その三(五十六話のハクブン画伯たちの作画の様子)
第五十六話の後書きで予告していた通り、皆さまへの日頃の感謝を込めまして、
ハクブンたちのミミズ人形制作の過程をイラストにしてみました。
抜粋した文章と共にお楽しみいただければと思います。
挿絵非表示設定だと単なる抜粋になってしまいますのでご注意を……。
画像は七枚。すべて580pxの正角。
6枚はJPEGは高圧縮し、おまけの1枚は標準圧縮。7枚合計で85.5キロバイトです。
一応明記しておきますが、商用利用以外ならご利用OKです。
【第五十六話 抜粋】
確かこっちの世界で初めて買った靴下だ。
初めは白に近い薄いグレーだったのに 石鹸の黒っぽい色が移ったかのように、洗濯をするたびに、どんどん色が濃くなって、遂には親指の所に穴まで開いてしまった根性なしの買い物失敗品だ。
これなら惜しくはない。もちろん洗濯済みのヤツだ。
床に置いて伸ばしてみる。そして、ちょっと「くの字」の靴下の何処に目を描こうかと勘案する。
こういうのは直感、インスピレーションが大事なはずだ。
クラスメイトの松本君から、漫画家の人は原稿用の上質紙を見て、そこに描きたいものが思い浮かぶ。なんて話を聞いたことがある。
切り出した大理石と彫刻家※の漫画家バージョンだ。
そこで少し考えて、靴下のつま先の方に黒マジックで目を描いてみると色乗りが悪い。ぐりぐりとマジックを押し付ける。
すると黒くはなったものの、黒い点二つは目に見えない。
そこで黒丸を上下に伸ばそうとすると、靴下が伸びるのでしっかりと周りを押さえつつ、何度もなぞって黒くすると、コンセントの穴みたいになってしまった。
溜息をついた後、少し思案したところで、人形なんだから口が必要だと気付いた。
流れが来ているぞ。と思う。
そこで目のすぐ下に、スマイルマークが横に伸びたような口を……
やばい真っ直ぐにっ、と、曲げるっ。うん口だ。ふうっと一息吐く。
顔になった。
悪くは……。うん、悪くない。寧ろ良い。靴下が靴下人形に変身した。
しかし何と言うか、相変わらず地味だ。
オレは、地味顔の靴下人形を持ち上げて目の前にぶら下げて、
さて、どうしたものか? と、目を細めて考える。
「何しているの?」オレの背後からユーシンの声がした。
どうやら、起きてしまったらしい。
振り返ると、ユーシンは王子と一緒にオレの作品を見ていた。ちょっと恥ずかしい。
ユーシンはオレの靴下人形を見ると、「ちょっとペンとその靴下を貸してよ」と言うので、差し出す。
「これはね、こうだよ」と言って、ユーシンは靴下人形を床に置くと、目の周りを丸く囲み始めた。
そして完成したものをオレに見せてくれた。
凄い、目力が出た。これは本物の人形だ。天才だ。ユーシンはこっちの世界のダ・ヴィンチなのか? と思う。
「おー、ユーシンやるなっ」思わず声が出た。
サイエンさんやオウルさんも「こっちのほうが良いな」と、口々に誉めている。
ユーシンは満面の笑みを浮かべて得意げだ。
そこへ王子がユーシンにマジックを催促して、床の靴下へと屈み込んで、さらに何かを描き加えている。
そしてオレとユーシンに見せた靴下人形には、新たに目の上に三本づつの睫毛があった。
「おおーっ」と、思わずユーシンと共に声を上げた。ここにも天才が居た。
王子はオレ達の顔を「どう?」と聞く感じで見ている。
うん、王子の睫毛で顔に締まりが出来た。
靴下人形の睫毛が、軽くカールしているところがセレブっぽい。流石だ。と思う。
なかなかの面魂になった。
オレが「ダイゴ、睫毛はナイスアイデアだね」と言い、ユーシンが「うん、もっと良くなったね」と言うと、王子は、先程のユーシン同様に破顔している。
ケイトさんからも「さらに良くなりましたね」と王子への言葉があったが、
「しかし、これはミミズなのか?」と首を傾げながらオレに聞いてきた。
色は斑な灰色だけれど、手もないし足もない。でろりとしている。ミミズと言われれば、そうなのかも知れない。そうしようと思う。
そこで、軽く頷いてから、それが当然の事のように、しれっと返事をした。
「そうですよ」
そしてミミズと言えば胴体に縞模様が入っていたはずなので、王子からマジックを渡して貰い、縞模様を追加する。
縞模様を書くのは結構大変だ。裏と表で線がぴったり合わない。
左手の中に靴下を突っ込んで描こうと思って、やってみたが、生地が伸びて上手く描けないので、また床に置いて描く。
そして、描き込みながら「これはヤバいかなあ……」と思う。
そもそもミミズの口は頭の先端になるのだろうし、ミミズに目ってあるのだろうか※。とか思う。
折角ユーシンと王子の協力で、地味な靴下人形が格好良くなったのに、縞は描かないほうが良かったみたいだ。
でも途中で止めたらもっとヘンだろうからと、縞模様を増やし続けた。
オレを見ている皆の、クスクスという笑い声に、堪らずにオレも笑い出す。
疲労と、夜更かしのテンションのせいか、笑いが止まらなくなってしまった。
そこで皆の笑いが一層大きくなった。
皆が口々に、「おいおい、これはないぞ」とか「でも、味わいは、あるな……」などと呟いて、くくくと笑っている。
そんな中、オレは笑いの発作を抑えつつ、何とか描き上げた。靴下人形改めミミズ人形の完成だ。
そこでオレは息を整え、真顔を作って重々しく頷く。
「完成です。どうです? 生きているみたいでしょう?」と言って、
ミミズ人形に右手を入れて、皆にミミズの顔が向くように横に振って見せると、一瞬の間の後、笑いが弾けた。
「あ、穴から指が、指が出ちゃってるわよ」
ベルさんがそう言って、その自分の言葉に笑いが加速したのか、一番苦しそうだ。
王子とユーシンは肩を抱き合って笑っていた。
ケイトさんは下を向いて肩を震わせている。
シニフィエも居て、ぷるぷるしていた。
大成功だ。
オレは一つ頷いた後、すぽんとミミズ人形を右手から抜いて、マジックバッグからワイバーンの魔石を取り出し、完成したミミズ民業の中へと入れるが、据わりが悪い。あと二、三個は軽く入りそうだ。
そこで、薬草採取のために切り取って使っていたボロボロの上着の袖を、畳んで一つ入れて形を整える。
うん、顔の部分はばっちりだ。
そして魔石を入れ、最後にもう片方の袖を入れると格好がついた。
バランスが悪いせいで、残念ながら自立はせず、床の上に横たわるミミズ人形だが、良く見ると、立派なミミズのぬいぐるみに見えなくも無い。
目は横並びにした方が良かったかなあ。でも、立った時に目が横だとビジュアル的に問題か? うん、これで良かったはずだ。
そう、誰かが言っていたけれど、「味わいがあるな」などと自賛してみる。
そこへ、ケイトさんが「頭の穴が可哀相だからな」と、口をへの字にして笑いを堪えながら、紺色のリボンが付いた髪留めを渡してくれた。
そこで紐の部分を靴下の穴から押し込むと、リボンで穴がまったく見なくなった。早速のグレードアップだ。
皆に見せると、「リボンがカワイイな」とか「女の子だな」と言った声が、くすくす笑いの声と共に、途切れ途切れに聞こえてくるが、確か、ほとんどのミミズは雌雄同体だったはずだ。まあそれは良いか……
おまけ
これで登場人物の挿絵「なんか」も描いているんだぜ。
やっぱり挿絵があるとさ、物語の広がり、奥行きが増すんだよな。などと自慢出来ます。