冬の夜
三題噺もどき―ごひゃくきゅうじゅうご。
冷たい空気が鼻を刺す。
泣きたいわけでもないのに、ジワリと痛む鼻の奥が涙を誘う。
鼻をすすってなんとか耐えて見ても、痛みは消えずに居座る。
「……」
手の指先も寒さのせいかピリピリと痛む。さすってみたところで何も変わらなかった。
まだ、あかぎれとかをするようなことはないのだけど、寒い上に傷までできてしまうと大変そうだ。その状態で水仕事をしないといけないと考えると、労わるべきだと思ってしまう。
「……」
ほうと息を吐くと、白く染まり、夜の闇に溶けていく。
同時に口内が冷えてしまって、止めておけばよかったと後悔した。こういうのって案外楽しいのでついやってしまう。子供だな。
「……」
少し視線をあげると、澄んだ空気の中にいくつもの星が見える。
田舎はこういう時にいい景色が見れるから、いい。街灯が少ない上に、ここは住宅街なので尚更周囲は暗くて、星がよく見える。
「……」
天の川……という表現は正しくないのかな。あれは夏限定なのか?
川のように星々が連なり、流れている。
祖父母の家に行けばもっときれいに見えるんだけど。あの人が苦手なのであまり行きたくはないのだが、あそこの自然は心地のいいものばかりだ。
「……」
誰もが寝静まる夜。
昼夜逆転でもしてない限りはきっと深い眠りについているんだろう。
真夜中は空気が静かで心地がいい。冷たくて痛いのに、思わず息を吸ってしまう。
……遠くからサイレンが聞こえるが気のせいだろう。少し外れると店が立ち並んでいるからなぁ。あの辺は飲み屋があったりしてきっとまだ明るいのだろう。
「……」
なんとなくこんな時間に目が覚めてしまって。
そこから目が冴えて寝るに寝れずに、そのまま布団の中にでもいればよかったんだけど。
なんとなく。ほんとになんとなく。外の空気を吸いたくなって。
ひっそりと布団から出て、静かに家を出てきた。
両親は爆睡していたから気づかないだろうし(盛大ないびきが聞こえた)、妹二人はまぁ、そもそも寝ていない可能性もあるので気づいたかもしれないが、何も言うまい。誰に似たのか面倒ごとに巻き込まれるのを嫌うので。
「……」
誰もいない道を適当に歩いていく。
途中でキラキラと光る家を見つけた。
……この家は毎年この時期になると盛大に電飾をつけるからすごい。そんなお金どこから出てくるんだろう。我が家何てツリーすら出さないのに。
「……」
そういえばもうそんな時期なのか……。すっかり忘れていた。
子供たちが、大きな袋を持った赤い服のおじいさんを心待ちにする季節だ。
この間、スーパーに行ったときに「いい子にしていないとサンタさんこないよ」と言われている子供を見たのを思い出した。この時期だけの脅し文句だな。これもこれで風物詩みたいなものだろう。
「……」
その後は何だ。お年玉もらえないよとでも言うのかな。あまりに幼いとそれは分からないのかな……2月はあれだな。鬼が来るよで行ける。
保育園や幼稚園で鬼がきて泣いたりしたこともあるだろう。何が怖いか分からないままに泣いているのかもしれないけど。
「……」
しかしそうか……クリスマスか。
我が家ではとっくに現金に置き換わっているから忘れていたが。
プレゼントを心待ちにするあの気持ちは、今でも少し覚えている。
「……」
目が覚めて、枕元に置かれている袋を見て、心躍った。
開いて中身を見て、とても嬉しかったのを覚えている。
あの時にもらった財布を今でも使っていると言うと、母にいい加減変えたらと言われた。デザインが少し幼いからあれかもしれないが、まだまだ現役で使える綺麗さを保っている。こういうのもなんだが、物持ちはいい方なのだ。多分……小学三年生とかから使っている。
「……」
せっかくだし、今年は両親に何か買おうかな。
仕事を辞めたから、お金に余裕があるわけではないが……貯金はしているのでそれくらいのお金はあるはずだ。そんなに高いものは買えないが、ちょっとしたモノを贈るくらいは許されるだろう。
「……」
両親とはすれ違うことが多々あるが、嫌いというわけでもないのだ。大好きというわけでもないが。大切には思っている。恩返しのつもりもないが、何かを贈るのに理由はいらないだろう。理由が欲しいなら、クリスマスだから、でいい。
「……」
今度時間を見つけて探しに行くか。
お題:真夜中・心待ちにする・川