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第十章

 84日目、綺麗に清掃された部屋の、結構柔らかい、この世界に来て初めてのベッドの上で目覚める。


 とても気持ちの良い朝だ。今朝も全てのものに感謝の祈りを捧げる。


 俺はマインをギルドに迎えに行く。


 ギルド建物に着くと、宿舎のマインを呼んでもらう。

 その間に今あるクエスト依頼書を確認する。狩猟のクエストはやはりゴブリンか、近くのダンジョンのスモールアントの牙の採取だと。そこで、

 受付にいる女性に聞く、


 「ここの近くにあるというダンジョンというのは何だ?

 「街の東門前にあるダンジョンの事です。」


 「街中にダンジョンがあるのか?」

 「はい。この街の自慢なのです。古くはこのダンジョンがあることでここに街が出来たとも聞いております。」


 「そこにアントがいるのか?」

 「そうです。ダンジョンの1階から3階位までがスモールアント、その後ブラックアント、レッドアントと出現し、10階のボス部屋にはクイーンアントがいます。」


 「そうなのか。勉強になった。感謝する。」

 「いえいえ、他に何か質問がありましたら何なりと。」


 俺は10階のクイーンアントというのが気になった。

 「ま、まさかな。。。」


 そこに声を掛けてくる者がいる。

 「お、お前もダンジョンに行くのか?」


 昨日のソロ剣士ハーデンだ。


 「あぁ、ハーデンか。そのつもりだ。お前もか?」

 「ああ!俺はここのところ毎日ダンジョンでスモールアントを倒して、その金で生活してる!」「と、言ってもいつも1匹狩れるかどうかだけどな。」


 「そんなに強いのか?アントは?」

 「冒険者始めたばかりの俺にはな。かと言って南の森に出かけてゴブリンを見付けるには苦労する。だから直ぐに接敵できるダンジョンに行ってるんだ。」


 「そうか。それならダンジョンをレクチャーしてくれないか?食事を奢る。この後合流する魔法使いの魔法の修練をしたいんだ。分け前も二人で二等分だ。お前の訓練もする。アントごとき1匹どころか10匹以上は狩るぞ。どうだ?」


 「えっ?俺の訓練?10匹ってことは5匹分の取り分?いつもの数倍に!?」

 「そうだ。俺のパーティへの協力依頼だ。」


 「やるっ!やるやるっ!」

 「なら決まりだな。」


 そうしているとマインが降りてくる。

 「お、おはようございます。」

 「あぁ、おはよう。昨日の所で朝食にするぞ。今日はこのハーデンも一緒だ。3人でダンジョンに行くぞ。」


 「は、はい。」

 「おうっ。」

 俺はダンジョンスモールアントの依頼書を取り、て三人で梨花亭へ歩きだす。


 梨花亭の朝食を摂りながら二人に話す。

 「今日はマインの魔法訓練をする。その為にハーデンにも同行願った。」

 「は、はいっ。」

 「おうっ。」


 「ダンジョンに入って直ぐ、マインにはハーデンにHPドレインのバフを掛けて貰う。」

 「はいっ。」


 「その後直ぐにリバフを掛けて貰うが、無詠唱でだ。」

 「む、無詠唱っ!?」


 「あ、あぁっ?」

 二人とも口を開けて驚く。


 「ああ、無詠唱だ。」

 「この街、いやこの世界かな。魔法は詠唱が必要と思われているらしいが、俺の中では魔法は全て無詠唱だ。」


 そう言って、俺は操影を繰り出し、今食べていた食事を全て影で行った。影が食材を切り、口に運ぶ。それを見て二人は、

 「え、えぇぇぇっ?」

 「おっ、おぉぉぉぉっ!?」


 「まっ、これは内密に願いたいが、こんな事も出来る。」

 「す、凄い、ど、努力します。」

 「お、おぅ。」


 「まあ、この続きはダンジョンで説明するよ。俺は現れたアントを足止めするから、ハーデンは慌てず狩ってくれ。」

 「お、おぅ。」


  ハーデンが突然大声で言う。

 「そのダンジョンはな。世界でも珍しく上層に連なるダンジョンなんだ!」

 「ほ、ほう。」


 「そう。そのダンジョンは上層全てを突破すると、西の湖の畔に出られるそうなんだ。」 「え?へぇ。」


 「その畔には物凄い強い魔物が住みついていて、それらを守る様にそのダンジョンがあると言われているんだ。」

 「ま、まじかっ。」


 「ダンジョンにはアントから始まり、さまざまな爬虫類、昆虫類の魔物がおり、最後の部屋には神様の御使いである、でっかい蛇神様がおられるという噂だ。」

 「まじかっ。」


 「ここ数百年、その蛇神様を見た者すらいないという話だけどな!」

 「す、数百年っ!?」

 俺は溜まらず復唱してしまう。


 ハーデンは覚えていることを全部話し終えたのか、物凄いドヤ顔。


 その奥でマギーさんがこちらの会話の一部始終を聞いてたようで、何故かにやけている。

 俺はそこで察した、女将さんは全てを知っていたのだと。俺がその蛇神様を4度も倒していると。


 マギーさんは朝と夜の食堂の忙しい時間だけこちらの手伝いをしているようだった。

 それじゃあ二人とも食べ終わったならダンジョンに向かうか?

 「は、はいっ。」

 「おうっ。」


 マギーさんと店主のアギレンさんに見送られるなか、三人で東門に向かった。

 ダンジョン前に着くと、


 「おう、ひゅうご、今日はダンジョンか?」

 ダンが居た。どこの門に配置されるかは日によって違うらしい。


 「あぁ、この街のダンジョンを見学したくてな。」

 「ダンジョンを見学とは、、、そ、それで、今日は若人も連れてか?」

 「あぁ、こいつはハーデンといって、筋のある剣士だ。」

 「おぉっ、ひゅうごにそう言われるとはな。才能があるんだろうな!頑張れよ!」

 「は、はいっ。」


 何故か、俺はダンに認められているようだ。戦いすら見せたことがないのに。昨日の蛇肉か?きっとそうだ。俺のつてで蛇肉にあり付けたのが、俺の評価になってる?まあ、そこは置いておいて。


 「じゃあ、行ってくる。」

 「無理はさせるなよっ。」

 絶対俺の心配ではない。


 ダンジョンに入ると、先ずマインに俺は言う。

 「ここでハーデンにバフを掛けてくれ。HPドレインだ。ただ、その時に注意して欲しいのだが。」

 「は、はいっ。」


 「詠唱の言葉の意味を、言葉に発しながら頭でその意味を理解して欲しいんだ。その意味を深く、頭の中で。」

 「え、詠唱の言葉の意味?」


 「そうだ、言葉の意味だ。そしてもう一つ。バフが掛かるハーデンを目を開いてちゃんと見てくれ。そのバフが掛かる瞬間を。」

 「え?魔法を唱えるのに目を開ける?」


 「そうだ。目は開けたままだ。」

 俺は昨日のマインを見て知っている。

 詠唱の最中に目を閉じ、集中していたことを。


 「これは、とても大事なことなんだ。目を開けてても詠唱さえしっかりしていれば魔法は発動する。しかし、その後の魔法が発動した瞬間を知る事が最も大事なんだ。」

 「マインが魔法を発動し、ハーデンにそれが掛かる。その瞬間をだ。」


 「目に見えなくたっていい。ハーデンに魔法が掛かったと感じ取れれば。その瞬間を知ることが今回の一番の肝になる。俺を信じてくれ。」

 「分かりました。」


 そう言うとマインは静かに詠唱を始めた。

 「我は願う、闇の女神ネフィティスよ。その力、授け給え。この者に生命の糧を与えよ。HPドレイン」


 俺はハーデンに薄っすらと光が注がれたように見え、それ以上に魔力の流れが大きくハーデンに注がれるのを感じた。

 「感じたか?」

 「はいっ。」


 「なら上出来た。」

 そう言うと、次はハーデンに向かって、

 「ハーデン。この通路は左右に分かれてるが、右は行き止まり、右に1体、左に3体のアントがいる。左の3体の内1体がこちらに向かって来る。およそ30秒後に接敵だ。」

 「お、おぅっ!」


 「俺がその1体を足止めするから、いつもの様に倒してくれ。」

 「分かった!」


 左から現れたスモールアントに重力5倍の影縫いを掛ける。スモールアントといっても大型犬位の大きさの蟻だ。


 「うりゃぁぁぁぁっ!とぅっ、とぅっ!」

 と剣を振るうハーデン。

 全くの素人だ。

 アントの頭目掛けて剣を振るっている。

 それはアントの触角や目に向けてはいるのだろうが。


 「ハーデン。一旦待ってくれ。」

 俺はハーデンを制すると、右から向かってきたアントに構える。


 「ハーデン、見ててくれ。昆虫類の外殻は非常に硬い。が、筋は脆い。」


 そう言うと、向かってきたアントの突進を、右前方に躱しながら、振り向きざまアントの頭と胴との間の筋を一刀両断。これは師匠に教えて貰った型の4手目だ。


 「この動きを真似てくれ。最初はゆっくりでいいから。」

 そう促す。


 ハーデンは先程から対峙していたアントに向かい、俺の動きを模倣し、大きく右前方に右足を出し、その直後に左足をアントに向かって体重を乗せ、大きく剣を振りかぶった。


 「ざしゅっ」

 先程まで何度となく剣を振っていたアントは、簡単に一撃で絶命した。


 「こうかっ?」

 「そうだ。もう一匹50秒後にそこに来るから、そいつも同じように倒せ。」

 「了解!」


 そう言うと、その50秒を待てず先程の動きを2,3度真似て空を切って喜ぶ。

 「こうかっ?こうだなっ!よぉーっし!」


 俺は倒した2体のアントの牙を剥ぎ取りながら、ハーデンのその姿を喜ばしく眺める。

 そこで、目を開け、口をきつく結んで先程の詠唱を頭の中で何度も唱えているマインを見る。


 「マイン。詠唱の意味だけだ。詠唱の文言には意味はない。そして、最も大事なのは魔法が発動するイメージだ。」

 マインは口を開けずこちらを見る。


 「そう、イメージだ。先程ハーデンに掛った魔法。その時のイメージが一番大事なんだ。」


 そう言うと、ハーデンの前に新たなアントが現れ、俺が影縫いで足止めする。


 ハーデンは恐れも疑いもなく、先程の動きをゆっくりと模倣してアントを切り倒す。


 「そうだ!ハーデン。その動きだ。良く出来てるぞ。しかも無駄な動きをしないで相手のHPを削ると自分に帰ってくるのが分かるか?」

 「お、おうっ!」


 「そう!それはマインの魔法のお陰だ。マインの魔法があれば、お前が無駄な動きをしない限り、永遠と狩りが出来る様になる。凄いだろ?」

 「あぁっ!凄いっ!全然疲れないっす!100匹でも狩れるっす!」


 「マイン。お前の魔法は凄い。それを理解しろ。そして、あの魔法の掛ったハーデンをイメージして、言葉は発せず、もう一度バフを掛けろ。」

 「はいっ。」


 マインはまた、きつく口を結んで、

 「・・・・、・・・・・・・・。・・・、・・・・・・。・・・・・・・・・・・。」

 「HPドレイン!」

 マインの魔法が発動した。


 「おぉおぉっ!これ!さっきのより強い効果が感じられるぞっ!」

 ハーデンが喜ぶ。 

 「そうだ。これも無詠唱の効果だ。詠唱によって抑圧されていた効果が、自身が与えたい魔力に乗って現れたんだ。」


 「そ、そうなんですねっ!?」

 「そうだ。この次はMPドレインを掛けてやってくれ。」

 「MPドレインですか!?」


 「あぁ、本人も気付いていないが、ハーデンには魔法適性がある。余りにも魔力が無くて気付かれなかったんだろうが、お前のMPドレインで、魔物のMPを奪い取れれば、その片鱗が分かるはずだ。」

 「かしこまりました。」


 その、言葉遣いどうにか。。。

 「・・・・、・・・・・・・・。・・・、・・・・・・。・・・・・・・・・・・。」


 「ハーデン!また左から一匹!今度は少しさっきより動かせるぞ。対応しろっ!」

 「はいっ!」


 俺は重力3倍で影縫いを行う。するとマインが、

 「MPドレイン!」

 「おおおおおおおっ!なんだっこれっ!?」


 「それは魔力だ!しかし今はアントに集中しろっ!さっきの動きだ!その後説明する!」

 「お、おうっ!」


 ハーデンは落ち着き、次のアントを同じように両断する。

 「良しっ!いい出来だ。次は魔法と剣技の両方を練習するぞ。」

 「えっ!?あ?」


 「今お前が感じている力は、魔力だ。お前には魔法適性がある。しかも・・・」

 俺はハーデンの魔力の質をよく感じ取る。


 「火属性だ!攻撃に特化した属性だ。剣士とも相性がいいぞ。お前は魔法剣士だ!」

 「ひ、火属性?ま、魔法?魔法剣士?俺が??」


 「驚くよな!?しかし、それを教えてくれたのはマインの魔法のお陰だ。MPを強制的に与えて貰わなければ、適性があるかどうかすら分からない。感謝しろ。」

 「お、あ、ありがとうな。」

 「え、いえ、どういたしまして。」


 微妙な空気感を自分で作ってしまったが、ここはダンジョン。

 先程の戦闘と魔力に、左の通路の先からスモールアントが向かって来ているのを索敵で感じる。


 「また左から来るぞ。少し時間がある。今度は左に避けてやってみろ。右利きのお前では剣の持ち方からすると、全く別の動きに感じる筈だ。」


 そう言うと、ハーデンはアントが現れるまでその動きを練習する。

 「えっ、あっ、こうかっ。」


 いきなり反対は難しいとは理解しながら、俺は現れたアントに3倍の重力の影縫いで様子をみる。

 すると、動きはいいが、振り下ろした剣はアントの後頭部にあたり絶命させられない。

 その後も最初から動きを作るも失敗。

 それだけ左右の差は大きい。

 5度目の動きでやっとアントの頭を両断。

 俺がその牙を回収し始めても、ハーデンは先程の動きを体に覚え込ませようと繰り返す。

 俺はその姿を微笑ましく眺めながら、マインには次の課題を与える。


 「俺が今やっている魔法。俺は影縫いと読んでいる。影で相手を押さえつけるんだ。」

 「俺が今までやっていた魔法、見てただろ?」

 「は、はい。でも何がなんだか。。。」


 「それでいい。先ずは俺の知る限り、闇魔法は影と相性がいい。それを体現してほしい。」

 「か、影ですか?」

 「そうだ。影だ。自分の影に魔力を同調させてみろ。」

 「は、はいっ!」

 「あ、アース、バインドっ!」


 俺は思わず、

 「え?」 

 マインの唱えた魔法が、俺の初期の影縫いを超え、重力1.5倍の影縫い位になっている!


 俺はその魔法に重力を3倍まで上乗せし、ハーデンに狩らせる。


 ハーデンがアントを狩った後、俺は左右の袈裟切りの他に、俺のいう身躱し切りを教える。ハーデンは次のアントが近づくまで、嬉しそうにその動きを何度も模倣する。


 その後、次々と現れるスモールアントに、マインがアースバインド。

 俺が重力3倍を上乗せ、ハーデンが4つの決め技の一つで屠る。


 「そろそろ、俺の魔法無しにするぞ。アントの動きが早くなるからな!」

 「お、おう!」

 「承知致しましたっ!」


 その後、2人の力だけでアントを倒していくのを確認する。

 倒したアントの牙を回収しながら。

 そして、2人で十数体倒した所で、マインの魔力量の限界を知り、2人に先に進むのを止めさせる。


 「ここらでいいだろう。帰るぞ。」

 「はい。」

 「お、おう。」


 ダンジョンを降り、ギルド建物に向かいながら話す。


 「二人には魔力量を上げる訓練をして貰いたい。特に一日の終わりには魔力切れで寝落ちする位にだ。」


 そう言うとハーデンが、

 「俺はずっとギルド宿舎で世話になってるが、寝落ちなんかしたら、金も装備も剥ぎ取られるぜっ」

 「わ、私も貴重品とお金は有料で預けてますが、寝落ちとなると。。。」

 「そうか。二人共、宿舎に問題があるようだな。ギルドに行く前に俺が世話になってる梨花亭に寄ってみよう。」


 三人で梨花亭で遅い昼食を食べながら、相談する。

 今日仕上がったもう一つの部屋にマインが泊まることに。

 ハーデンは俺の部屋で寝落ちしたのをカウチポテトに寝さすのを了解し、マインの月額と、ハーデンの居候金は不要と言われたが、月額の半分を収めることで納得して貰った。


 俺がその支払いを終えると、

 「あの、私はそのお金を。。。」

 「お、俺にはそんな金なんて、、、」


 「いや、いい。これは俺の投資だ。分かりにくいかもしれないが、お前たちが成長してくれれば俺に帰ってくる。その為の金だ。それにこの店でお金を使うことは、いずれ俺に帰ってくるんだ。」

 そこまで言うと、俺は店の奥にいる女将に、にやっと顔を向ける。

 すると、女将のマギーは更に大きなにやっとした顔をこちらに向ける。


 「ま、まぁ、お前たちは気にするな。」「それより今晩から毎日、魔力切れを起こして寝落ちするからな。覚悟しておけ。」


 俺は魔力切れを起こす位魔法を使い切ることが、魔力量を上げるのに一番良いことを話すと、二人はそれに納得した。

 その為に宿も取ってくれたと。


 「良しっ、食事が終わったなら、ギルドに報告だ。」

 「はいっ。」

 「おうっ。」


 俺は回収したアントの牙を受付に並べる。

 今回の受付もミイナだ。


 「え、こんな短時間にこんなに狩ったのですか!?」

 「あぁ、まあ3人だからな。」

 「え、そ、そうなのですね。スモールアントの牙が、1,2,3,・・・」


 「報酬はこの二人に払ってくれ。」

 「お、おいっ、本当に二人で分けてしまっていいのか?」

 「そう言っただろ。それでいい。後、宿を変えるから、預けている荷物も受け取っておけ。」

 「はい。」

 「おう。」


 俺は手続きしている二人を横目に、ミイナの隣で受け付けている女性に話しかける。

 「こいつを買い取って貰うことは可能か?」


 そういって鞄の黒穴出から、先日狩ったでかいアントの牙を取り出す。

 先程のスモールアントの牙のゆうに5倍は大きい。


 「えっ!こ、これって!?」

 そう言って驚く受付嬢に、俺は、人差し指を縦に、口の前に近づける。


 「あ、はい。確認致します。お待ち頂けますか。」

 「あぁ、頼む。」


 すると受付嬢は2階へと上がって行った。暫くして戻ってきた女性は、

 「あ、あの。ギルドマスターがお会いしたいと。」

 「そ、そうか。」


 そうなるよなぁーっと内心思う。

 俺は、ミイナとの受付が終わりそうな二人に向かい、


 「ちょっと話が長引きそうだ。ここで何か飲んでて待って貰えないか。」

 俺はそう言って、酒場のカウンターの女将らしき女性に、小銀貨2枚を渡し、

 「二人の好きなものを出してやってくれ。」

 「らっきぃー奢りだ!俺ブドウジュース!」

 「あ、ありがとうございます。私も同じもので。」


 俺はその言葉を聞いて安心し、受付嬢の案内する2階に付いて行く。

 受付嬢は2階に上がって直ぐの所に、一際豪華な扉を、こん、こん、こんとノックして女性が言う。


 「お連れしました。」

 中から、

 「入れっ。」


 そう言われ二人で部屋の中に入る。


 「お前が昨日突如現れた冒険者のひゅーごだな?俺はこの街のギルドマスターをしているムンハルドという。」

 俺は応える。

 「あぁ、ひゅうごと言う。」


 「そうか、俺は昨日たまたま1階の受付奥で、お前さんが若い冒険者に説法しているのを聞いて関心していたんだ。それに今朝のマギー服飾店さんからの手数料支払いの額に、今回のクイーンアントの牙の買い取りとは。お前、蛇神様を倒しておるのか?ダンジョンをクリアしてるのか?西の湖の麓まで行ったのか?」


 俺は矢継ぎ早に質問されるその内容に、ゆっくりと応える。

 「俺は、衛兵のダンには話したが、嘘か本当か解る部屋でだ。」

 「砦門にある真実の部屋を使ったんだな。」

 俺は気にせず続ける。


 「俺は84日前に突然この世界に放り出されて来た。ここから南の森にだ。そこで魔法を覚え、動物や魔物を狩って生きてきた。」

 「ま、まさかバルカの迷子とな・・・そ、それであの魔の森で生活してきたと??」


 「そうだ。そ、その、バルカの迷子というのは知らないが、その日突然、この世界に来たというのは本当だ。それで、ちょっとしたきっかけで大きな黒猫の魔物が仲間になり、ま、ここでいう従魔?契約した覚えはないし、俺より強い魔物を従魔って言うか分からないが、まあ、それで一緒に狩りをして生活して、それで俺が剣を習いたいと思ってたら、黒猫が妖精王?ってのを紹介してくれて、そいつに剣を習った。んで、その剣の師匠が祠の魔物を倒して来いって言うんで、大きな黒蛇を倒したんだ。あれには苦労した。なんかの試練みたいだったから俺一人でだ!それで得たのがこれだ!」


 俺は背中に回してあった黒虎徹を左に回し、腰に履いたまま柄の部分をギルマスに見せる。


 「これも一回では出なくてな、色々あって黒蛇は4回倒した。その後、そのまま階段を降りていくと、蜘蛛や蜥蜴や蝙蝠、んで最後にこの蟻を倒した所で引き上げた。っていう話だ。」


 「ど、ど、どこまでぶっ飛んでんだぁ。蛇神様どころでなく、黒魔虎様に伝説の妖精王様のお弟子様!!?い、いや、こ、これは・・」

 「あ、あの、俺、あなたがこの街でえらい人だと思って全部話したんだが、出来れば秘密にして貰えると助かるな・・・と。」


 「ひ、秘密にっ!?こんな事態、り、領主様に、い、いや国王様に・・・」

 「いや、俺領主とか国王とか、関わりたく無いんだよね。貴族社会とか疎くて。」

 「こ、この話をお、俺で留めておけと・・・」


 「俺、この世界でまったりと暮らすのが夢だったんだ!黒猫と一緒に。今、森に家も建ててるんだ。でも、昨日この街に来て、食事は美味しいし、人も暖かい。気に入ったんだ。気の合う仲間も出来たしな。ここで権力を振りかざされると森に隠れなきゃいけなくなる。もしかして森も捨てて別の場所とか。そんなの勿体ないし寂しい。」


 「そ、そうか、そんなに気に入って貰って嬉しい。しかも若手の育成も非常に助かる。が、しかし・・・」

 「あ、もし黙ってて貰ったことで立場が悪くなるなら、俺のせいにして貰って構わない。脅されてたとか?」


 「そんなことにはしない。だ、だがそこまで言うんだったら、俺が何とか留めておく。」

 「助かる!」

 「しかし、単体でダンジョンクリア、蛇神様を4度。ちょっとした手続きでA級、いやS級か?街の英雄が誕生ってな。」


 「い、いや、俺の事は内密にして貰いたいし、目立ちたくもないんだよな。」

 「そ、そうだよな。A級だと領主様、S級になると国王様に許可を頂く・・・」

 「尚更だね。」


 「お、俺の権限でなら、飛び級がC級までしか出来ないが、それで良いか?」

 「十分だ。無くても良い位。今のままで不自由してない。」


 「いや、ランクが上がるほど自由度は増す。不自由になるのは街に危機が訪れた時だけだ。C級以上の冒険者には街が危機に陥ると緊急招集が掛けられる。その位だ。ただ、お前がC級にならなくとも、お前の実力を知っている俺が、この街に危機が訪れたら、真っ先にお前の元に頭を地面に擦り付けてでもお願いに上がるがな。」


 「それは御免被りたい。ならC級昇格頂くよ。」

 「そうか、それなら直ぐに手続きをする。待っててくれ。」


 「なるべく早くお願いする。人を待たせてるのでな。」

 「そうだったな。それと買い取りはクイーンアントの牙のみでいいのか?」

 「今日はそれだけでいい。」


 「じゃあ大銀貨10枚の買い取りだが、それでいいか?」

 「十分だ。」


 「ならそちらも直ぐに手配しよう。待っててくれ。」

 「はい。」

 暫くして、大銀貨10枚と、銅色のカードを渡される。


 「これは綺麗な色のカードだな。」

 「C級から銅のカードだ、それまで全ての等級が青銅のカードだからな、綺麗だろ?」

 「あぁ。」


 「この先は銀、金、プラチナと上がって行く。」

 「ほう。それは楽しみだな。」


 「そうだろ?是非目指してほしい。」

 「分かった。考えておくよ。じゃあ、世話になったな。」

 「おう。若手の育成、宜しくな。」

 「おう。」


 酒場に続く階段を降りて行くと、

 「おぉ、かなり時間かかったな。説教か?」

 「お前じゃあるまいし。」


 俺はそう言って銅のカードを取り出す。

 「まあ!」

 「え?なんだこの綺麗なの!?」


 俺はハーデンの頭をポンとカードで叩き、

 「声が大きい。」

 「あたっ。」


 「俺は、訳あってC級に昇格した。」

 「まぁ!」

 「えぇーっ!」


 「大きい!」

 「あ、あぁ、悪い。」

 「それで、受けられる依頼の幅も広くなって、お前達をしごけるぞぉ。」


 「お、おうよっ。」

 「よ、よろしくお願いします。」


 「え?あ、いや、何でもない。」

 俺は軽い冗談のつもりだったのに、二人共の前向きな反応に驚く。


 「先ずは宿に向かう。荷物は持ったか?」

 「はい。」

 「おう。」


 梨花亭の宿に着き、3人でマインの部屋に行く。

 「悪いな女性の部屋に。」

 「いえ、今入ったばかりの部屋で、宿で、私の、なんて。」

 「まぁ、いいならいい。助かる。」


 「ここで行うのは瞑想だ。知ってるか?」

 「い、いえ、初めて聞きます。」

 「知らねぇ。」


 「そうか、瞑想とは魔法を操るのに、俺の知る限り最適な手法だ。」

 「精神統一とかですか?」

 「そう!その精神統一を図るのに、最も適したものなんだ。」


 「マインは瞑想を知らないでも精神統一や魔力を操れるなんて、かなり魔法のセンスがあるな。見込みあるぞ。」

 「い、いえ、私なんて、一族でも・・・」

 ん?と思ったが聞かなかったことにする。


 「ハーデンは魔力を感じるところからだ。俺もそこから始めたぞ。懐かしいな、今となっては。」

 「お、お前もそこからだったのか?お、俺はやるぞ!早く教えろ!」

 「まあ待て、この修行は心を落ち着かせるところから始める。そう興奮していると全く進まないぞ。」


 「そ、そうなのか。じゃあ・・・」

 「はっはっ、俺も訓練初日は興奮して、全く進まなかったんだがな。」

 「えぇ?お、お前もか!?」

 「あぁ、だがお前は先に進めた方がいいだろ?」

 「お、おうっ。」


 「じゃあ聞け、先ずは姿勢だ。俺を見て真似てくれ、足をこう、交差して、俺はこれを胡坐と呼んでいる。」

 二人を確かめる。


 「そうだ、それで背筋は伸ばす。そうだ。そして両手は楽にする。自然にだ。そう、そうやって力を抜く感じだ。」


 俺は二人を見る。マインはサマになっている。筋がいい。ハーデンは上半身をひくひくとさせている。


 「腰の背骨の所だけ少しだけ力を入れて、その姿勢を維持し、その他は全て力を抜くイメージだ。」

 ようやくハーデンの姿勢が落ち着き始める。


 「そこで軽く目を瞑り、鼻から大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。」

 二人も合わせて深く呼吸をする。


 「その呼吸に合わせて、頭の中で吸って、吐いてを唱える。何度も。」

 更に二人はゆっくりと深呼吸する。


 「そして体中が呼吸だけに、意識が呼吸だけになったら、体中にある魔力を感じるんだ。」


 「二人共出来る筈だ。マインは魔力の扱いに慣れてるし、ハーデンはさっきマインによって突然魔力が体内に入ってきた感覚がある筈だ。その魔力をおへその下辺り、俺は丹田と呼んでいる。そこに魔力が集まる様に意識する。」


 「マインは魔力が切れかけてるから、体中で魔力を増やすイメージも同時にだ。」

 「そして、自分の魔力以外にも、近くにある魔力を感じろ。これが出来ると魔物の気配を感じ取ることが出来るようになる。非常に大事な能力だ。」


 「お前が昨日やってたやつか?アントが何処からいつ来るか言い当てた?」

 「そうだ、だが、お前は黙って集中しろ。今ので魔力集めが途切れたぞ。」

 「お、おう。」


 「まあ、いい。丁度タイミングがいい。お前には体を動かせて貰いたい。」

 「は、はぁ?魔法の訓練じゃないのか?」


 「お前はまだ体力が有り余っているだろ?体がへとへとになる位の方が、魔力に集中しやすくなるんだ。まぁ、持論だがな。」


 「じゃあ何をするってんだ?」


 「まあ待て、マインは夕食まで瞑想と魔力回復に努めてくれ。この後の魔法訓練に必要だからな。それと前にも言ったが、魔力を増やして減らすことの繰り返しが、一番魔力量を増やせるんだ。」


 「はい。承知致しました。先程他人の魔力を感じろと仰った時、ひゅうごさんの魔力量とに雲泥の差を感じました。同時にそこまで魔力量は増やせるものなのだとも気付けました。努力します。」


 「努力は結構だが、俺に敬語やさん付けもいらない。早めに慣れてほしい。」

 「善処致します。」


 「い、いや、そういうところ。ま、まあいいか。」

 「ハーデン、表に出るぞ。」

 「お、おう。」


 下に降り、アギレンに裏庭の使用を確認する。

 「いいぞぉ、自由に使ってくれ。」

 「助かる。」


 俺はハーデンと裏庭に出ると、黒虎徹を抜いて構える。

 「お前にはこれを覚えて欲しい。」


 そう言って、師匠から初めて教えてもらった型を見せる。

 「しゅしゅしゅっしゅしゅしゅっ・・・」

 「これで1型だ。この2合を先ずは徹底的に動けるようになってくれ。」

 「これで1型?」


 「あぁ、そうだ。ほんの一部だ。今晩にも覚えて欲しい。」

 「そんなに?いったいいくつあるんだ?」

 「それはおいおいな。今の型の中にも今朝の動きあっただろ?」

 「あ、あぁ、うん。」


 「さぁ、おさらいだ。」

 俺は黒虎徹を納め、黒穴出から木刀を出す。


 「俺に掛かってこい。さっきの型でだ。」

 「あ、あぁ、ま、先ずは・・・」

 ハーデンの突きを右に躱し、右足に来る低い袈裟切りを足を引いて躱す、その次、次と型の動きを教えていく、一通り終わると、


 「もう一度、もっと早くだ。」

 10回同じ型を行ったところで、

 「夕食まで一人でやってみろ。」


 俺はハーデンにそういうと、マインの部屋に向かう。そして部屋の前で、

 「な、なんだこのあり得ないような静けさは?」


 扉を開けると、そこには全く音も人の気配もなく、ただ黒い大きな球体があった。

 「ま、マイン?そこにいるのか?」


 俺の問いに、急にその球体が消え、マインの姿が現れる。

 「はっ!わ、私、寝ちゃってた!?」


 マインが自力で生み出してた訳では無さそうだ。所謂トランス状態?俺はそう考えると、

 「それで?魔力は回復されたか?」

 聞くまでもなくマインの魔力量はかなり戻っている。


 「は、はい。えぇと、半分位まで回復出来てます。」

 「そうか、お前には本当に驚かされるな。お前に出会えて俺は幸運だ。」

 「えっ!?な、何ですか?突然。」


 「いや、そう思っただけだ。そこまで回復出来たなら、夕食前に少し俺に付き合って貰えないか。」

 「あ、はい。な、何を致しましょう?」


 「いや、付いて来て貰えるだけでいい。」

 下への階段を降り、梨花亭を出て、隣のマギー服飾店に入る。


 「いらっしゃいませ!あぁ、あんた!今日はどうしたの?」

 「昨日俺に見繕って貰ったように、この娘の服を見繕ってほしい。」

 「あいよっ!」


 「え、そ、そんな!?」

 「いいんだ。俺が贈りたいからなんだ。感謝の証に。」

 「わ、私、感謝されるようなことは何も・・・ここのお部屋代まで出して頂いたばかりなのに。」


 「お前は気付いていないだけで、俺にはとても役に立っている。先程部屋に入った時、お前は無意識に魔法を纏っていた。その魔法は俺が追い求めていたものなんだ。未だに俺一人の力では完成させたことのない魔法だ。」


 「そんな、ひゅうごさんが出来ない魔法を私が?」

 「そうだ。認識阻害。と俺は呼んでいる。俺はそれを完成させるのに、魔力量が足りないと思っていた。だが、お前が完成させられたという事は、魔力量の他に、完成させられる答えがある。ということを知れただけでもとても感謝している。」


 「そうなんですね。それは、もしかすると私の種族に関係しているのかも。」

 「そうなのか。気が向いたら話してくれ。私的なことだから話さなくても構わない。今あるヒントで俺自身で完成させるまでだ。」


 「まあ、この話はこれで終わりだ。それじゃあ、マギー、頼む。そう、一着は狩りにも行けるように動きやすいもの。一着は普段着使いできるもの。最後の一着は女性らしいものをお願いしたい。」


 「わ、私はそういったのを着ない・・・」

 「俺が贈りたいんだ。マインを一人の女性としてだ。着たいと思った時だけ着てくれればいい。何かのお祝いをするディナーとか。頼む。」


 「そ、そんな。そういうことなら、善処します。」

 「ははっ、またそれか。ま、まあいい。夕食前に風呂に入ってから集合な。」


 俺はマギーにその後をお願いすると、裏庭を見に行く。


 「どうだ?思ったように動けるようになったか?」

 「はぁ、はぁ、なったさ。今は2合目に相手が逆に避けた想定を練習し始めたところだ。」


 「やるなっ!それだよ!その気概だ!お前は成長する!俺の見込み通りだ!」

 俺はまだやりたそうなハーデンを止め、夕食前に風呂に入る様に急かす。


 「お、俺は風呂なんて入ったことはないっ!入れと言うならお前が入り方を教えろっ!」

 「そ、そうなのか。じ、じゃあ一緒に入るか?」

 「おうよ。」


 そう言い、お湯を沸かした風呂に一緒に入る。本当に何も知らないハーデンに、湯船に入る前に頭と体を洗うように言うが、洗剤類を全く用意していなかったことに気付く。


 俺は本来なら洗剤というものを使って洗うことを説明し、湯船の湯を湯桶に取ってハーデンに向ける。


 「硬く目を閉じろ。目にお湯が入るぞ。」

 「お、おうっ。」


 俺は座っているハーデンの頭から湯をゆっくりと掛け流す。本来ならここで頭用の洗剤を使う事を言い、もう一度流す。


 「頭の汚れが取れたなら、今度は体だ。」

 ここでも洗剤で落とした方が良い事は説明しながら、自分自身で埃や泥や汗を流す様に言う。

 

同時に自分も流しながら、手本を見せる。体を洗い終えた俺は、

 「よーし、ここからが入浴本番だ!」


 そう言って、ゆっくりと足から湯船に入り、体を沈める。それに習ってハーデンも入る。


 「お、おいっ、これは熱いぞっ!折角流した汗がまたどんどん出てくるぞっ!」

 俺は慌てず、目を瞑りながら、諭すように言う。


 「そう、それがいいんだ。風呂は。この汗を大量に流すと、今日の疲れが一気に取れるんだ。」


 そうゆっくりと言いながら、片目を開けてハーデンを見ると、汗が噴き出し、顔が真っ赤になり始めていて、俺は、

 「ハーデン、お前は一回湯船から出ろ。」


 俺はハーデンを湯船から出させ、冷たい水で布を絞り、ハーデンの額に当てる。


 「どうだ?気持ちいいだろ?これが風呂だ。まだ初めてだからゆっくり楽しめなかったかもしれないが、疲れは一気に吹き飛ぶぞ。」


 そう言って、もう一度水で布を絞り、今度はハーデンの顔全体に当てる。

 赤くなっていたハーデンの顔が、普通に戻っていくのを確認した俺は、湯船のお湯をたらいの中で水を混ぜ、ぬるいお湯位に調整したお湯をハーデンの体に掛ける。


 「ハーデン。これで大体の汗は流せたから、さっきの脱衣所で良く拭いて、着替えてくれ。」

 「わ、分かった。」

 そう言うハーデンをよそに、俺は自身の風呂を急いで終わらせて出る。


 「なら、着替えて食堂に向かうぞ。」

 「あいっ。」


 二人で梨花亭の奥のテーブルに腰掛けてると、後からマインがいつもとは違う装いで入ってくる。


 「おぉ、マイン、似合ってるな。」

 そう言う俺とは違い、ハーデンが、


 「ね、姉ーちゃん、どうしたんだ!?色気づいたんかっ!?」

 俺はハーデンの言葉を丸無視し、

 「これは普段着の方か?似合ってるぞ。」

 と褒める。


 「それと、お風呂は気持ちよかったか?」

 と言う俺の問いに、


 「え、あ、あの、お風呂というのが初めてで、そ、その・・・」

 「お前も初めてだったのか!?俺はひゅうごに教わって、とても気持ちよく過ごせたぞ!もう一度入りたい位だっ!」


 俺たちはマインが大きな湯船を沸かすような風呂を、桶一杯で済むような湯あみにしか使えなかった事を聞き、項垂れる。


 「わ、私も、ひゅうご様に、お風呂というものをお教え願いたいです。」


 驚いた俺は、言葉で説明はするけれど、ハーデンの様には教えられないことを言葉にすると、

 「私はマギーさんにも聞いて理解しました。私を女性として見てると言って下さり、女性に対しての贈り物も頂けていると。わ、私はそのことに全力でお返しがしたいのです!私にはそれ位しかないのです。私を貰ってもらいたいんですっ!」


 「わ、分かった。ぜ、善処する。が、ちょっとそれは気が早いぞ。あ、だが風呂は明日使い方を教える。勿論大きなタオルを用意する。それでいいか?」

 「は、はい。それでお願いします。」


 奥でマギーさんがげらげら笑っている。

 「はあぁーーっ、大人って難しいんだなぁーー。」

 そう言うハーデン。


 三人共にとっても非日常的な一日を過ごせた事に、色々な感想、意見を話し合い、表面上楽しみながらの夕食だが、俺には今晩の魔法訓練の事が念頭に有り、それを察してる二人にも微妙な空気が流れている。


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