第五話 外側と内側
私が、彼に持たされたのはパンのかけらが詰まった袋だった。
「さあこれを彼らにあげるんだ。」
「皆さんこの人を紹介するよ。この人は私と一緒に食べ物を与える人だ。」
「おぉぉ君のような救世主がもう一人いたのか」
「ありがたや。ありがたや。」
私は彼らの異臭とみすぼらしさに、顔をしかめた。
だが、すぐさま彼は不快そうな表情をわたしにみせつけた。
私はパンのかけらが詰まった袋を彼らに与えた。
すると、彼はこう言った。
「技術が発達しても、こういう人たちをわざと外側に放置するなんて、最悪だろ。ごめんな、こんな世界で。」
彼は憐れむような、申し訳ないような顔をした。
私は、パンクズを、犬のようにむさぼる姿を見て、この世界への評価を180°変えた。
「さあ、行こうか」
彼は、ゆっくりと、街の方角をわざと見ないように歩き出し、ドローンを展開した。
また、彼はドアを完全自動で開けた。
「ただいま」
「おかえり」
あの人はお母さんらしき人だろうか。
「今日のご飯は、人手が増えた記念で、ガルバ肉の焼肉をあげるわねー」
食卓にはすでに焼肉が並べられていた。
すると、彼はお母さんが、目を離した隙に机に置いてある肉を何枚か盗んだ。
私はその光景を非常に称賛した。
やがて、焼肉パーティが開催された。
そういえば、父がいないということが気になった。
しかし、そう言った質問は、いつの世界でもモラル違反なのでやめておこう。
「やっぱり、原始的にフライパンで焼くのはうまいな」
フライパンが原始的?と、思ったが、この程度で驚くのはやめることにしよう。
「ええ。いまの装置だと、焼くのは早いけど、あまり火力がでないものね。」
「さあ、あなたもお食べ」
せっかくだから頂戴することにする。
ガルバ肉という見たことない名前の肉だ。
口でかみきり、味わう。
あまり、美味しくはないとは言わないが、何か物足りなかった。たぶん、前の世界にあった、牛と呼ばれるようなものの方が、油が乗っていて美味しかった気がする。
私はできるだけ美味しそうに見せるよう、口元だけ、あげることにした。
すると、彼が、私のことを見透かしたような目で見てきた。
私は、その顔が面白かったので、自然と笑みが溢れてきた。
すると、お母さんが、
「あれ、これは何かしら。とつぶやいた。」
そして、お母さんの形相が、みるみる恐ろしくなり、もう見てられないようになった。
彼は、私を寝室へ誘導するように、指で刺した。
私はもうこの現場にはいられないと思ったので、彼のいうままに、寝室に駆け込み、鍵を閉めた。
すると、壁の外から何か、叩く音が聞こえてきた。
彼が、何で怒られているかは、容易に想像できる。
しかし、彼はそれでへこたれないでほしかった。
彼には頑張って彼らを助けて、この世界を変えてほしいから。
私は歯磨きもせずに、耳と目を閉じて布団を被った。
多分夢には、彼らと、それを放置する恐ろしい世界の話がでてくるだろう。
しかし、私は決して逃げない。
彼がいる限り…