その二(三十八話エピソード)うるしに注意
「第三十八話 宿場町まで」の山中での一幕となります。
ジョウンさんから、「小休憩は立ったままで」との注意があったので、座り込まずにそのまま休む。
サイエンさんが「座り込んでしまうと、次に立つのが億劫になる。少し水も飲んでおけよ。二、三分ですぐ出発だ」と続けて言った。
オレの近くに木があったので、右手を木に当てて、ふうと息を吐き出していると、ユーシンに「ハクブン、それ漆の木だよ」と言われた。
「へえ、そんな名前の木なのか」と思う。
オレが触っているのは幹が白っぽい木だ。葉っぱが尖っていないから、広葉樹だろう。
紅葉する木なのか、葉っぱがオレンジ色に染まりつつある。ちょっと変わった木だよなあ。と思っていると、「被れちゃうよ」とユーシン。
その言葉に、漆は触ると被れるという話を思い出し、はっとする。
右手の手の平を見ると赤い。真っ赤だ。顔が固まる。
それになんだか、痒い。
思わず手の平を掻こうとすると、「駄目だよ。触っちゃ駄目」と言われた。でも痒い。
ユーシンが「ちょっと待って」と言って、カバンから取り出した革水筒の水を、オレの被れた手の平にドボドボと掛けて、石鹸の欠片を擦りつけながら「この木の葉っぱでお尻を拭いたら、それは悲惨なことになるんだよ」と、ちょっと愉快そうに言う。
思わず想像してしまった。手の平で良かった。と思う。
「でもね、漆が平気な人も居るんだよね。ハクブンは敏感なのかもね」とのことだ。
たっぷりと水を掛けて貰った後、王子が布で手を拭いてくれた。
「ダイゴ、ユーシン、ありがとね」とお礼を言うと、二人は笑顔で答えてくれた。
しかし失敗だった。この木には注意しよう。と心に刻んだ。