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3 奇跡

 時は流れ"令和"へ。

 千樹村は近代の都市開発により、とうの昔に消滅していた。


 仙台市のとある高校。

 三寒四温は日差しの温もりを夜に残してくれたおかげで、最適な観測環境を用意してくれた。

 夜の屋上で天文部の三人は自由課題である、恒星の観察をしていた。

 少女は親友へ駆け寄る。


「ごめーん!」


「綾世。遅刻」


「だからゴメンって、そんな怖い顔しないで幸美」


「私の顔、そんなに怖い?」


「コワい、コワい!」


「そう……なら気をつけるけど、もしこれが逆の立場だったら綾世は私を許せる? 二人で映画を見る約束をして、私が遅刻したせいで、映画の最初を見逃したら、貴女は私に不満を抱かずに最後まで映画を見ることができるの?」


「だからゴメンって! ねぇ~朔ぅ~、助けてぇー。朔? 聞いてるのぉー!」


 望遠鏡にかじりつく少年は覗いていたレンズから離れ、あどけない顔で言った。


「あれ? 綾世先輩。いつ来たんですか?」


「ねぇ、私をイビる為にわざとやってる?」


「綾世、無駄。星を見ている時の朔は、世界が消えたみたいに周りが見えないから」


 綾世は両手を腰の後ろへ回して手を結ぶと、猫のような忍び足で朔へ近づき、彼の胸元へ潜り込むように望遠鏡のレンズを覗きこんだ。  

 幸美は遠目からその仕草を見て、眉をひきつらせる。

 朔は彼女の反応が待ちきれず口を挟む。


「どうですか、綾世先輩? 今日は雲が無いから、星が綺麗に見えますよ」


「う~ん……ただの光の点じゃん」


 それを聞いた幸美は綾世にバレないよう、視線を昇天させて呆れ顔を作った。

 そんな彼女に朔は根気よく、今見ているモノの素晴らしさを説く。


「そんなことないです。あの光の周りには引力や重力波があって、絶妙な力関係でバランスを保ち、それに引き合わされて月や岩の惑星が目に見えない道筋で、外周を飛行機よりも早い速度で回っています。宇宙では地球のような世界は奇跡なんです。その奇跡が、あの場所にあるかもしれないんですよ? それに、星の光が地球へ届くまでには数えきれない困難があるんです」


「困難?」


「宇宙空間に浮かぶアストロベルトは星の光を隠すほど岩石が密集していて、その隙間を通り抜けても、空間に漂うガスやチリで光が屈折して、全く別の方向へ進んでしまうかもしれない。その壁を越えてもブラックホールに吸い込まれて光が消滅してしまう可能性だってある。それだけじゃない、宇宙にはボイドという何百、何千光年も続く何も無い暗闇があって、その中を孤独に長い時間、ひたすら突き進まないとならない。それだけの困難を乗り越えて、ようやく、あの星の光は僕達へ会いに来てくれたんです」


「へ~、そう聞くと、星の光と出会えたのも奇跡なんだね」


「知っていますか? 鳥類や爬虫類は紫外線や赤外線が見えるヤツもいるので、僕たちからしたら光の点に見えても、人間以外には、花の形や金平糖のような光の塊に見えているかもしれません。もし引力や重力波が見える生き物がいたら、夜空は昼みたいに明るかったり、グリーンやピンク色に夜が見えるかもしれなくて……」


「ちょっと朔~、調子にノリ過ぎぃ~」


「す、すみません。ハハハ……」


 少年は銀河のように輝く瞳を満天の空へ向け、語り続けた。


「でも、やっぱり凄いですよ。僕たちは宇宙が作った奇跡の中で生きているんですから。僕達、三人が出会ったことも、何かの奇跡かもしれない」


 天真爛漫な彼の横顔を見て、幸美の心は人の温もりに触れた気持ちになり、愛おしさが言葉に変わる。


「朔はカワイイね」


「な、なんですか幸美先輩!? 恥ずかしいからやめて下さい!」


「あ、ごめん。嫌だったよね?」


「い、いえ、そういうわけじゃ」


 二人の間に割って入る綾世は、朔の頭に手を乗せ、歳の離れた子供をあやすような口調で話す。


「朔はカワイぃ、カワイぃ。朔ちゃ~ん、カワイでちゅねぇ~」


「もう! 綾世先輩、やめて下さい!?」


「アハハハ! 朔はからかいがいがあるな~」


 朔と綾世の微笑ましいやり取りに、幸美の胸は締め付けられる苦しさを覚えた。


 幸美は千樹村に生きていた朔とサチのひ孫。

 千樹村の惨劇は遺伝する。

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