4 遺魂(いこん)
幸美が星空を眺めて天をあおぐと、夜風が吹き抜け冷水で濡らしたような、ひんやりする感触が彼女の耳たぶをなでた。
すると、
《――――過ちをしないで……》
「え? 何――――」
風に紛れて、かすれた声が駆け抜けた。
幸美は通り抜けた風の行き先を追って振り向く。
そこには――――赤い花柄の着物に身を包んだ少女の姿があった。
その姿は振り向き様、木の葉に乗って消えてしまった為、幸美は目の錯覚だと結論付けて自己完結させる。
幸美は屋上を見回して自分達以外に人がいないか、さりげなく探した。
錯覚とは言え夜の闇に人の気配が感じられるのは、気持ちの良いものではない。
落ち着きのない挙動を見せる彼女を朔が気にかける。
「幸美先輩。どうしたんですか?」
「ううん、何でもないよ」
それを聞いて安心した朔は再び望遠鏡のレンズを覗き込み、宇宙への思いにふけった。
幸美は不安な面持ちで振り替えると、通り抜けた夜風を思い返す。
《私と同じ過ちをしないで……》
確かにそう聞こえた……。
気のせいだよね?
夜の学校に女の人の声が聞こえるとか、オカルト入ってるし不気味過ぎる。
安心を得る為に幸美は、後輩の朔と親友の綾世の元へ歩み寄った。
***
DNAは生き物を作る設計図であると同時に先祖から後世へ生きた証を残す、メッセージツールでもある。
生きる為に何が不要で何が必要かを残し、自分達の先祖が何者だったか、後の世代へ痕跡を残す。
それなら、遺伝子には先祖達が生きて後世に残すべき、思いや感情が刻み混まれているのではないか?
過去の惨劇を繰り返させないよう、千樹村で生きたサチは現世へ産み落とした我子に、悲劇の遺伝子を植え付け、末裔が不幸の連載を絶ちきれるように計らったのかもしれない。
あくまでも仮説であり迷信でもあるのだが……。