の出来が良かったら、買ってゴブリンを倒しまくって、そいつを弔ってやればいい。」
「あー確かにぃ。」
「ここだ。」
丁度北の武器屋に着いた。
「おーい、おやじぃっ!」
「あぁぁん?ダンかぁっ!?こんな時間に矢が仕上がるかってんだ!邪魔っ邪魔っ!明朝取りに来いっ!」
「違うんだ、おやじっ!昨日言ってた剣を見たいという奴等を連れて来たんだ。」
「あぁっ?男爵に頼まれたヤツの事か?」
「そうっ、それ、それ。」
「本当かっ!?こ、こちらの若い旦那様がご購入ですかな?」
「おやじ、違うぞ!こちらは親子じゃなくてパーティーだ。それで、購入検討するのはこの若い剣士だ。」
「おぉおお?この坊主がぁ?俺が打った魔剣だぞぉ、金貨が1枚、2枚は必要だぞ!払えんのかっ!?」
「えぇぇぇぇっ、き、金貨ぁ?」
「いや、使うのはこいつだが、払うのは俺だ。俺が見て良いと思えるモノなら、金貨1枚でも2枚でも払うつもりだ。先にモノを見せては貰えぬか?」
「あ、あぁ、旦那が払って貰えるってか。なら問題ねえ、よぉーっく見てくれ!自慢の一品だ!」
店主は俺に特注品の剣を渡す。
受け取るとそれは、小さいロングソードといえば一番合うか。
ショートソードとも違って、形はロングソードだが、形をそのまま縮小したような剣、子供用にと考えられて作られたのは明らかだ。
「ハーデン先に見るか?」
「いやっ、先に師匠が見てくれ!」
「あぁ、それなら。」
そう言って皆の前で抜いてみる。
「おぉっ」
何人かが声を合わせて驚く。
「ほぉ、これは魔力か。」
「おぉっ、旦那には解るみてぇだな。そうだ、これには魔力を込めてある。」
しかし、男爵の息子とやらは、相当に剣技に自身があったようだ。
この輝き、10歳の子供に持たせるとは危なっかしく感じる。
だが親がそれを送るという事は、危なくない位腕が立つという事だ。
「ハーデンにはまだ過ぎた物ではあるなぁ。」
「そぉかぁ・・・」
「が、今のお前の成長速度なら、直ぐに使いこなせるようになる。それよりも、いつまで使えるかの方が問題かな。ハーデン、今お前いくつだ?」
「12だ。秋に13になる。」
「13か。持って3年かな。」
「ええええっ!?こんな代物を3年しか使えねえってか?」
「なにぃっ!俺の打った逸品が、そんなちゃちな訳ねえだろっ!」
「いや、店主、そういう訳じゃないんだ。ハーデンは今物凄い成長期でな、子供用では物足りなくなるってだけなんだ。」
「へへっ、そういうことかよっ」
「あぁ、そうなのか?師匠?」
「あぁ、そうだ。しかしこれはとても良い品だ。大きさが物足りなくなったからと手放す必要は全くないぞ。今回みたいに折れてしまった時に、次に良い物を仕上げて貰ってる間に使うと良い。」
「えぁっ!?俺が剣をオーダーメイド?」
「まだ気が早いがな。だが、この剣の次の次か、その次位にはそうしてると思うぞ。」
「おおおぉぉぉっ、俺が剣をオーダーメイドする時が来るのかぁ」
「今朝海にて後で話すと言った内容だ。お前はこれから成長に合わせ、両手大剣使いになると思う。まぁ、お前が気に入る必要もあるがな。このダンや、翼のギデルの様にな。」
「おおおおおおおおおぉっ!マジかっ?真面目にかっ?」
「至って真面目にだ。気に入った様なら今晩大剣の木刀を作ってやる。」
「気に入ったどころじゃねえぞぉ、憧れだったんだ。この街に来て初めてギデルさんを見てから。俺も大剣使いになれるとは。今晩の修行も頑張るぞぉ!」
「ひゅうご?何故俺が大剣使いと解ったんだ?見せた事無い筈だが。」
「ん?あ、あぁ、それはな、何となくだ。」
「へっ?そんな訳ないだろ?お前は俺が大剣使いだと言い切ってたじゃないか。」
「あぁ、それな。んー、どう説明しても気味悪がられそうでなぁ。」
「あーー、気になるから、また今度でもいいから教えてくれ。」
「あぁ、分かった。それで店主。この剣を気に入った。幾らなら売ってくれるんだ?」
「金貨1枚だ。」
「はぁ?おやじっ!俺のダチからぼったくってんじゃねえぞぉ、あんた男爵から前金貰ってると言ってただろうが。その分は引けよ。」
「いいや、それを含めてだ。前金なんて材料費だけで飛んでってるわ。芯に使ってる魔鋼に、領都の有名な魔法使いに魔力を込めて貰ってるんだ。使用者様が風属性の所、土属性も覚えそうだと聞いたもんでよ。訳話して特別に属性を抜いた魔力を込めて貰ったってのよ。槌叩く前に金貨1枚は超えちまってんだ。その位は貰わないと割りに合わねえ。昨日お前に相談したように、本当に店畳むことになっちまう。」
「店主よ、そこまで話してくれたのなら、男爵さんから幾らで頼まれ、幾ら前金を貰ってたか教えて貰えないか。本当に気に入ったから、適正な価格で買いたいんだ。それと店を畳むってのは?」
「男爵の仕事で原価を使い切っちまった後で、息子様の奇怪な事件だろ?その後に予定してた貴族様の仕事が2件続けてキャンセルになっちまったのさ。縁起が悪いってな。」
「それは気の毒な話だな。」
「な、なぁ、それで金額を話して適正だと分かってくれたら本当に買ってくれるんだよな?」
「あぁ、そこに二言はないぞ。」
「じゃあ全部話す。男爵からは金貨2枚での依頼だった。ちょっと今回のを作るには足りねえが、これが完成したら俺の株も上がろうもんだと引き受けちまったんだよ。面白そうだったしな。それにその後も2件の特注の依頼もあったしな。」
「ほぅ、確かにそうなるなぁ。」
「そんで、前金は大銀貨50枚、残りの金貨1枚と大銀貨50枚は剣と引き換えだった。」
「そこに領都の魔法使いに大銀貨50枚以上を払って首が回らなくなったってとこか。」
「魔法使いには大銀貨50枚だ。その魔力込めの為だけに領都に出向いたのと、この仕事の依頼先を男爵も存じ上げてなかったからよ。数日滞在して領都の工房を聞いて回ったんだ。手間賃も取られたしな。」
「それは難儀だったな。じゃあ、俺がこの剣を金貨1枚と大銀貨80枚で買うってのはどうだ?」
「おいひゅうご!なんで上がってんだよぉ!」
「おいおい、旦那さん、どういうことだ?それは?」
「店主にはそこまで利益は残らないぞ、利益よりも汚名を晴らした方が助かるのではと思ったまでだ。」
「どういうことだい、その汚名を晴らせるってのは?聞かせろよぉ。」
「俺の考えはこうだ。お前の作った剣は紛れもなく業物だ。大業物かもしれない程だ。しかし子供用では大業物にはおろか、業物にもなれん。」
「それはそうだな。」
「だが、モノはそのレベルで良い。金貨2枚でも安い程。だが、俺がオーダーした訳ではない。その分はきっちり引かせて貰う。1割の大銀貨20枚分だ。」
「おいおい、ひゅうご、おやじは男爵から前金50貰ってんだぞ。大儲けじゃないか。」
「まあダン、話は最後まで聞け。店主は俺の払った金で、男爵に前金の返金と、息子への手向花を贈るといい。」
「何で返金!?断ったのはあっちだぞ。返す必要はない。こんなに苦しい目にあってんだってのによ。」
「男爵も不可抗力だ。買いたくても買えないさ。一番辛いのは男爵一家だからな。そこで渡せなかった剣だけ家に合ってみろ、見る度に辛い事を思い出される。」
「あぁ、男爵様の考えには届かなかったな。」
「俺も先程同じ様な事を言われたばかりだ。それで考えたんだ。」
「あぁ、さっきのあれかぁ」
「店主は、自身の傑作が言い値で買って貰えたって、俺の腕を買って貰ったって言うんだ。そこで、男爵に前金を返すことが出来ると言い、男爵の身になって花も贈る。そんな事する奴なんていないから噂になる。でっかい心と確かな腕だと。どうだ?」
「おう、おうよっ、見える、見えるぞ、俺への疑いが晴れる姿が、俺の名誉が高まる姿が。」
「だがよぉ、ひゅうご、おやじは金貨1枚と言ったのを大銀80も上乗せしてんだぜ。そりゃハーデンも困るってもんだぞ。」
「いや、これは俺が買ってハーデンに使って貰うだけだ。俺はこの剣に金貨2枚以上の価値を感じている。だが、俺が前金も含めて買う事で、皆が助かるというなら20枚だけ手数料みたいなもんだ。それで十分助かってる。そして、残り30の中から、ダンに紹介料として酒か飯でも奢ってやってくれ。それでwin、win、win、win、win、だ!」
「うぃんうぅ?」
「win一つで一人の喜びを指している。今回はハーデン、店主、男爵、ダン、俺の5人だ。だからwin、win、win、win、win。」
「おぉ、うぃんうぃんうぃんうぃんうぃん、、今何回言った?」
「はははっ」
「がははははっ」
「あはははっ」
「ふふふっ」
5人が5様で笑い合う。
「ここでこの剣を取り、明日の決戦の勝利をこの剣に誓う!この悲しみの連鎖をここで断ち切るとな!」
「おぅっ!」
皆一斉に掛け声を上げる。




