この1200字は嘘じゃない
2000字ないくらいの短編小説です。
ぜひ楽しんでいただけると幸いです。
『「今から嫌いなものについての作文を書いてもらいます。これは素直に気持ちを書く練習です。」
そう先生が言った。
残暑が残る秋だった。
もうクラスのヒエラルキーが確定していた頃だった。
私は陽キャとも陰キャとも言えない位置で特定のグループに属すことはあまりなくフラフラとしていた。
そんな時に先生は作文の課題を出した。
「嫌いなもの」とてつもなくアバウトなお題である。
1000文字以上1200字以下という作文にしてはだいぶ長く、とてつもなくめんどくさい宿題の分類に入っている。
皆作文を書くという行為がめんどくさいのかそれほどまでに創造力が乏しいのかペンは動いていなかった。
自分の手元に目を移す。
気づけばペンが動いていた。
「私は人が嫌いだ。気を遣わなければいけないから」
そう書く自分を今日は素直な日だなーっと無意識に感じ淡々と消しゴムで書いた文字を消していく
この作文を見た人はきっと傷つくんだろうなそう容易に想像した。
だからこの思いを書き綴ることは
一生ないと知っていた。
やっぱり私は人が嫌いだ
気を遣わなければいけないから
この一連の話が私の性格をもろに表している
そう感じる。
周りがぼちぼちペンが動いているのを
ぼーっと見ていた
「どうしたの?お題決まんない?」
そう先生が私の目の前に来て聞いてきた。
「いやー結構思いついてるんですけどどれ書くか悩んでてー」
そう先生が私に時間を
使い過ぎないように端的に答える
「そうなの!
明後日の国語で提出だからゆっくり考えてね」
そう嬉しそうに答える先生を見てホッとする
「はい!作文書くの好きなので!」
そう顔に適当に引っ張ってきた笑顔を貼り付けてやり過ごす。
授業終わり、
クラスの奴らが会話してるのに自然に入り込む
「ねーお題何にするか決めたー?」
「一回紙にあいつ書いたw」
「それはやば過ぎーw」
「まじあいつやばいよなw」
出ました中身のない悪口。
どっちの味方にもつかない程度に話を合わしてゆく
こいつらの悪口は心底嫌いだ
テレビとかで芸人さんが相方に言う悪口には愛がある
とてつもない相手への尊重がある
それを見ているとただ悪口というその二文字を問答無用で嫌いにさせたクラスのやつが嫌になる
これも悪口かと言われるとまあそうだな
1人で淡々と嫌いなやつを書いてる方が性格悪いか。
つまんない悪口を言ってるやつのうしろをついていきながら帰路を辿る
私は悪口を言ってるやつを注意するようなできたやつではない
家に帰って手を洗ってお母さんの話に軽い相槌を打ってからベットに飛び込む
作文の紙が入ったカバンをぼーっと眺めながら
作文の題材の候補を頭に浮かべる
「ゴーヤとか勉強、税金、、、どれにしよ」
もう人が嫌いと正直に書く選択肢は
頭から弾いていた。
私は片付けが嫌いです。なぜなら、、、
淡々と書いていく
こういう時に正直に書けない自分が嫌いだ
こういう時に正直に書かせてくれない世界が嫌いだ
やっぱり人が嫌いだ。』
「ほら早く荷物まとめてー」
母のそんな声が聞こえた。
ちょうどいい感じの相槌を打っていく
私は今から一人暮らしが始まる。
ただ淡々と荷物をまとめていると作文が出てきた
「私の嫌いなもの」
おそらくボツ案だったのだろう。ぐちゃぐちゃになって教科書と教科書の間に挟まっていた。
1200字。
中学生の時の自分が綴ったであろう文を読んでいく
この時から捻くれ具合も考え方も変わってなくて
成長していないのか昔の自分が大人っぽいのかわからないが自分が書いたからわかる。
これは本音だ。確実に。
そして自分だからわかる。
この作文を提出なんてできなかったであろうし
この思いをどこかに出すこともできなかったであろう
そう考えるとやっぱり私は人が嫌いだ
この世界の制度が嫌いだ
何にも変わっていない自分が嫌いだ
LINEの通知音がなる。
このグループライン久々に動いたなー
そう思いながらきた文を読む。
「ねー知ってる?
あいつ彼氏できたらしいんだけどちょーブスでさー」
「それ見たまじやばいよねー」
よかった。こいつらはずっと幼稚なままだ
退会の文字をじーっと見つめるがそんなことができるはずもなく、無難な返信をして、強くスマホの電源を落とした。
作文をぐしゃぐしゃっと丸めて捨てた。
「今日の夜ご飯お寿司か焼肉どっちがいい?」
そうお兄ちゃんが聞いてきた
「何その2択!どっちでもちょー最高じゃん!」
ほんとは焼肉がいいなー
また気を使っちゃった
まあいっか。もう慣れたもんね。
私は人が嫌いだ。
気を使うから
私はこの世界が嫌いだ
素直になんてなれないから
でも次書く時は
もう少し素直になってもいいかも知れない
昔の自分はしっかり思いを未来に繋げてくれたから。
この1200字は嘘じゃなかったから。
読んで下さりありがとうございます!
時系列が分かりずらくてすみません。
改善点ですね。
他にも1話完結の話多く投稿しておりますのでお時間があればぜひ!