第十三章
マインと梨花亭に向かう。
「色々連れまわして悪かったな。」
「いいえ、色々尽くしてくださったこと嬉しく思っております。」
「いや、俺の失態だ。許してくれ。それにマインの許可なしに明後日の作戦に巻き込んだことも申し訳なく思っている。しかし、今度は絶対に危ない目には合わせない。俺を信じて欲しい。」
「今朝の事は私が力不足だっただけです。それにこの様に無事ではないですか。信じてますよひゅうごさんのこと。」
「そう言ってくれて助かる。それと服装もこんなに傷んで乱れてるのにそのまま連れ回して悪かった。」
「それは仕方のない事ですよ。一刻を争う事態だったんですもの。」
そう話していると梨花亭に着く。
「マインちゃん!もう歩いて平気なのか?」
「アギレンさん。ご心配をお掛け致しました。お陰様でもう平気です。」
「ひゅうごが血相を変えて走ってきたのはついさっきだったんだがなぁ、それでもう平気ってまたそれも驚かされるなぁ。」
「ふふふっ愛情ですよ。アギレンさん。」
「おっ!そうかそうか!それならそうなのかもなぁ。」
「やめてくれっ!マインもちゃかすな。それより腹が減った。昼も食べてないからな。ハーデンはどうだ?昼は摂ってたか?」
「いや、降りてきてないぞ。俺が呼んでくるから席に付いてろ。」
「あぁ、助かる。」
すると2階からバタバタと降りてくる音がする。
「師匠!ねーちゃん!もう無事なのか!?」
「ハーデン心配掛けましたね。私はもう平気よ。」
「ハーデン、心配掛けたな。色々とあってな、お前の事を気に掛けてやれなかった。昼食も摂ってないんだって?一緒に食事を摂りながらここまでの経緯を説明しよう。」
「無事だってんならいいんだ。話は聞きたいけどな。」
俺は食事を摂りながら、ハーデンと別れた後の事をかいつまんで説明した。
そして明後日の決行に向けて、今晩には訓練、明日の午前中は魔物狩り、明日の午後も訓練を行う事と、ハーデンには自主練になる時間が多くある事を説明する。
「アギレン、お願いがあるんだが。」
「おうっ、どうした?ひゅうご。」
「今日はバタバタとして食事の時間をずらしてしまったが、夜は夜で訓練を行うから腹が減ると思う。閉店間際に軽食を3人分用意して欲しいんだ。」
「そんなのお安い御用だってんだ。サンドとかでいいか?」
「それがいい。助かる。それと、これ位の何か瓶か何かが余ってたら譲ってほしいのだが。」
「あぁ、それなら調味料が入ってた瓶が幾つも余ってる。何かに使えないか取っておいてたんだ。いくらでもあるぞ持っていけ。」
「助かる。それなら先ず2本だけあると助かる。可能なら4本。」
「ほいっこれで大丈夫か?」
「あぁ、十分だ。助かる。」
「ハーデン、食後にお風呂にするから用意しておいてくれないか。今日からは石鹸に洗髪剤も使う予定だぞ。」
「師匠が言ってたやつか。楽しみだな!」
「その間マインには俺に付き合ってくれ。」
「はい。」
ハーデンは2階に、俺とマインは隣に向かった。
「マギーさん、マインにもう2,3着見繕って貰えないか。折角見繕って貰ったのをこんなふうにしてしまった。また俺持ちだ。」
「え?ちゃんと自分で買います。」
「いや、贈らせてくれ。マギーさん、それでは頼む。」
「マイン、終わったらお風呂の準備だけしたら部屋で瞑想しててくれるか。石鹸と洗髪剤の使い方を説明する。それと今晩の魔法訓練は風呂場で行う。覚悟しておけよ。」
「はいっ。」
「ではお願いする。俺はハーデンを見てくる。」
俺は2階の自分の部屋に着く、
「ハーデン、風呂の準備は出来たか?」
「おう!ばっちりだぞ!」
「あぁ、助かる。ちょっと待っててくれ、石鹸と洗髪剤を作る。」
俺は今朝取ってきたムクロジ(自称)を水採取で乾燥させて影槍で擦り潰し水採取の水と混ぜて一つの瓶には一杯に、もう一つの瓶には半分だけ入れる。
そしてその中にツバキ(自称)の種からツバキ油を絞って入れ、精油草(自称)を擦り潰してでた精油も入れる。
最後に少し塩を入れて洗髪剤を完成させる。
その二つに瓶を持って二人で風呂に入る。
「ハーデン、これは頭に、これは体に使うんだ。俺が教えたやり方をどこまで覚えているかやってみてくれ。その場で忘れてるのは教えてくから。」
「お、おうよ。」
そう言って洗髪と洗体をしていくハーデンに、石鹸と洗髪剤の使い方を教えていく、それと同時に自分の頭と体も洗っていく。
「良く覚えているじゃないか。最後は湯船に浸かって、自分が気持ち良いと思えるだけ入ったら、好きに出ていいぞ。」
「おうよ。」
暫くして、顔をを赤くするハーデンに向かって
「ハーデン、無理はするなよ。この後の訓練に支障が出るぞ。いいのか成長出来なくても?」
「いや、もう出る。丁度今がいい感じだったんだ。」
「ははっ。」
俺が風呂を出るとハーデンは自分の簡易ベッドで横になっていた。
やっぱりのぼせたんだ。
「ほら見ろ、差し支えるだろ。じゃあ瞑想でもしてろ。そして落ち着いたらここにファイアーボールを叩き込め。」
そう言って俺はまたワイルドベアの特大ファイアーボールが入った黒穴引を出す。
「マインの方を見てくるからな。お前は寝落ちしてろよ。今日は夜中一度起こしてもう一度魔力切れするからな。1日2回魔力切れすればそれだけ早く魔力量を増やせるからな。」
「それはいいっ!頼むな師匠!」
「あぁ。」
そう言って今度はマインの部屋に行く。
「マイン、服は気に入ってくれたか?」
「はい。いつもありがとうございます。次々と送ってくださり嬉しく思います。」
「気に入ってくれたのならそれでいい。それじゃあ風呂の説明をするが、準備をしたらこのタオルを体に巻き付けてくれ、そうしたら呼んでもらえるか。」
「はい。」
俺は風呂とは反対の方角を向いて瞑想をする。と
「用意出来ました。」
「じゃあ、入るからな。」
俺はそう言って瓶を二つ持って上着は脱ぎ、足の裾をまくって中に入っていく。
「じゃあ先ずは湯加減を確認してくれ、肌に当てても熱すぎず温すぎない位ならいい。」
「大丈夫です。」
「じゃあ、少しお湯を体に掛け、今日はタオルの上からでいいぞ。」
「はい。」
「そうしたら、こちらの石鹸を手に取って、普段は全身に使うが、今日は両腕と足の先だけでいい。これで汗や外の汚れが落とせるんだ。」
「こうでしょうか。」
「それでいい。そうしたらそれをまたお湯で流すんだ。流し終えたら次は髪だが、髪にはこちらを使う。これは桶に湯を溜めて、そこにこの液体を少し混ぜる。」
「わぁ、良い匂いがしますね。」
「そうなんだ。洗髪後の髪からはこの匂いがして気持ちいいぞ。そして、一人の時はこういう風にかがんで洗ったり、桶をここに置いて洗ったりしてもいいぞ。今日は初めてだから俺が洗うから、ここで湯船に入ってくれ。そして頭をこちらに寝かせてくれ。」
「かしこまりました。」
「そうそう。それでいい。じゃあ洗うぞ。」
「はい。」
「気持ちいいだろ?」
「はい。自分の顔の周りがほくほくするのと、良い匂いに包まれる中、心地よい刺激が髪を通して得られるのと、頭皮をやさしく揉んでもらえるのが、何か懐かしい感覚になります。」
「あぁ、俺は子供の頃親に頭を撫でて貰ってるような感覚になるな。」
するとその言葉に反応したマインは何かに思い耽ったかと思ったら、目から涙がすぅーっと流れるのを見る。
俺はその涙を見て見ぬふりをして、
「それじゃあ流していくぞ。洗髪剤入りの桶を一度流し、洗髪剤の無いお湯で髪に着いた洗髪剤を落とすんだ。付きすぎててもいけないからな。」
俺はそう言って何度もマインの髪をすすいでいく。
「これで一通りだ。どうだ?気持ちよかっただろ?」
俺はマインの髪を両手で絞りながら聞く。
「はい。とっても。こんな気持ち初めてです。」
「そこまで大層なことじゃない。これからは毎日でも洗えるんだから。それと一回出て魔法訓練に移ってもいいか?」
「は、はい。」
「先ず最初に言っておく。お風呂での訓練は、一人では絶対にやらないでくれ。特に湯船に入って魔力切れをしたら、それだけで死に至る。この風呂が一般的な国では、毎年何人も風呂で溺死してるんだ。原因は色々だが、一番多いのは寝てしまっての溺死だ。本当に恐ろしいんだ。」
「はい。」
と、キリっと唇をかむマイン。
「まあ、これだけ気持ちいいから気が緩むんだろうけどな。」
「ふふふっ。」
「お湯から上がって暫くそのままにしてると、体に付着したお湯がどんどん水に変わって、急に寒くなるんだ。それを湯冷めと呼ぶんだが、少しでも寒いと思ったら言ってくれ。直ぐにお湯に浸かるといい。」
「はい。」
「それで、この魔法の訓練をお風呂でする理由が、これを覚えるのに最適だからだ。今から俺がやるから見て欲しい。」
「はい。」
「水採取!」
そういうと俺の手にバケツ一杯分くらいの水が現れ、浴槽に流し入れる。
「分かるか?これは闇の魔粒子によって、空気中にある水を集めただけの魔法なんだ。この部屋にある白い湯気は水が空気中に馴染みきれず白く発色しているんだ。普段の空気の中にも十分水が含まれてるんだが、目で見るには風呂が最適なんだ。で、ここで水採取を出来る様にして、次からは外で普通の空気からやる。これを繰り返すとMPドレインとHPドレインの精度と威力と速度が飛躍的に上がるんだ。どうだ?出来そうか?」
「やってみます。」
かなり無茶な要望をしている自覚はある。
だがマインの成長に繋がる訓練には妥協するつもりはない。
勿論俺自身が今後二度と今回の様な危険に合わせる事はさせないつもりだ。
だが、マイン自身が成長して自衛出来る手段はいくらでも作っておく。
それに、打算ではあるが、マインの闇魔法には俺の想像以上に繋がりが深いようで、俺が求める答えを持っていることが多い。
それだけでも俺からすると一緒に魔法を探求するだけで、俺の成長の光明を見出せるというものだ。
そこで一番の懸念は,、当の本人が何故か劣等感の塊だということだ。
この数日見ただけでも、この才能の塊なのに勿体ない。
俺がマインをどうにか開花させたいと思うのは仕方がないことだと思う。
と、いうことで、マインの魔法の訓練は色々なアプローチを考えている訳で、今回の水採取がどうなったかというと、
「水採取!」
いきなり俺の行う闇魔粒子を広げるでもなく、バスケットボール位の水の塊が彼女の差し出す右の掌の先に現れ、浴槽に落ちる。
「これなんだよなぁ。なんだろぉ、マインに魔法で勝てる気がしないなぁ。」
「ど、ど、ど、ど、どういうことでしょうか?」
「あ、あぁ、忘れてくれ。それより、湯冷めする前にもう一度湯船に浸かってくれ。それで頭がぼぉっとする前には出てくれ。続きは中庭でする。先に出てるからな。ハーデンの様子も見てくる。絶対に一人でここで魔法を使うなよ。」
「かしこまりました。禁じられたことはしないですよ。安心ください。」
「あぁ、それならいいんだ。じゃあまた後で。」
「はい。」
俺は自分の部屋にいくと、簡易ベッドの上で崩れ寝ているハーデンを見る。
俺は俺が作った黒穴引をみると、昨日のファイアーボールより少し大きなファイアーボールが二つ入っている事を確認し、黒穴引を閉じる。
それでハーデンの寝落ち崩れたままの姿を直し、頃合いを見てマインの部屋を訪れる。
「マイン?もう上がったか?」
「はいっ!もう大丈夫です。」
「じゃあ、中庭にいいか?アギレンからは許可を貰ってる。」
「はい。」
二人で中庭に向かう。
「ここで先程の水採取をやって欲しい。風呂場と違って空気中にいる水を視認出来ないが、先程も言ったようにこの空気中にはかなり水分が含まれてる。それを集めるんだ。先に俺がやって見せるな。」
「はい。」
「水採取!」
俺は風呂場での水採取より3倍近く大きな闇魔粒子を広げ、先程と同じ位のバケツ一杯位の水を集め、その場で流す。
俺の場合は闇魔粒子を広げる工程が必要だが、マインには不要だった。
「流石に速いな。これを続けて練習すれば、MPドレインの連続速度が俺のを数倍早く出来る筈だ。明後日の斥候部隊リーダーへのMPドレインがそのレベルで出来たなら、作戦の成功率が大幅に上がる。俺も一緒に行うから気負う必要は無いが、出来る様になったら俺が非常に助かる。そんな感じで気を張りすぎない位で頑張って欲しい。」
「頑張ります。」
マインは集中する。そして
「水採取っ!」
するとソフトボール位の水の塊が現れ落ちる。
「続けられるかっ!?」
「はいっ!水採取!」
先程のより一回り大きい水の塊が出来て落ちる。
「そのまま続けてくれっ、だが魔力切れする前には止めてくれ!」
「はい!水採取!」
と、次々とマインの行う水採取は、相変わらず闇魔粒子を広げなくても完成し、連続できる程早い。
しかも行う度に水の塊が大きくなっていく。
「そこまでっ!」
俺はマインの自身の魔力切れの感覚より手前で止めた。
「悪い。いったんこの位にして欲しい。俺の想像を遥かに超えてきてるからだ。ここでハーデンも連れて祠に行って魔力回復を一度して、もう一度訓練に臨みたいがマインはそれでいいか?」
「はい。お任せします。」
「よし、それじゃあ俺の部屋に行こう。そこで祠までの黒穴を作る。」
「こっけつ?」
「あぁ、以前瞬間移動に使った空間収納の黒い結界の事だ。俺がそう呼んでるというだけだよ。」
「そうなんですね。理解しました。」
俺達は部屋に着き、黒穴引と出を作り、ハーデンを抱えて祠に行く。
「ヒョウ、戻ったよ。また祠の力を借りるな。」
「くぅうん。」
「ヒョウ様、またお邪魔致します。」
「ヒョウ様?」
「はい。黒魔虎様とお呼びしておりましたら、そちらの方が良いと仰るので。」
「ヒョウが?自分から?」
「はい。そうです。」
何か上手く噛み合わないと思いながらも俺は続ける。
「ヒョウ、このハーデンにはまだ祠の事を知らせたくない。起きそうになったら直ぐに戻るから挨拶もなく突然出ていくから先に言っておくぞ。」
「くぅうん。」
「ひゅうごさんはヒョウ様の鳴き声だけで会話出来るのですね。流石です。」
「そ、そうか?ヒョウとは何か最初から意志の疎通が出来てたんだよな。これってそんなにおかしい事か?」
「そんなこと無いと思います。ひゅうごさんとヒョウ様の事ですから。」
「そ、そうか。なら良かった。マインもこの後まだ訓練続けるから、なるべく瞑想でもして回復に努めてくれ。」
「はい。」
そう言って、俺はハーデンの様子を見ながらヒョウに尋ねる。
「なぁヒョウ、食材は足りてるか?」
「くぅうん。」
そう言って俺は奥の収納を覗き込む。
「あぁでも心許ないな。明日、魔物を1、2匹捕獲して、明後日の作戦で使ったら解体して補充しておくな。」
「くぅうん。」
「減りが少ないと思うが、自分でも狩りに行ってるのか?」
「くぅうん。」
「そうか、そうか。お前も体を動かした方がいいもんな。」
「くぅうん。」
そうこう話してると、ハーデンが寝返りを打った。もうすぐ意識が戻りそうだ。
「マイン帰る準備を、ヒョウまた行ってくる。」
と、小さく答え、ハーデンを抱え黒穴にマインと共に入って行く。
「う、うぅん。」
とハーデンが簡易ベッドの上で目を覚ます。
「起きたか?ハーデン。回復してる様だな。ファイアーボールが少し大きくなってたのと、2発打てるようになったんだな。凄いな。たった1日で魔力量が2倍以上になったってことだ。」
「そ、そうなのか、俺はてっきりまだ実用的でないと嘆いてたんだけど。」
「何言ってるんだ。お前の魔法はまだ覚えたてだぞ。赤子が次の日には立って走ったなんてことがある訳ないだろ?」
「そ、そういうものか。」
「そうだ。地道な練習が地力を上げてくんだ。俺もそうだったと以前に言ったの覚えてないのか?それに、今晩もう一度練習して魔力切れを体験すれば、明日には今日以上の魔力量になってるぞ。お前の成長はその位早い。」
「そうなのか!俺頑張るっ!」
「ははっ、その意気だ。じゃあ、アギレンさんから夜食を受け取ってくる。それまで瞑想して魔力を整えててくれ。」
「おうっ。」
「はい。」
俺は下に降り、アギレンさんから3人分のサンドウィッチを受け取り、俺の部屋で3人で食べながら明日の予定について話す。
「明日は明後日の作戦の為に門が3の鐘で閉まる。2の鐘でゴブリンメイジ2匹とワイルドボアを出来れば2体捕まえてくる。ゴブリンメイジ2匹を見付けるまで、ゴブリン5匹のグループを殲滅しながら進める。ま、先に索敵で見つけておくから最短で出来る筈だがな。」
「おいおい師匠よぉ、たった鐘1つ分でそんなに捕まえられるのか?」
「いや、余裕だと思うぞ。移動は俺の影で運ぶからな。」
「あぁ!あれにまた乗るのかぁ!?」
「時間がないからな。酔いそうなら目を瞑ってろな。」
「あーい。」
「ふふふっ。」
「それじゃあ本日最後の訓練に入るぞ。」
「おうっ。」
「はいっ。」
俺は先程と同じようにファイアーボールの入った黒穴引を作る。
「ハーデンいつもと同じ様にここにファイアーボールを撃ってもらうが、先に瞑想だ。瞑想の精神状態のままここに向かって撃てっ!」
「おうよっ!」
「マインは瞑想しながら身隠しを発動してみてくれ、そのまま身隠しを大きくするイメージだ。」
「はい。」
二人が瞑想に入る。そして少し先にハーデンが唱える。
「ファイアーボールっ!」
先程よりも少し大きい。
「ファイアーボールっ!」
続けて3つのファイアーボールが同じ大きさで撃てたあと、最後に1つ少し小さめのファイアーボールを撃ってハーデンが寝落ちした。
「ほほぉ、たった1回の寝落ちで更にここまで成長するとは。」
黒穴引を閉じ、マインを見ると、一人分だけ纏っていた身隠しが2倍位の大きさになっている。
一言いうだけでここまで出来るんだよなぁ。
これで明日は二人分は入れられそうだな。
「マイン、ここで一旦止めて、中庭で先程の訓練の続きにしたい。そこである程度やったら、寝落ちるまで今の訓練だ。凄い上達の速さだぞ。今晩でもう明日の訓練が必要ないかもだ。」
「そうですか。それなら良いのですが。では向かいましょう。」
二人で中庭に行き、水採取の精度をどんどん高める。
それで魔力切れになる前に止めて祠に移動して寝落ちるまで身隠しをする。
「ヒョウ、また帰ったぞ。今日もマインをここで頼む。マイン、祠の中での訓練には少し注意が必要だ。」
「どんな注意が必要でしょうか。」
「あぁ、ここで魔法を発動する時に、ここに満ちている魔力を借りようとすると、殆ど自身の魔力を使わない為訓練にはならない。」
「あぁ、それで奥にひゅうごさんの魔力が混ざったものがあるのですね。」
「えっ?あれを感じ取れるのか?」
「えぇ、ひゅうごさんの魔力ですから。」
とマインが少し照れるように顔を赤らめ下を向く。
俺にはそれがどういう意味を現わすのか分からないが、急ぐので先を進める。
「逆に祠にある認識阻害の魔力に干渉すると自身の魔力も一気に持っていかれる。そこで寝落ちしてほしい。」
「そうなんですね。分かりました。やってみます。」
「あぁ、俺は少し外に出て型稽古してから魔力操作の訓練して寝落ちするから。」
「はい。かしこまりました。」
「あぁ、先に寝落ちててくれ。」
マインは返事の代わりにくすっと笑顔を見せ、そのまま瞑想に入る。
俺は木刀を1本黒穴出から取り出し左手で持つと、外に出て、腰の黒虎徹を右手で抜く。
そこで自分に現在最高の重力負荷を掛ける。
また伸びて現在の最高が6倍のようだ。
「6倍かぁ、これは中々にきくなぁ。」
俺はその負荷の中で720通りの型を行いながら祠の前の庭(?)を回り始める、すると祠の中からマインの魔力が祠の認識阻害と重なるのが感じ取れる。
「これでもう少しでマインは寝落ちるな。」
そのまま回っていると祠から離れ、マインの魔力は感じられなくなる。
「ここで落ちたかな。」
そう思いながら庭を回りながら折り返し戻ってくると、またマインの魔力が祠の認識阻害と重なるのを感じる。
「えっ!?まだ魔力重ねられてるのかっ!?」
俺はあの魔力の引き込まれ方を思い出しながら、俺にはここまで耐える事はまず不可能だと思いながら、何が違ってここまで出来るのかを頭で考えながら型を続ける。
すると、またもう1周して戻った時に、またマインの魔力を感じる。
「ええっ!?まだ保ってるのかっ!?」
もう、俺の考えられる範疇にはないのであろうと、どうすればここまで保てるのかは考えない様にし、そのまま続ける。
すると、もう1周してもまだマインは保っていて、流石にこれはどうにかしてると思うのと、俺もそろそろ体が限界近いので祠に向かう。
「マイン!無事かっ!?」
「お待ちしておりました。」
とマインは一言残すと、俺の前で寝落ちた。
「え?」
「くぅうぅんっ、くぅうぅうぅんっ!」
「え?どういうこと?」
俺はヒョウが何かを考えるように促されたように感じ、先程祠の外に出る前のマインとの会話を思い出す。
「確か、先に寝落ちてて、の返事がなかったな。」
マインが返事をしなかったのが今回が初めてで印象に残っている。
「うぅん。じゃああの笑顔は、、、先に寝落ちませんよ。お待ちしております。っていう意味か?」
「くぅうんっ!」
「なんでお前は分かるんだよっ!まぁ、いいか、俺が戻るまで保ってみせるってか。俺はそう思っても出来ないがな。どんな精神力をしてるんだか。」
「くぅうぅぅん。」
「え?何が違うって?俺にもやれってか??」
「くぅうんっ!」
「はい、はい、出来るだけ長く保てるように努力してみるよ。」
俺はマインの体を楽な姿勢にし、その隣で胡坐をかき、瞑想して身隠しを広げ、祠の認識阻害と同調させる。
「くぅぅぅぅっ。」
今にも落ちそうだが、我慢。我慢。我慢。我慢。我慢。我慢。
俺はどれだけ保つことが出来たであろうか。
俺自身の感覚でいくと、先程の俺の2周位は保てたと思うが、大体こういう時の自身の感覚は多めにみるだろうから1周ちょっとといったところか。
それよりも、以前とは比べ物にならない程祠の認識阻害が理解出来るようになっている。
(こんな短期間にどうして?)
俺は心の奥でそう自分に問うた。
あ、身隠しで何かあったのかはたった一つだった。
マインの身隠しと同調したことだ。
(こんなことでもマインのお陰で成長できてる。感謝しかない。)
そう思った所で我慢の限界がきて、寝落ちるのだった。




